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とても暗くて憂鬱になる超短編小説④

死神

一生懸命働いて家族を養っている
父親を見てたら悲しくなった

全力で夢に向かって戦っている
歌手の歌を聴いたら辛くなった

誰かの為に生きることも出来なかったし
好きなことをやり続けることも出来なかった

何も残っていない何も・・・
ただ、楽をして
欲望に溺れた自分がいるだけだ

そんなマイナス思考に陥りながら
松田が自分の部屋で
酒を飲んでTVを見ていると

そんなに自分を責めないでください。
と後ろから無機質な声が聞こえた

ハッとして振り返ると
死神のような奴が立っている

なんだおまえは!
松田が驚いて声をあげると
私はあなたの理解者です
死神のような奴は平然と
そう答えた

そして松田を諭すように話しかけてきた

何もない人間は
あなただけじゃないですよ。
大体の人間なんてそんなようなものです

うるせーなこの野郎
お前に俺の何がわかるんだよ!

なぜか恐がらずに死神に反論していた
寂しかったのかもしれない

死神はそんな松田の言葉など
おかまいなしに
なおも流暢に話しかけてくる

あなたの人生見させてもらいましたよ

俺の人生?

ええ、今までの29年間。
なかなか楽しめました。
あなたは自分を卑下してますけど
そう捨てたものじゃないですよ。
確かにあなたは自分に甘い
すぐ諦めるし、根性がない
でも逆に潔いとも言える
たまにいますよね
好かれてもないのに
しつこくつきまとう人間が
そうゆう人種に比べればよっぽどいい

そうかな?

たとえ死神からでも褒められると
まんざらでもない気持ちになってくる。

そうですよ。あなたは賢いんです
自信を持ってください。
才能ないのにずるずると
夢を追いかけている人間よりも
愛情ないのに家族を作る人間よりも
あなたは
自分のことが理解できている

そうかな?

そうですよ。

それにあなたは成功者を見て
落ち込んでいたけれど、
ああゆう人種はごく一部の
選ばれた人間に過ぎません
ほとんどの人間は
憧れながら叶うことも出来ず
凡庸に生涯を終えてしまうものです。
それに私のようなものからしたら
ああいう人種は厄介な存在なだけです
やれ家族がどうとか
子供がどうとか
ファンがどうとか
夢がどうとか
文句を言って
なかなか私のような存在を理解して
受け入れようとしない。
今まで散々
色々な生物の命を食らい
奪ってきているのにです。

そう話し終えると
死神は大げさに
苦々しい表情をした


ってことは、俺は死ぬのか・・・

少し間を開けて松田がぽつりと呟いた

さすが、察しが早い

そうか。死ぬのか・・・

他人事のように松田は反芻する
現実感が全くなかった

はい。

原因は?

生きることのストレスからくる
暴飲暴食のようですね。
まぁ、仕方ないですよ

仕方ない?
思わずムッとして聞き返した

しかし死神は気にも留めず尚も
冷静な口調で諭してくる

はい。仕方のないことなんですよ
あなたは残念ながら
生きる才能がない。
生きる才能がない人間が、
生きているのは辛いだけですから
それが強烈なストレスになり
身体に悪影響が起こるのです
賢いあなたなら
もう随分前から分かっていたことでしょう。

なるほどな、、
確かにそういわれると妙に納得がいった

そうか、死ぬのか・・

はい。でもどうか心配なさらないでください
どうせ人間は皆いつか死ぬんです。
松田さんあなただけじゃないんですから

でもやっぱり死にたくないないな・・

生きたくもない・・でしょう?

図星だった。。

そうだな。

生きてたって辛いだけですよ

死神は仮に松田が
長生きしたとしても
幸せになれないのが
分かったような口調だった

たしかにこれまで
生きていて良いことなんて
なに1つなかった
家は貧乏で
頭も見た目も悪く
特技の1つもなくて
誰に期待されることもなかったし
教師もクラスメイトも皆 
気にも留めないような
空気の存在だった。
好きな女の子もいたにはいたが
告白する前にすでに諦めていた
自分に自信が
どうしても持てなかったんだ。
だからこそそんな自分と
見切りをつけるために
未来に期待していたけど
未来も結局同じだった
能力や才能ある人間が
幸せになれる社会は
学生時代とまったく変わらなかった
それを補うために
頑張らなきゃいけないのに
俺は、俺は、
あろうことかさぼってしまったんだ。。


うぁあああああああああああああ

松田は自分自身の不甲斐なさに思わず
叫んで号泣していた
死神の言う通りだった
若い頃より状況は悪化している
もう取り返しがつかなかった

そんな松田の様子など気にかける様子もなく
松田さん残念ですがそろそろ時間のようです。
と死神は言い放ち
泣き叫んでる
松田に最後の宣告をした。

ああ。せめて、最後にこんな俺を育ててくれた
お父さんお母さんにありがとうと伝えさせて。。

ブシュ。。。

死神は松田の言葉を遮るように
右手に持ってる鎌を一気に振り下ろし
松田は呆気なく死んだ。

そして
何事もなかったように
夜空の彼方へと消えていった

その頃
松田の部屋では
点けっぱなしのTVから
芸能人たちの笑い声が
ギャハハハハハハと響き
まるで
松田の死体を
嘲笑っているようだった。。


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