ジェームズ・W・ヤング「アイデアの作り方」から考える登壇などでのアウトプット

ジェームズ・W・ヤングの「アイデアの作り方」を読んで、広告のアイデアづくりの話だけど、ソフトウェアエンジニアの僕(@hgsgtk)にとっても非常に共感が強い内容でした。特に、普段技術系のカンファレンスで登壇することが多い僕にとっては、登壇という行為の中で行う思考がこれに近いのではという感覚があったので言語化してみたいと思います。

読んだきっかけは、僕の中で名著のカバレッジ率がすごい人ランキング第一位の@fuubitさんのツイートでした。

アイデアの作り方

この書籍は、James Webb Youngという方が書いた本で、1時間もあれば読み終わるくらいの文章量になっています。

個人的に関心の強かった部分だけピックアップしてどういう内容が書かれているか紹介します。

全人間の2つの主要なタイプ

社会学者ヴィルフレド・パレートの「心理と社会」という本から、この世界の全人間の2つの主要なタイプを、フランス語でスペキュラトゥールランチエと名付けたことを紹介していました。スペキュラトゥールは英語で投機的・思索的という2つの意がある言葉のようですが、このタイプの特徴を新しい組み合わせの可能性につねに夢中になっているという点としたようです。一方で、ランチエは英語に訳すとストックホルダー(株主)となり、パレートの説では、型にはまった、着実にものごとをやる、想像力に乏しい、保守的な人間で、先にいった投機的な人々によって操られる側の人々であるとしています。

この2つの主要なタイプを紹介した上で、ザ・スペキュラトゥールは、アイデアを作りだす先天的才能を持っており、これは稀有な才能ではないということを強調しています。

才能を伸ばすためには

どんな技術を習得するにも、第一に原理であり第二に方法であると主張しています。特殊な断片的知識、たとえば広告でいうと活字の名前や製版の費用などは、役に立つものではない。アメリカの著名な教育学者ロバート・ハチンス博士は、これを急速に古ぼけてゆく事実と名付けています。

アイデアを作り出す2つの原理

 1つ目は、アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何物でもないという点、2つ目は、既存の要素を新しい一つの組み合わせに導く才能は、事物の関連性を見つけ出す才能に依存するところが大きいという点です。故に、事実と事実の間の関連性を探ろうとする心の習性がアイデア作成に最も大切なものであるとしています。

アイデア作成時の心の5つの段階

アイデア作成において、意識的あるいは無意識的に次の5つの段階を経過するようです。

1. 資料集め 当面の課題のための資料と一般的知識の貯蔵を豊富にすることで生まれる資料を集める
2. 資料に心のなかで手を加える
3. 孵化段階 意識外で組み合わせの仕事を行う
4. アイデアが実際に誕生する
5. アイデアを具現化し展開させる

まず、資料を集めて(1)、それらを咀嚼する複数の事実から関係を探してみたりする(2)、そうしていくうちに心の中がごっちゃになってはっきりとした名刹が生まれてこなくなると、一旦問題を放棄して心の外に放り出してしまう。この時消化過程に進んでいき(3)、突然はっとアイデアが目を覚ます(4)、最後にアイデアをヒイの目に出して理解のある人々の批判を仰ぐ(5)

ソフトウェアエンジニアの登壇行為

ジェームズ・W・ヤング「アイデアの作り方」を読んで、アイデアは既存の要素の組み合わせなど、どこで聞いたかは忘れたが聞いたことがあるフレーズが多かった。それだけ、広告の世界にいない僕でも耳に触れるくらい非常に一般的で普遍的な内容を扱っている書籍であることが伺える。

ソフトウェアエンジニアとして、カンファレンスの壇上に立って話そうと思う時、僕は知識の言語化を目的としている。自分の中で仮説としてふわふわと持っている感覚を、これまでの先人たちの積み重ねてきた言葉・概念によって、それらを組み合わせることで自分の感覚が明快な論理になることを期待している。これは、まさに「アイデアを作ろうとしている」のだなぁと感じた。

また、カンファレンスに話に行くことを習慣化すると、良くも悪くも「なにかカンファレンスで話せそうなネタはないか」と探すようになる。これは、言い換えれば、自分の経験しているこの瞬間に一般化して伝えられるアイデアはないかアンテナを張っている状態と言えるのではないか。そうなのであれば、登壇のネタを探す思考というのは、アイデアを作る5段階の過程を常に行っていると捉えられそうだ。

一般的知識を得る重要性

僕は一つの分野の圧倒的専門性で生きていける人間ではないと捉えているので、常になにか有意な組み合わせを自分の中で見いだせないかと考える志向をしている。その過程で最近は、「ブランコの比喩はどこから来たのか」という発表で話したような建築設計の話や、哲学的な話などソフトウェア分野ではないところに目を向けたりしている。

これが「アイデアを作る上でも有効なことなのでは」と本書籍を読んで感じた。一般的知識がふと取り組んでいる課題のアイデアのもとになったりするのであろう。特にアプリケーション設計において、人間に快適に使ってもらえるものを作ろうとすると、人間自体に目を向けることになり、対象システム利用者の業務知識や、その周辺の市場や慣例などを知る必要が出たりする。これも、課題に一直線に結びつく特殊な知識だけでなく、一般的知識がいかに重要かを表しているような感覚を覚えた

まとめ

ジェームズ・W・ヤング「アイデアの作り方」は非常に一般的な内容なので、読む人が普段どういう活動をしているかによって共感ポイントが違うと思う。1時間足らずで読めるのでまだ読んでいない方はぜひ読んでみることをおすすめする。

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