ソフトバンク(SBKK)によるヤフー連結子会社化の租税回避否認リスクを検証してみた

note第二弾もまたまたソフトバンク関係です。

昨日、ソフトバンクグループ(SBG)の通信事業子会社であるソフトバンク(SBKK)がヤフーを連結子会社化すると発表しました。ヤフーも元々SBGの連結子会社ですが、今回、ヤフーによる新株発行増資と自己株TOBにより、SBKKの傘下の子会社に再編するようです。

この一連の再編はSBG(正確には連結納税子会社のソフトバンクグループジャパン(SBGJ))に大きな税メリットが生じるスキームなのですが、これが租税回避行為と認定されて否認されるリスクはどうなのか、気になるので少し検証してみたいと思います。

1.ヤフー再編の概要

再編概要の説明はごく簡潔にいきましょう。

とりあえずSBGの発表資料から図解を抜粋します。

現状(19/3末)で、ヤフーはSBGの100%子会社であるSBGJが36.1%、SBGJが66.5%出資する通信子会社SBKK経由で12.1%保有しています。議決権ベースで48.2%で、実質支配基準により会計上ヤフーを連結しています。

今回、SBGJ保有株(36.1%)についてはヤフーが自己株TOBにより取得(単価287円×1834百万株=5265億円)し、同時にヤフーの新株発行増資をSBKKが引き受けます(単価302円×1511百万株=4565億円)。尚、自己株TOBに他の株主が応募した場合は比例案分での買取になりますが、少数株主が応募しないようディスカウント価格になっています。

結果、ヤフーに対しSBKKが直接44.6%出資し、SBKKの直接連結子会社に再編されることになります。

2.本再編の会計・税務上の取扱い

まず、本再編の会計上の取扱いです。

SBGとしては再編前後でヤフーに対する支配を継続しますが、SBKK経由の間接保有となることで持分比率は44.1%から29.7%に減少します。この持分変動は資本取引として処理されます。

SBKKとしては、共通支配下の取引に該当することから、取得したヤフーについては親会社SBGの連結上の簿価を引き継ぎます。従い、ヤフーに係るのれんは会計上認識されず、のれん相当は資本剰余金から控除されるものと思います。

次に、税務上の取扱いです。

SBGはヤフー株式を自己株取得にてヤフーに譲渡することになりますが、この際、ヤフーから受領する対価の内、ヤフーの税務上の資本金等の額を超える部分についてはみなし配当になります。SBGはヤフーに対して1/3超の出資がありますので、このみなし配当は非課税です。一方、ヤフー株式の簿価と資本金等の額の差額については株式譲渡損益として課税されます。

ヤフーの税務上の資本金等の額は、ざっくり「会計上の資本金・資本準備金÷発行済株式総数」で推定してみると、1株当り僅か2.2円くらいになります。つまり、自己株取得対価5265億円のほぼ全額がみなし配当で非課税になります。一方、ヤフー株式の簿価の推定までは控えますが、ヤフー株式の簿価は税務上損に落ちることになります。素晴らしい節税メリットですね。このため、SBGJはSBKKへの株式譲渡ではなく、自己株TOBへの応募という手法を選択したものと思われます。

尚、SBGJとしては、時価でヤフー株式を取得するだけですが、それにより、出資比率が1/3を超えることになります。従い、これまで保有していた12.1%分については、従前、配当の益金不算入のメリットは50%しか享受できていなかったところ、この再編により100%享受できることになります。

ということで、本件は、税務的には大きなメリットがある再編と言えそうです。

3. 租税回避否認リスクの検証

ようやく本題です。

何となく直観的に、この再編はヤフー株式をSBGJからSBKKに移管するだけなのに、わざわざ自己株TOBと増資を組合わせた複雑な取引をしており、それによってSBGにおけるみなし配当の非課税のメリットが実現している感じもするわけですが、この再編が租税回避行為として否認されるリスクについて検証してみましょう。

まずヤフー株を譲渡するSBGJはSBGの100%子会社なので、税務上、同族会社に該当します。従い、形式的に、同族会社の行為計算否認規定(法法132条)の適用対象となり得ます。

有名なヤフー・IDCF事件では、組織再編に係る行為計算否認規定(法法132条の2)が適用されましたが、本件は組織再編ではないので、同族会社でいきましょう。

この行為計算否認規定は、要するに、法人税を不当に減少させる取引を否認して更正できるというものです。

この「不当性」については様々な裁判例や学説があって、濫用基準だの経済合理性基準だの独立企業間取引基準だのあるわけですが、とにかくシンプルに言うと、ポイントは「行為又は計算が不自然(異常ないし変則的)で、且つ、税負担の軽減を上回るような正当な事業目的がないこと」に尽きます(と断言してしまうw)。

これに今回のヤフーの再編を当てはめてみます。

今回の再編は、SBGJがSBKKに直接株式譲渡すればよいところ、わざわざ自己株TOBと新株発行という手間とコストが掛かる二段階の手続きとしている点、更には、SBGJはSBKKに直接株式譲渡する場合(=SBKKの買値)よりも低い価格でTOBに応じている点で、不自然であることは否めないように感じられます。

そもそも、ヤフーの株主還元策である自己株取得とSBKKによる子会社化を目的とした増資引き受けは当事者の異なる別個の取引なので、直接株式譲渡と比較して「不自然」と評価すべきではないという主張も考えられますが、本件の当事者は全てSBGグループの支配下にあり、自己株取得も含めて初めてSBKKによる子会社化が実現することを考えると、これらはSBKKによる子会社化を目的とした一連の取引であり、直接株式譲渡と比較することには十分合理性があると思います。

また、例えば、TOB規制で直接株式譲渡ができないという事情があればこの複雑な取引にせざるを得ない十分な理由になるかも知れませんが、親子間での取引はTOB規制の対象外なので、この説明も通用しません。

では、このスキームにすることでSBGが得られる税負担軽減のメリット以上にこのスキームを正当化できる程度の事業目的があるのでしょうか。重要なのは、この再編全体(SBKKによるヤフー子会社化)の事業目的ではなく、敢えて直接株式譲渡とは異なる不自然なスキームを採用する事業目的が問われる点です。

この点、ヤフーの開示資料の中に直接的な記載があるので抜粋します。(※当社=ヤフー)

本取引のスキームについては、SBKKが当社普通株式をSBGJから直接取得すればSBKKによる当社の連結子会社化を実現できるとの指摘もあり得るものの、当社としては、例えば、本第三者割当増資と並行して、本第三者割当増資で発行予定の株数を上回る数の自己株式の取得を行うことにより、少数株主の株主価値の希薄化を生じさせず、むしろ濃縮化をもたらすなど、本取引には、SBKKによるSBCJからの直接取得では実現できない効果があると考えております。

少し意訳しますと、「増資株数を上回る自己株取得を行うことで、少数株主の株主価値に希薄化を生じさせず、むしろ濃縮化をもたらす点」を「直接株式譲渡では実現できない効果」として挙げているのです(尚、「など」とされていますが、記載されいているのはこの一点のみ)。

これは非常に示唆的です。

おそらくですが、今回、(SBKKによる連結はできる範囲で)敢えて自己株取得数より増資株数を少なくしたのは、この事業目的を創出する狙いがあったのではないでしょうか。つまり、全体として発行済株式数を減らそうと思うと、直接株式譲渡だけでは実現できず、いずれにせよ自己株取得を組み合わせざるを得ないので、自己株TOB+増資スキームの「不自然性」は確かに相当程度減殺されるわけです。もちろん、この増資と自己株取得の株式数の差も、比率でみると僅かではありますが、金額ベースでは700億円もあり、決して無視できる小さなものではありません。

但し、これを正当な理由として主張できるのはあくまでヤフーにとっての話であり、わざわざSBGがディスカウント価格での譲渡に応じる(=ヤフーやSBKKの少数株主に対して経済的利益を供与する)正当な理由には必ずしもなりません。また、通常の自己株取得と自己株TOBでは手間やコスト面での違いも小さくなく、敢えてTOBを採用した不自然さは依然として残るようにも感じられます。

ということで、結論としては、なかなかグレーな感じと思います。(はい、中途半端でごめんなさい)

否認するとしても、「直接株式譲渡+自己株取得」という行為に引き直すとするとちょっとしんどい気もしますし、一方で、単純にみなし配当の益金不算入の規定の適用のみを否定できるのか、どうなんでしょう。

ということで、今回はここまでです。

もし万が一調査で否認されるような事態がおきたら、その時はプレスリリースされると思いますが、早くても1年後ですかね。

(追記)若干の考察

少し追記しておきます(5月13日)。

本件は、ヤフー株の売主が同族会社であるSBGJなのですが、もし仮に、ヤフー株式の保有者がSBG本体だった場合、税務リスクはどうだったのでしょう。

まず、SBGは同族会社ではないので、同族会社の行為計算否認規定は適用できません。また上述の通り、組織再編の行為計算否認規定も適用できません。

1つの可能性は、SBGは連結納税を採用しているので、連結法人の行為計算否認規定(法法132条の3)の適用でしょうか。しかし、本件スキームは連結納税制度とは全く無関係なので、ヤフー・IDCF事件最高裁判決と同様に解釈すると「連結納税の規定の濫用」には当たらず、少しハードルが高いと思います。ただ、条文上は、あくまで適用対象が「連結法人」に限定されているだけなので、議論はあるかも知れません。

最後は、外税控除事件最高裁判決のように明文の否認規定なしで否認するかですが、本件が税法を「著しく」濫用してるのかというと、これはかなりハードルが高いと思います。

以上からすると、もしかすると本件は、ヤフー株式をSBGJに保有させていたという点が明暗を分けた、なんてこともあるかも知れませんね。

ま、そもそも否認かもわかりませんが。




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