__1 // "Context Design" とは


__1_001 / コンテクストデザインとは?

コンテクストデザインとは。

デザイナーとユーザーの境界の曖昧性をデザインしつつも(強い文脈)、ユーザーの中で自然に生まれる誤読(弱い文脈)。

ファッションデザインを研究する自身にとって、コンテクストデザインの誤読の繰り返しは、まさにモードファッションがこれまで歩んできた歴史を物語ると日々感じるとともに、実態の掴めない(数値化不可である点で)プロセスそのものが、デザイン界隈で語られている不確実性と大きくリンクすると考えている。

現在参加しているTakram渡邉康太郎さんのサブゼミのなかで、コンテクストデザインを積極的に誤読し、私なりの社会彫刻へとつなげていきたい。

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__1_002 / コンテクストデザインの解釈 

 (06.17.2019現在)

以前、とあるファッションデザイナーさんと偶然話していた時の話だ。

「好きなファッションデザイナーはいますか?」 と聞いて、必ずしもそのブランドを着用していれば好きだと言えるのか、という話をした。”好きな服”という話であれば、着心地が好きな服、”なりたい”願望を叶えてくれる服、思い入れのある服.....など”好き”を物語る要素は人それぞれだろう。

だが、「好きなファッションデザイナーはいますか?」という具体的な質問に対して、名前を答えただけではどことなく説得力に欠けてしまう。(ブランド名がデザイナー自身のフルネームである場合はさておき)そのデザイナーのデザインが何故好きなのか、と語るためにはデザイナーのルーツや思想を第三者である自分自身が解釈(=積極的な誤読)を繰り返し、語る必要がある。着用して精査してみるのもよし、ショップで触ってみるのもよし、インタビュー記事を呼んで知るのもよし、本人に直に聞きに行くのもよし、ランウェイの写真を解剖してみるのもよし。

当のファッションデザイナーは、というと、インスピレーションを収集して、切り取って、サンプリング、参照、そして自分自身の世界観に持ち込みコレクションとしてアウトプットする。つまりインスピレーションの誤読が発生して、コレクションが成立する。そしてそれを、ランウェイ観客もしくはプレスが、気に入ったルックの写真を断片的にその場から切り取り、(インタビュー記事に上手く言語化する解釈を行い) 編集し、アーカイブとして残される。デザイナーの手元からコレクションが離れ、デザイナーの思想が再度第三者によって解釈される。

デザイナー → プレス・販売 → 着用者

簡単にここで起きている誤読の受け手。デザインされたプロダクトを解釈する際には、受け手とデザイナーの間に誤読が否応無く生まれる。これらを通して考えられるのは、ファッションデザインを解釈するためには、誤読を避けて通れない。誤差を小さくするのではなく、逆に肥大化した誤読を着用者なりにしてみるのも、纏う上では醍醐味の一つなのかもしれない。


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__1_003 / コンテクストデザインとして読み換えてみた

 (06.17.2019現在: 今後も続行して積極的に誤読して行こうと思う。)

今回は、主にデザインプロセスにおけるファッションデザインの誤読について少し羅列してみる。なお、ファッションアイテムにおける誤読は、デザイナーから着用者まで数多いステークホルダーの中で、頻繁に起こっていると考えられるため、今後は視点を変えて記述できたら、と思う。

まず、初回の今回は、ブランドのコンセプトがコンテクストデザインとして解明されている事例について少々扱いたい。

matohuというファッションブランドは、設立当時から、

日本に根付いた文化や美意識を現代のまなざしから再構築して表現することを試みており、日本文化の引用ではなく、あくまでも彼ら自身の解釈で日本的な美意識を表現することを目指している。

デザイナー堀畑と関口の二人によって手がけられている当ブランドは、これまで"慶長の美"(2005-2010)、"日本の眼"(2010-2018) と言った、日本文化に基づく表現技法を模索してきたブランドである。2019年春夏コレクションより、第3章"手のひらの旅"として新たに津軽を舞台に、伝統的な刺繍のこぎん刺しや津軽塗を用いたデザインを施している。

これまで日本に根付く伝統工芸、生地、染色....など様々な技術を用いて表現を行なってきたmatohuだが、ファッションデザイナーの役割が、山本耀司さんの言う所の"表現者の役割って壊すことでしょう。今受け入れられてしまって、何か、壊すものがわからなくなってしまっている。しんどいです"だとすると、matohuのデザイナーとしての立ち位置はいささか逆行しているようにも考えられる。これについて、『ファッションは語り始めた』内には、以下のように記述されている。

matohuの世界観においては、西洋的な解釈が介入する以前に、すでにデザイナーによって「日本一が解釈されており、日本人が読み解き表現する日本的美意識という、疑問や新たな見解を挟み込む余地のないテーゼとして「日本」が提示されている。// 『ファッションは語り始めた』より

ファッションデザイン批評としての観点から述べると、デザイナーが投影したい今、そしてその後を示すのではなく、"日本"をデザイナーのフィルターを通して解釈し、その上で新たな表現を模索する、という逆の手法が行われている。そして、コンテクストデザインとして読み替えるのであれば、これはデザイナー自身の日本文化にインスピレーションを覚える"強い文脈"と、現代的な着用スタイルへと変容させ現代に寄り添わせていくという"弱い文脈"がデザイナーの誤読・解釈のプロセス内でも発生していることが明確にわかるだろう。


2019年3月にアダチプレスから発行された、『複雑なタイトルをここに』は、現在、自身のブランドのOFF-WHITE、2019年からLOUIS VUITTONのメンズのアーティスティック・ディレクターであるファッションデザイナーのヴァージル・アヴローが2017年に米ハーバードで行なった講義を翻訳した本。翻訳にはファッションライターの倉田佳子さんが携わっている。

この講義は、ヴァージルのデザインプロセスにおける"チートコード"を紹介するのもで、彼のテクニックを語っている。アブロー自身は、建築の修士課程を終了し、デザインの枠組みを建築のプロセスとして学習した。そして、ファッションへと道を進めた彼だが、学生時代の経験から、テクニックの範囲を拡張、ファッションや音楽さらにはプロダクトへと手を伸ばしている。

彼のデザイン言語のうちの1つに、"3% APPROACH" を挙げ、"原型の3%をエディットする"事例がナイキのエアフォースだったと語っている。これは先に挙げた、サンプリングして、デザイナーの世界観に持ち込んだ誤読の例だと解釈することもできるだろう。この講義以外にも、アブローを語る文面などは多く存在するが、アブロー自身が語っている当講義は興味深い。実際デザインプロセスを解釈するにあたって、デザイナー当本人が語るデザインメソッドというのはアブローの背景を組みつつも、新しいデザイナーのあり方を提示する重要な事例であると考えている。


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__1_004 / 社会彫刻・創作案


ヨーゼフ・ボイスが生み出した"社会彫刻"の概念。ボイスは芸術そのものあり方を日常生活の中に取り込んで再構築する重要性を語っている。最近では職業として、社会彫刻家の方も増える中で、簡単ではあるが社会彫刻家としての職業を、青木竜太さんは以下のように語る。

「仕組みによって、空気感によって、常識によってやりたいことができていない人たちに対して、何かぼくが後押しできる仕組みをつくることでその状況を変えていく──それはかっこいいことだし、世の中を変えることにつながるはずです」

これらを踏まえると、先に引用したファッションデザイナーの山本耀司さんが"壊す"と言うのが、デザイン、芸術の重要性だと再認識させられる。(ヨウジさんの場合は、パリコレクションに旋風を巻き起こした、という意味で当時のパリの常識を逸脱した)ヴィヴィッドな変化である必要はないが、日常を取り巻く環境に自然に寄り添うゆるやかな社会彫刻とは。こちらも継続して思考していきたい。


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__1_005 / コンテクストデザインとして企画してみる

最後に。これまで、今、自身がコンテクストデザインとして捉えること、そして興味関心の分野・文脈についてざっと記した。

今後コンテクストデザインとして取り組んでみたいプロジェクトがいくつかあるうちの1つについて端的に書き、今回の投稿を終わらせたい。

(あとで追記するかも。)

・おしゃべりな服 - 服が言わんとしていることを聞く

これは、私自身がサステナブル・ファッションを研究している身から考えていたことだ。研究している身としては、生産から廃棄までの流れ全てをコントロールできるパッケージを作ることが重要だと考えているものの、実際自分のデザインプロセスに至ると、ユーザーよりもデザイナーに重きを持ったプロジェクトへと傾く可能性が高くなってしまう。そこで、今回はあえてユーザー・デザイナーの壁を作らず、曖昧なまま進めるプロジェクトを実践したいと考えている。

最近では着古した服をH&MやUNIQLOなどが回収サービスを始め、セカンドハンドストアも配送査定をしてくれるサービスが増えている。少しでも着用期間を伸ばそうとするキャンペーン(FOUFOU染め直しサービス)やプロジェクト(spokenwordsprojectmina perhonen)なども増えているも多く始まっており、スローファッション、アップサイクル(BRING)のムーブメントなども増えている。

その中で、私は嗜好が合わない・サイズが合わない・飽きたなどの理由で着用しない服や、思い入れから着ることはないものの、捨てられないファッションアイテムを個々のストーリーとしてドキュメントしてみたい。ドキュメント形式に関しては、検討中である。その先に、再利用してもらえる環境や用途を見出せるのなら、先々でワークショップなどを検討したい。

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