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CULLEN THE TRANSPORTER EXTRA STAGE #2

前 回

 「冒険者?」「転生?」
 私の説明に合点がいかないと言った顔の2人。
 8等分したトマトバジルピザの取り分が4:2:2であることへの不満ではなさそうなのでとりあえず1切れ目をぱくり。
 
 ここはロネ高原の街道沿いにある冒険者用の酒場兼宿『梟の寝床亭』。
 あの後、衛視に荷馬車の件を届けなきゃいけないし、落ち着いた環境下で事情を説明する必要があったし、何よりこの2人
 「腹が減った」「CORONAはないのか」「ゆっくり食事でもして語り合いませんかレディ」「俺は轢かれた覚えはない」
などと激しく主張してきやがるので、ここに立ち寄ることになったというわけ。
 
 まぁ、反応を見る限りではどうやら”私の担当”で間違いないだろうけど、さて、どう説明をするべきやら...

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 さて、とりあえずは言葉が通じることに安心したわけだが、このカレンという子供を果たして信用していいものやら...
 ついさっき、主人を失った荷馬車を衛視らしき人物に引き渡しているのを見ていた限りでは、とても子供とは思えない交渉能力だった。
 何しろエルフだ、見た目が子供というだけで相当な年数を生きているのかもしれない。
 そうなれば「ギルドの依頼」でやってきたというのもある程度は合点がいく。しかし事態が事態、必要以上の警戒はよくないし必要以上に他人に身を委ねるのも禁物だ。

 禁物......なのだが...
 「やぁそこの美しいお嬢さん、このサラダをもう1皿お願いしても?」
 俺の隣ではエルフの王子がよくわからない生き物を使ったよくわからない名前のサラダを3回もおかわりしている。
  
 「落ち着いた場所で大まかな説明をしたい」というカレンの要望で街道沿いの居酒屋兼宿屋(1階が居酒屋になっているビジネスホテルみたいなものか)で食事を摂ることになったのだ。

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 私が彼らを目的の場所に送り届ける前に説明しておかなくてはならない点がいくつかある。
 『冒険者』がこの世界に喚ばれるシステム、なぜ彼らが喚ばれることになったのか、そして元の世界に帰る方法だ。
 彼らが『ドッペル』である以上、これらを知らない可能性は非常に高い。
 
 さっきから彼ら彼らと言っているが、なぜ荷が2人になったのかは私が聞きたいくらいだ。
 イマジナリフレンド?のエルフの王子とやらは同族に興味があるのか、私が考えをまとめようとしている間にも矢継ぎ早に話しかけてくる。

 「先ほどのまるで狩りの女神のような疾さ、そして美しさ...この出会いに乾杯!」
 仰々しくワインのグラスを掲げる。いつの間にか2本目の瓶を頼んでやがった。大事なこと説明するから喉を潤す程度にしておけと言っているのに!
 その横ではA・Kが麦酒のジョッキを空にしている。なんだこいつら。
 こっちは説明するためのカンペとか準備してるの!
 あなたたちのために!

 「狩りの女神でも何でもないわ。貴方たちの世界だと珍しいのかもしれないけど、私はちょっと駆けっこに自信があるだけのウッドエルフよ」
 淡々と答える。
 「ウッドエルフ!素晴らしい!」
 なにが素晴らしいのかよくわからないし、王子なのにうるさい。
 「なら私はさしずめロイヤルエルフというところかな!」
 
  ブフォッ!! 
  ゴホッ!ゴホゴホゴホッ! ケホッ...ケホッ...


 思わず口に含んでいた玉ねぎのスープを噴き出し盛大に咽る。
 お、おおおお前らは、ししし知らないだろーがな!
 ろ、ろろろろろロイヤルええええエルフってぇのは、王都にあるエルフ専用のしょ......しょしょしょ...娼館の名前だばかやろー!!(※1)

 「もしスカウトに遭ったらその人の名前と顔をよく覚えて私に教えてね」とシャーレからはきつく言われている。こわい。

 それはともかくとして、こんなデリカシーのない男どもにもきちんと説明できるよう、カレン・キューピッチはきちんと頭の中を整えた。

 「じゃあ、説明するのでまずはこれを見て」

 私は1枚の紙片をテーブルに置くと、細い木炭のペンを取り出した。

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 少女、カレン・キューピッチが紙片に書いた文字列に俺たち2人は驚きを隠せずにいた。
 あまりの驚きにジョッキを呷りジト目で睨まれる。
 隣で王子が「その顔もいい!」みたいなサムズアップしてるがシカトだ。

 そこに書かれていたのは...

   αk●z●e @ email .com(※2)

 まぎれもない俺自身のメールアドレスだったからだ。
 単なる異世界人がメールアドレスの存在を知っていて、しかも俺個人のものを把握しているなど通常ではありえない。 
 だがこれは、すなわち「彼女が何かしらの事情を知っている」という紛れもない証左にほかならない。

 「やっぱり、この名前に覚えがあるのね?」

 真剣な顔でカレンは問い、書き記したメアドを乱雑に塗りつぶすと、紙片をバラバラに千切ってジャケットのポケットに突っ込んだ。
 「覚えも何も...これは俺のメアd...」
 言いかけた俺の口を王子が咄嗟に塞ぎ耳打ちする。
 《落ち着け友よ、彼女は”名前”と言った。迂闊に我々の世界を持ち込むのは危険だ》
 それもそうだ、視線を合わせて小さく頷く。

 「この世界に冒険者として召喚されるには”真名”を神々に奉じて縁を繋ぐ必要があるの」
 メールアドレスを使って世界に召喚される?
 それじゃまるで...

 「この真名を使用して『冒険者』を目指したことはない、ということでいいのね?」
 ものすごく硬そうなバゲットをいとも簡単に食いちぎりながら彼女は言葉を続ける。
 華奢な見た目と割と整った顔立ちには似合わない豪快さだ。
 (そういうワイルドなところもいい)みたいな顔をしてるやつが横にいるが、当然のようにシカトだ。

 「ああそうだ。確かにそれは俺のメア...俺のものだが、こんなところにお呼ばれしたいと思ったことなんざ一度もない」
 はっきりと答えるとカレンの表情がより険しくなる。

 「そう、真名は1人に1つ。それが絶対的な世界の掟。でも...」
 「でも?」
 「私がここに向かう前日に、さっきの真名を奉じて冒険者となった者がいるとしたら?」
 
 ははぁん、大体のところはわかってきたぞ。
 「なるほど、アカウントの不正利用つーか、乗っ取りというか...どこのファック野郎だ」
 「あかうんと?」
 「あぁいやこっちの話だ。しかし腑に落ちねぇことがあるぞカレン」
 「なに?」
 「俺の真名...だっけか、それを利用した奴だけがこっちに来るのはわかる。俺たちまで呼ばれちまった理由がわからない」
 
 「そこが...ちょっと難しいのよねぇ...」
 カレンの表情が少し曇り、手にしたピザカッターを虚空に振り回す。
 自分の分だと主張していた4ピースはすでに彼女の胃の中だ。
 隣で(うーんそれもいい)みたいな顔をしている奴がちゃんと今までの話を聞いて理解しているのかが不安になってきた。

 「私も詳しいことは知らなくて」
 前置きしてカレンは続ける。

 「この世界に冒険者として喚ばれるときは、元の世界の貴方たちをそのまま転移させるんじゃなくて、魂の一部を利用してそっくりそのままの別存在を作り出すんですって」
 「つまり、ここにいる俺たちとは別に、元の世界の俺たちがちゃんと残っているということか!?」
 「そこが問題で、冒険者にはいずれ世界の危機を救う存在『英雄』を目指してもらうために、元の世界の魂の一部を借り受けて...」

 カレンが言葉に詰まる。
 「どうした?」
 「あーごめんなさい。えーっと...これを言えば伝わるって言われたんだけど...『ボツニューカン?を出すために精神の一部を利用してあばたー?を作っている』んだそうよ。これでわかる?」

 「「大体わかった」」
 俺と王子は同時に頷く。
 こいつは思ったよりずっと厄介なことになりそうだ。

【第2話終わり。第3話に続く】 

※1 お一人様2時間のコースで金貨30枚(30万円)はする高級娼館
※2 作品のため用意したメールアドレスであり実際のものではありません
 
 


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