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イッキューパイセン 銭湯の戦闘編

 城下町の銭湯。
 先の嵐での停電復旧作業に駆り出された人足たちが汗を流しに大挙しており、普段より熱気がこもっているように感じられる。

 そんな中、湯船で背をもたれかけながら足を大きく投げ出し、上機嫌で「残酷な天使のテーゼ」を歌っている大柄なオッサンが一人。

 角刈り!キラキラしたネックレス!背中には豪壮な龍と虎の彫り物!無い眉毛! 明らかにその筋の奴だ!ビビって誰も迷惑だとは言い出せない!

 「よーいっしょっと!」
 オッサンが勢いよく立ち上がると水面が波立ち周囲に勢いよく飛びちるが意に介す様子皆無!
 
 そのまま洗い場に向かうと、髪を洗っていた若い男性を突然突き飛ばす!
 「どけよ!!! そこにボトル置いてんだろ、俺その席使ってんだよ!」
 戸惑う若い男性!
 「いやあの...すんません知らなかったんで」
 「カンケーねーよさっさとどけ!」
 恫喝!

 若い男性が洗い場を譲ると、オッサンはどかっと座り「魂のルフラン」を歌いながらゴシゴシと頭を洗い始めた。
 わしゃわしゃし過ぎるので周囲にシャンプーの泡!
 見えないし見えてても気にしない!

 が、次の一瞬!
 
  ゴッ!

 オッサンが感じたのは謎の浮遊感!
 前後不覚の中、床のタイルに叩きつけられた痛みが半身を走る!
 彼以外の客は確かに目にしていた。
 新たに入ってきたスキンヘッドの男が、オッサンの風呂椅子を勢いよく蹴り飛ばしたのを。

 オッサンは上半身を起こし顔を拭い、狼藉の犯人を確認する。
 「なんだぁコラぁ! 喧嘩売ってんのかコラァ! やってやんぞコラァ!」

語彙力に乏しいコラァマンと化したオッサンを見下ろすは、風呂の熱気も冷え切るような視線。

 「どけ。そこに目印が書いてあるだろう、俺がその席を使っている」
 スキンヘッドが鏡のすぐ脇を指で指し示す。

 「はぁー!? 目印だぁ!? そんなもんどこにあるんだよー?見えねーなぁ! 見えね...グボォ!!!」

 オッサンの言葉が終らぬうちにスキンヘッドはその頭を鷲掴みにし、勢いよく鏡に叩きつける!
 「アバーッ!」 鏡と顔面粉砕! 顔面は最初から粉砕されてるようなものだが!

 「よーく見ろ、ここに黒い印がついているだろう」
 スキンヘッドは手を離さぬまま!オッサンの顔面を”印”と称する黒い点に近づけて問う!


 「ど...どう見てもただのカビじゃ...グワーッ!」
 再び鏡とディープキッス!

 「目印だよな?」
 「テメェこんなことして組が黙ってると...」
 「破-----ッ!!!」
 「グワーッ!!」
 三度目!

 「目印だな?」
 「ざけんなよこの野...」
 「破威矢ーーーーッ!!」
 「グワーッ!!」
  四度目!

 「目印だよな?」
 「アバー...目印!わかった!俺が悪かった!確かに目印だ!だからもう...」
 「イヤーッ!!」
 「グワーッ!!」
  五!

 「ではお前はどうすればいい イヤーッ!」
 「グワーッ!!」
  六!

 「そ...そちらさんのシマと知らずに失礼しました!どっか行きますんで!堪忍してくだせ...」
 「それでいい。イヤーッ!」
 スキンヘッドはオッサンの後頭部鷲掴みのまま腕を大きく振り上げ投げ飛ばす!
 「グワーッ!!!」
 オッサン湯けむり水平飛行!
 タイル画の富士山に思いきり突き刺さりピクリとも動かず!

 湯船が血で真っ赤に染まり、後からきた客たちが「おっ、今日は血の池地獄かwww」とはしゃぐのを、スキンヘッドはバツが悪そうに横目で見ながらフルーツ牛乳を一気飲みした。


【おわり】
 

 
 

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