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令和4年度税制改正大綱 -大注目のグループ通算制度・SBG税制等の改正の徹底考察-

一昨日、自民党の令和4年度税制改正大綱が公表されました。以前から本noteでも指摘していたグループ通算制度の投資簿価修正やSBG税制等の大きな問題点の改正も織り込まれており、小粒ながら嬉しいとともに非常に重要なものとなっています。

ということで、それらの改正内容について、せっかくなので米国の税制との比較等も交えつつ解説してみたいと思います。

1. グループ通算制度の投資簿価修正の改正

一点目はグループ通算制度の投資簿価修正です。

グループ通算制度では投資簿価修正の考え方が連結納税制度から大幅に変更となり、通算子法人株式の離脱時の投資簿価は離脱時の子法人の税務上の純資産簿価とされることとなりました。つまりは、アウトサイドベーシスをインサイドベーシスに有無を言わせず一致させるということで、適格合併の処理と整合させるという理屈はわからなくはないものの、株式買収に際してのプレミアム相当が永久に損金算入できずに消滅してしまうという問題がありました。

これについては以前こちらに纏めています。

これについて、今回の税制改正大綱で真正面からの改善措置が織り込まれています。

ポイントをざっくり纏めると、以下の通りです。

  • 通算子法人株式の資産調整勘定等対応金額を、離脱時の子法人投資簿価に加算。

  • 資産調整勘定等対応金額は、通算開始・加入前に時価取得した子法人株式の取得額の内、非適格合併だった場合に資産調整勘定又は負債調整勘定に相当する金額。

  • 段階取得の場合は各取得時の資産調整勘定と取得割合から計算。

  • 主要な事業の継続が見込まれず離脱時時価評価の対象となる子法人を除く。

  • 通算子法人が非適格合併等の被合併法人等となる場合はゼロとする。

  • 連結納税からグループ通算に移行した場合の連結開始・加入子法人も対象。

  • 離脱時の明細添付及び書類保存義務あり。


さすがに資産調整勘定等対応金額(買収時プレミアム)の償却まではさせてくれませんが、株式譲渡時に投資簿価に加算させてくれるということで、ほぼ満額回答ではないかと思います。

少し論点や気になる点を挙げておきましょう。

(1)資産の時価評価が必要

非適格合併の場合に資産調整勘定になっていた金額を算定するということは、その前提として、子法人の保有する資産(狭義の営業権を含む)の時価評価が必要になると思われます。その上で、子法人株式の時価による取得価額が時価純資産を上回る部分が資産調整勘定になりますので。但し、資産調整勘定を除く資産の時価評価差額について税務上何かしらの処理がなされることはないものと思われます。もちろん、土地等の特定の時価評価資産に含み益があったとしても、それは投資簿価修正への加算は認められないと思われます。

(2)買収した通算子法人が持株会社の場合

上記に関連して特に注意が必要なのは、買収した通算子法人が持株会社で、国内・国外の子会社(孫会社)への投資を通じて事業を行なっている場合です。この場合、その投資(孫会社)に係るプレミアム部分はあくまで関係会社株式の含み益出あり、資産調整勘定等対応金額に含めることはできないと思われる点です。孫会社が100%未満国内子会社や外国子会社はもちろんですが、通算法人となる国内100%子会社(孫会社)がある場合についての取扱いも明らかではありません。過去に当該孫会社を時価取得した時点での資産調整勘定等対応金額を考慮できるのかも知れませんが、通算子法人株式の時価取得に係るプレミアムを割り振ることはできない可能性が高いように思われます。

(3)段階取得の場合への対応

今回の改正では段階取得の場合についても手当されており、その段階取得ごとの資産調整勘定等対応金額を計算し、取得株式数割合に応じて配分計算するイメージのようです。尚、資産調整勘定等対応金額を計算するのは時価取得の場合のみなので、例えば、90%を株式買収して、残り10%を適格株式交換で取得したとすれば、最初の90%分についてのみ資産調整勘定等対応金額を算定するものと思われます。

(4)プレミアムがマイナスの場合

「資産調整勘定等対応金額を加算することができる」とされていることからすると、プレミアムがマイナスの場合のいわば負債調整勘定等対応金額を減算することは求められないと思われます。少なくとも明細を添付しなければいいはずでしょう。負債調整勘定に触れられているのは、段階取得の際に、一部、プレミアムがマイナスの取得が含まれている場合を想定したものではないかと思います。

(5)未払法人税のグロスアップ

細かいですが、非適格合併においては、合併にかかる譲渡益に対する未払い法人税・住民税が移転する負債に含まれる設計のため、その法人税分だけ譲渡益がグロスアップします。この場合、見合いの資産調整勘定もグロスアップベースで算定してよいのか、という論点がありそうです。例えば、株式取得額150、子法人純資産100とした場合に、税前の譲渡益は50÷(1ー法人税率30%)=70とし、70×法人税率30%=20の未払法人税が引き継ぐ負債と扱われ、結果、税後のプレミアムが50になるというイメージです。これにより、株式取得価額150ー未払法人税を含めた子会社純資産80=70が資産調整勘定等対応金額とされるのか、ですね。

(6)過去の買収時プレミアムをどう算定するのか

今回の措置は、連結納税からグループ通算に移行している場合にも適用されるのはよいのですが、段階取得も含めて、過去の株式取得時点での資産調整勘定等対応金額を計算し、明細添付することが要件になっています。はるか昔に買収したような案件の場合、その当時の資産の時価評価の情報を得られるのか、実務上どこまでの対応が必要なのかは重要な論点になりそうです。

(7)非適格合併等で子法人が消滅する場合等の租税回避防止規定

今回の措置による租税回避防止規定として、通算子法人が非適格合併等の被合併法人等になる場合は調整額がゼロになります。このコンセプトは首肯できるものです。例えば、純資産100のA社の株式を150で買収し、A社が事業譲渡により全事業を売却して150の現金を得た場合、投資簿価は純資産簿価150にプレミアム相当の50を加算した200となり、純資産150(現金のみ保有)で売却すれば50の損失が取れてしまい(税金やグロスアップは考慮外)、実質的に非課税でプレミアムを実現できてしまいます。つまり、これはいわゆる営業権的なプレミアムに限らず、買収時の資産の含み益を実現させることでnon-economicな損失を創れてしまうわけです。

これは連結納税における投資簿価修正でも同様の問題があり、昔は基本的に連結加入時に営業権を含めて資産の時価評価を求める制度だったので問題がなかったところ、時価評価の例外が拡大したことで問題が顕在化していたのではないかと思われます。例えば米国では、このような資産の含み益の実現による租税回避を防止するために、連結子法人の株式譲渡損が発生した場合に、プラスの投資簿価修正を、子法人の純資産を下回らない範囲で減額させるUnified loss ruleというものがあります。

尚、長くなりましたが、今回のこの措置は、通算子法人が非適格合併等の被合併法人等だった場合とされ、非適格合併には限定されておらず、おそらく非適格分割や事業譲渡も含まれるのではないかと思われます。しかし、事業のごく一部や、或いは、プレミアム(含み益)のない事業の譲渡があっただけでも、その通算子法人の資産調整勘定等対応金額が形式的にゼロとされてしまうのか、大変気になるところです。

(8)離脱時の資産の時価評価対象となる法人の除外規定

こちらは租税回避防止とまでは言えませんが、不合理な結果となるケースを排除するものです。グループ離脱に際し、その主要な事業の継続が見込まれない子法人は、離脱に際して資産の時価評価損益を認識します。今回、これと同時に、時価評価対象資産に営業権を含める(簿価1,000万円未満でも対象外としない)改正も入っており、つまり、子法人側で(広義の)営業権も時価評価しますので、自動的に親法人側での投資簿価は、通常の投資簿価修正によりこの営業権を含んだ純資産になるわけですね。継続が見込まれない事業の営業権というのも微妙ではありますが、いずれにせよ重複は排除されることになります。

2. SBG対策税制の改正

次にSBG対策税制に移ります。本税制は、ご存知、ソフトバンクグループ(SBG)がARMの再編で行った節税スキームを埋める目的で令和2年度に導入されたものです。

コンセプトとしては、子会社からの非課税の受取配当金の内、子会社の支配獲得後の利益剰余金(RE)を超える部分について、子会社に対する投資簿価から減額する(将来の株式譲渡益を増加させる)ものです。但し、この税制は様々な大きな問題を含んでいるのですが、その辺りの詳細については是非こちらをご覧ください。

これについて、今回、以下の通り問題点の一部が是正されるようです(かなり規定が複雑なのでざっくりベースです)。

  • 対象配当直前事業年度末から対象配当までの期間の期中増加REを、取得後REに加算できることとする。その場合、同時に特定支配前の期中増加REを減算する必要あり。また、期中増加REを証明する書類の保存が必要。

  • 子会社が孫会社から配当を受け取っている場合の適用回避防止規定について、孫法人の特定支配日が10年以内でも、設立時から継続保有している場合等を対象外とする。

こちらも少し論点を記載します。

(1)期中増加REの算定

まず、期中増加REを取得後REに含められるというのは、当たり前とは思いますが、非常に重要な改正です。持株会社が期中で子会社を売却して得た利益を配当したような場合が典型です。但し、この期中増加REをどのように算定するのかはよく分かりません。臨時決算のような手続きまでは必要ないと信じたいですが、何かしら月次決算資料を用いるのでしょうか。また、期中増加REを加算する場合、特定支配獲得の際の期中増加REについても算定が必要となります。これは、子会社の取得からの経過年数が長い場合、当時の資料が残っているのか等、問題が生じるケースもありそうです。また、本既定は「できる規定」なので、期中に損失が生じている場合は適用する必要はないと思われます。一方、適用の有無を対象配当の都度決定できるのかは不明です。

(2)孫会社配当に係る適用回避防止措置の是正

これも非常に重要です。子会社が孫会社から配当を受け取る場合、現行の規定では、孫会社の取得後の利益からの配当であっても、10年経過要件を満たせない場合、なぜか子会社における取得時REに加算される(つまり、取得後REにできず、簿価減額の対象になる)わけですが、ここから新規設立した孫会社については10年未経過でも設立以降特定支配関係が継続していればセーフとなります。これは、むしろ現行税制があまりにも不合理な点を是正しただけではありますが、大変重要な改正です。一方で、買収してきた孫会社については、引き続き取得後REからの配当であっても、10年未経過の場合は子会社の取得時REとされる点は是正されていません。これは依然として本税制の重大な欠陥であると思います。

(3)その他所用の措置とは?

税制改正大綱では、SBG税制について、その他所用の措置を講ずるとされています。これが何を意図しているのか非常に気になるところです。というのも、2年前にSBG税制が導入された際、大綱には明記されていなかった適用回避防止規定、特に最大の問題である孫会社の取得後利益からの配当が子会社において取得後REにカウントできないという大問題が突如、4月に公表された政令に織り込まれていた経緯があるからです。そもそも、この受取配当金の益金不算入のコンセプトを大幅に転換する制度が税法ではなく政令で導入されることへの違和感は引き続き禁じ得ませんし、法律違反の政令ではないかとの疑念は引き続き持っています(この点を争う事案が出てくるのを心待ちにしています)。

(4)CFC税制を改正してSBG税制は廃止できないのか

今回の改正では、期中利益を含む期中増加REを取得後REに含むことができる重要な改正が入っているいますが、改めて、それなら同趣旨でCFC税制(タックスヘイブン税制)を改正し、複雑怪奇なSBG税制は廃止してしまえばと個人的には思うところです。ARM再編のタックスプランニングも、そもそもはARM  HoldingsにおけるARMの譲渡益が英国で非課税となるだけでなく、期末時点でARM Holdingsがソフトバンクグループの子会社でなくなっていたことで日本のCFC税制の対象にならなかったことが根本的な問題です。であれば、CFC税制において、特定外国関係会社を期末のみで判定する形式基準をやめ、期中で本邦CFCでなくなる場合にその期中までの利益をCFC所得として合算させるような制度にすればよいと思います。例えば米国では、期中でCFCに該当しなくなる場合に、その時点で米国税務上の当該CFCの事業年度を区切り、CFC課税(Subpart  FやGILTI)の対象にするとともにそこからの配当を益金不算入とするelectionが認められています。余談ですが、このSBG税制は、米国に古くからある異常配当(extraordinary dividend)の規定の輸入であると言われています。しかしその内容はSBG憎しのためか米国版より大幅に厳しいものになっています。そして、現在検討されている米国の税制改正法案では、この日本版SBG税制の一部規定が逆輸入されようとしています。

3. 資本の払戻しに係るみなし配当の改正

最後にこちらを採り上げます。国際興業管理の事案で話題となった資本・利益の同時配当の取り扱いについて、最高裁判決を受けて既に国税庁からも実務上の対応方針は公表されているものの、法改正も行うようです。

本事案については、もちろん最高裁判決は面白いのですが、株式譲渡損益はどうするのかといった未解決の問題もあり、これらについてはこちらをご覧ください。

改正内容は以下の通りです(最高裁判決への対応だけではありませんが)。

  • 資本の払戻しのみなし配当計算における払戻等対応資本金額等(と減少資本金額)を減少した資本剰余金を限度とする。

  • 種類株式発行法人の資本の払い戻しに係るみなし配当計算を種類資本金別とする。

さて、こちらについても論点いきましょう。

(1)株式譲渡損益への影響は?

なんと言ってもこれです。税務上、株式への資本の払戻しとされる払戻等対応資本金額等を、減少した会計上の資本剰余金を限度にするということで、これは最高裁判決の通りで特に違和感はありません。しかし、問題はこれをどうやって実現するするかです。

わかりやすく数値例でいきましょう。

  • 子会社の前期末の資本金等200、RE(=利益積立金)▲100で純資産100

  • 当期中の子会社の利益500、期中配当を資本剰余金から100、REから400実施

この場合、現行法における資本の払戻割合は、資本剰余金からの配当額100が前期純資産100の100%であるため、100%です。そして、現行法令では、前期末の資本金等の200が100%払い戻されたこととなり、税務上のみなし配当が配当総額500ー200=300と、REからの配当より少なく算定されてしまうところ、最高裁判決を踏まえ、資本の払戻しの上限を会計上の資本剰余金の配当額である100とし、結果、みなし配当は500−100=400となります。

しかし、この事案のもう一つの重要な論点は株式譲渡損益への跳ね返りです。もし今回の改正においても、あくまで払戻割合は100%であるとすると、親会社においては保有株式簿価の100%を譲渡原価とすることができます。これは、資本金等の額200からも払戻しが100であるにも拘らず株式簿価は全て原価に落とせるということで問題のある結果ではないかと思われます。この点、もし、今回の改正が払戻割合を調整させるものだとしたら(上記数値例であれば、100/200=50%と逆算させる)、株式譲渡損益の計算も合理的になります。但し、この点は最高裁判決でも触れられておらず、今回の税制改正大綱においても明らかではありません。

(2)種類株式がある場合の取扱いについて

これについては、取り敢えず、現行法においては自己株取得の場合のみなし配当計算は種類株式ごとに種類資本金を参照して行う規定があるものの、資本の払戻しについてはこのような規定はありませんでした。それが、なぜ今回、資本の払戻しについてこのような改正を入れてきたのかは定かではありません。もしかすると種類株式の発行と資本の払戻しを行うことによるタックスプランニングが行われていたような事案があったのかもしれませんね。


ということで、今回は以上です。

改めてですが、今回の大綱は、グループ通算制度にしてもSBG税制にしても、もちろん完璧ではありませんが、当noteでも指摘していた問題について重要な改正が示されたことは本当に嬉しいですし、目立たないものの大変意義のある改正だと思います。

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