栄光の名文たち 追悼かなざわいっせい氏 第3回

タイトルの由来は前回を見てください(という名の閲覧数稼ぎ)。

さて今回も故かなざわいっせい氏の功績を称えて、その文章を紹介していこうという企画です。

その前に、3月16日発売の週刊競馬ブックに朝日新聞の有吉正徳氏が追悼文を寄せていました。詳細は競馬ブックをご覧いただきたい。それでこの追悼文にも書いてあるように、日々チョロチョロとかなざわいっせい氏の書籍を読み返していますが、ふざけているようでしっかりと起承転結が成立しており、その切り替わりなんかもかなり絶妙です。落語好きな方はお分かりかと思いますが、話のマクラからスーッと本題に入っていく名人芸にも似たようなところがあり、これが見開き2ページの文章を一気に読ませる秘訣だったのかなと思います。

なお、この追悼文の最後に紹介されていますが、著作5冊のうちの3冊はサラブレッド血統センターのホームページから購入可能だそうです。

というわけで、今回は2作目『続・七転び八つアタリ』からのご紹介です。

わしもスミイチだった・・・・・・(本誌掲載 1995/7/29・30)

「スミイチ」というのは野球ファンの方にはおなじみかと思いますが、初回に1点だけ取って後は両チームゼロ更新で終わる、または最後にちょろっと1点が入って終わるという試合のことです。正直、試合展開としてはつまらない。で、ある人のあだ名がスミイチなのだが名前から取ったわけではなく、その人が高校生の時に弱小野球部に所属しておりポジションがピッチャーで、あるとき強豪相手にスミイチで勝ってしまいマグレだと馬鹿にされていたが、その後もホイホイ勝ち続けていき、最初の試合から1年後に再びその強豪とぶつかり今度はスミイチで負けてしまった、なのであだ名がスミイチというのが導入部分の概要です。そしてスミイチで負けてしまった試合内容がすごくて、初回の先頭打者の初球にいきなりホームランを食らったものの、あとはゼロで抑えたという正真正銘のスミイチといってもよい試合ですね。

ちなみに、スミイチというあだ名は本人の名前と無関係であるが、かなざわ氏の姉上が金沢玉子さんという方で、なんとキンタマというあだ名で呼ばれていたそうで、結婚とともにそのあだ名ともオサラバサヨウナラのはずが、結婚相手が親戚筋の金沢さんだったために、一生そのあだ名とオサラバできなかったとのことです。なんでそんな名前つけるのかと思うかもしれませんが、実際に私も息子の命名時にその辺のことまで考えていなかったので、意外に盲点かもしれませんね。ちなみに、うちの息子はとくに怪しげなあだ名が発生するような名前ではありません。どうでもいいけど。

それでそのスミイチさんが、どうせ負けるなら初回の初球に打たれて負けるより、最後の最後で打たれて負けた方が同じスミイチでも全然印象が違うと泣きながら酒を飲んでいたというところまでがスミイチ氏の話で、そこからかなざわ氏がどうせなら最後にドカンと勝って終わりたい、だから最終レースは万馬券を狙うんだと続きます。そして出ました、ジェット噴射騎手狙い撃ちですw 今回の狙いは根本騎手、いまは調教師として藤田菜七子騎手、丸山元気騎手、野中悠太郞騎手の師匠ですね。その根本騎手がジェット噴射して万馬券!となったのか?

ここで、起承転結の「転」の部分でなかなか感動的な話が来ているのが、今回最大の読みどころです。すなわち、かなざわ氏が行きつけだったスナックにかわいい女性がいて、常連達は日曜日にボーリングに行こう、海に行こうと彼女を誘っては出かけて盛り上がっていたそうですが、常連なんだがいつも端っこでひとり静かに飲んでいるお客さんがいたのだとか。その日もその人がカウンターの隅で飲んでいるのを尻目にその女性と海に行くという話で盛り上がっていたところ、そのお客さんがお会計ということになった。周囲は酔っ払いついでにそのお客さんからもカンパしてもらおうなどと騒いでいた時に一瞬だけ静かになる時があり、そこでそのお客さんがかわいい女性に「結婚してください」と言ったというのです。度肝を抜かれる周囲。そしてなんと、半年後に本当に結婚してしまったそうです。後から聞いたら、いつも仲間に入れてもらいたかったが誰も声を掛けてくれず寂しい思いをしていた、そして自分も海に行きたいと会計時に告げようとしたものの、緊張してしまいつい口走ったのがさっきのセリフというわけです。

その男性よろしく、ジェット噴射の根本騎手も土日で1回のみの騎乗、前夜から調整ルームに入り、そこから出番の最終レースまで溜めに溜めたエネルギーを一気に解放し万馬券をもたらしてくれるはず!という意気込みの反面、結果はご想像のとおりw

そして、その日の馬券は最初の1レースのみ当たり、あとはハズレ。自分もスミイチだったというオチでした。

今回は長くなってしまいましたね。ただの要約文ではかなざわ氏のように一気に読ませるのも難しいと思うので、次回はしっかりと要約します。そして微力ながらもかなざわ氏の書籍を注文しようという人たちを増やし、その結果、残りの単行本化していない原稿も単行本化して儲けようという気を出版社に起こさせる、というムーヴメント形成をひそかに狙っているワシなのであった!クハハア!(かなざわいっせい風)

(了)

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