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【第6回】風疹

執筆:伊藤 舞美
   はしもと小児科看護師長
   日本旅行医学会認定看護師/保育士養成学校講師
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風疹って、いったいどんな病気なの?

 風疹は、「3日はしか」ともいわれ、麻疹(はしか)と似たような感染症ですが、はしかよりも発熱や湿疹の程度はずっと軽くなります。また、はしかは空気感染する感染力の強い感染症ですが、風疹は飛沫感染で、通常のかぜウイルスと同じ程度の感染力になります。加えて風疹は、はしかと同様に春から初夏にかけて流行します。風疹は、はしかと似ているところが多く、「3日はしか」ともいわれる所以になっていますが、合併症や妊婦さんの感染で危険を伴うため、注意しなければならない感染症です。

「風疹」と「風しん」の表記の違いを知っていますか?

 風疹には、「風疹」と「風しん」の両方の表記があるのをご存知でしょうか? 「風疹」は医学の専門書に記載される難しい表記で、「風しん」は一般書にも記載されるやさしい表記、と思われがちですが、そうではありません。じつは、病気を意味するときは「風疹」、予防接種の名称であるときは「風しん」と表記します。なので、風疹の病気の解説は「わが国の風疹対策」などのように表記しますが、予防接種は「MR(麻しん風しん混合)ワクチン」と表記します。同様に、風疹だけでなく麻疹も、「麻疹」と「麻しん」の両方の表記を使用しています。

風疹の症状

 風疹は、風疹ウイルスの飛沫感染によって起こる急性の発熱性発疹症です。潜伏期間は2~3週間で、おもな症状は、発疹、発熱、リンパ節腫脹(くびのリンパ腺がはれる)です。症状は比較的軽く、3日程度で熱も下がります。ただし、風疹は、罹った人の5,000人に1人くらいの割合で、血小板減少性紫斑病(血を止める役割の血小板が少なくなり、小さく細い血管がやぶれて出血する病気)や脳症の合併症があるため、注意しなければならない感染症です。また、子どもが風疹に罹っても比較的軽症で治りますが、大人が罹ると、高熱や関節痛が続いたりして症状が重くなることがあります。

 妊婦さんは風疹にご用心!

 妊娠20週ころまでの妊婦さんが風疹ウイルスに感染すると、胎児も風疹ウイルスに感染して、障害をもった赤ちゃんが生まれる可能性があります。これを、先天性風疹症候群(CRS)といいます。先天性風疹症候群の赤ちゃんは、耳や目や心臓に障害をもって生まれてきます。この先天性風疹症候群は、なんとしても防ぎたい病気です。そのためには、女性やパートナーである男性は、女性が妊娠する前に予防接種をして、風疹の免疫をもつことが必要となります。

【先天性風疹症候群】
 ●耳の障害:難聴
 ●目の障害:白内障
 ●心臓の病気
 ●その他:精神運動発達遅滞など

風しんワクチンの紆余曲折

 風しんのワクチンが始まったころは、女子中学生が対象でした。これは、1977年の話です。その後、MMR(麻しん・おたふくかぜ・風しん混合)ワクチンが開発され、混合ワクチンで効率よく予防接種が進むのかと思われました。しかし、さまざまな事情により、1993年MMRワクチンが中止となります。そして、麻しんワクチン、風しんワクチンの単独ワクチンの時代が過ぎて、2005年、MR(麻しん・風しん混合)ワクチンが登場しました。2006年に、現在のように第1期が1歳、第2期が就学前の幼児と、2回接種が定着しました。風しんワクチンは、紆余曲折を経て、現在の形に落ち着いたのです。

 風しん第5期接種って何?

 前述のとおり、風しんワクチンが始まったのは、1970年代です。この時代は、女子中学生がワクチン接種の対象者でした。このころ、男子中学生は、風しんワクチンを接種していません。1970年代に男子中学生だった人は、現在、40~50歳くらいになっています。つまり、40~50歳くらいの男性は、風疹の抗体(免疫)をもっていない可能性があります。免疫をもっていない男性が風疹に罹って、妊婦さんに風疹をうつしてしまったら大変です。
 そこで、1962年4月2日から1979年4月1日生まれの男性を対象に、風しん第5期接種(定期接種)が始まりました。まずは、風しんの抗体検査を受けてから、抗体が少ない場合に限りワクチン接種を行います。この風しん第5期接種の制度は、2022年3月までの期間限定の制度です。父親や夫、その他身近に40~50歳の男性がいたならば、風しん第5期接種の制度を利用するように声をかけてください。

日本から風疹をなくそう!

 風疹および先天性風疹症候群は、保健所に届出が必要な病気です。風疹患者の数や、先天性風疹症候群の赤ちゃんの数は、日本が病気予防(予防接種など)に対してどれほどがんばっているかの指標となり、世界中からの評価の対象となっています。いずれもいまだゼロになっていないことを、はがゆく感じます。赤ちゃんが、先天性風疹症候群の重い後遺症で苦しむことがなくなるように、すべての人が予防接種で風しんの免疫をつけることが必要でしょう。

【表】麻しん風しん混合ワクチンの接種スケジュール

6回表

麻しん風しん混合ワクチン(ミールビック)
田辺三菱製薬ホームページより

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【著者プロフィール】
・東京都立駒込病院消化器外科病棟
・東京都立八王子小児病院(現・東京都立小児総合医療センター)NICU主任
・1999年より、医療法人まなと会はしもと小児科にオープニングスタッフとして勤務
・へるす出版の月刊誌『小児看護』にて、連載「外来で役立つ小児看護技術」を2014年より約3年半にわたり執筆
・所属学会:日本外来小児科学会/日本ワクチン学会/日本旅行医学会/日本在宅医学会

伊藤 舞美さん近著:クリニックナースがナビゲート 子ども外来ケア

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へるす出版月刊誌『小児看護』

☆2020年11月号:子どものがん薬物療法における曝露対策

☆2020年10月号:子どものEnd of Lifeと「こどもホスピス」

☆2020年9月号:病気や障害をともなう子どものきょうだい支援

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