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ベッカライとブーランジェリー

 12月、寒いスイスに行ってきました。現在、子ども2人がヨーロッパに留学し、夫婦も東京と京都で別々に暮らしているので年末年始の家族団らんは欧州のどこかに集合しようとなったのです。
 
 スイスは初めて。スイスのイメージと言えば緑の牧草地と清涼な湖畔、そして登山というように夏の観光にピッタリ。じゃあ冬には何があるのか。そう、クリスマス・マーケットでしょう。

チューリッヒのクリスマスマーケット

 それぞれの都市で開催されていますが飲食ではホットワインやソーセージなどが人気。店員さんの中には英語を話せる人が一人はいるようでその人を見つけることで注文がスムースにいきます。

 マーケットは場所によって様々な個性があります。毛織物や陶器など様々な手作り工芸品なども販売されています。食欲が満たされ、しばらく歩くと小劇場のような森の世界が目の前に現れました。

 ああ、いいなー。急に心が温かくなりました。 

かわいい!小さな動物たち ベルンのマーケット

 スイス旅行で一番当惑し、痛かったのは物価の高さ。英国ポンドやユーロ圏の国よりもスイスフランは高い!だから買い物にもブレーキがかかってしまいます。富裕な観光客がターゲットかも知れません。残念…。

 さてチューリッヒ空港に降り立った後、翌日からは西に移動し、レマン湖の北岸を通って、ジュネーヴまで行き、その後Uターンして、再び東へ向かい、チューリッヒ空港に戻るというルートを取りました。ちょうどドイツ語圏とフランス語圏を行き来したわけで、ちょっとした文化の違いを体感することができました。

 スイスは多言語国家で、公用語として4つの言語が使用されています。チューリッヒはドイツ語圏ですが、鉄道で西へ移動してレマン湖周辺から車内放送で最初に聞こえるのがドイツ語➡フランス語に変わりました。

 英語と中国語しかできない私にとって、現地の人とのコミュニケーションはかなり困難でした。娘は学生時代にドイツ語を勉強していたのですが、スイスドイツ語は相当違うようで苦戦していました。

 さて物価が高いとなると食事をどうするかが問題になります。今回の宿はホテルではなく、ホステルや民泊、サービスアパートメントを利用しました。スイスにはcoopというスーパーがあり、かなりお世話になりました。もちろん、物価が高いことには変わりなく、大きなサラダで千円位。惣菜は二千円は超えます…。手軽なクロワッサンでも五百円はします。これを購入して宿で晩餐です。もちろんワインもね!

 そんな中、夕食で唯一入ったレストランがあります。ローザンヌとジュネーヴの間にあるロール県に泊まった時、小さな街のブドウ畑の斜面の上にあるフレンチレストランに入りました。案の定、店員さんはフランス語オンリー。メニューがほとんど読めずにあたふたしていたら、隣に座っていた地元民らしき夫婦の中年男性が英語で通訳してくれました。しかもワインの選択でも地元ワイナリー産のワインを薦めてくれました。その後も時々ちらちらと気にしてくれました。なんて優しい。地元ロール産のフルーティな白ワインを楽しむことができました。この晩だけは優雅な気持ちになりました。

 ロールの民泊の宿から駅までワイン畑の広がる素朴な光景を楽しみながら下りの道を約一時間歩きました。

ロールの住宅地


ブドウ畑 夏に来たい

 パンが好きな私はほぼ毎食パンでした(他に選択がないので)。これもドイツ語圏とフランス語圏で少し違いが感じられました。ドイツ語圏ではライ麦の入ったパンがそこそこあり、それにプレッツェルが売られていました。もちろん、クロワッサンもあります。

 ところがフランス語圏に行くと惣菜パンやクロワッサンの種類が増え、さらにフルーツを用いたスイーツ系のペイストリーが充実していました。ロール県で泊まったホステルには朝食がついていて、そのバケットやクロワッサンは今まで食べた中で一番美味しかったです。日本のバケットは中がスカスカのことが多いですが、ここのは生地がしっかり味も充実していました。

 パンのお供と言えば珈琲です。その種類ですが普通のカフェとカプチーノ、そしてエスプレッソが定番のようです。日本のカフェでよく見られる、インドネシアスマトラマンデリンとかエチオピアイルガチェフェなどのスペシャリティ・コーヒーはほとんど見ませんでした。日本人はこだわりが強くて、文化を趣味のように楽しんだり、どこか「道を究める」という文化がありますよね。ただスイスで飲んだ珈琲は日本のブレンドコーヒーより、かなり濃いめで美味です。深煎りが好みな人は満足度が高いと感じます。

 スイスの旅でもう一つ気になったことが喫煙です。駅ホームから街中までとても多くの男女がタバコを吸っていました。幼少期にぜんそくだった私は本当に困りました。鉄道を降りるとすぐに煙の攻撃に晒されました。

 ジュネーヴにはWHO(世界保健機構)の本部があり、2005年には「たばこ規制枠組み条約」が発効して、受動喫煙からの保護がうたわれているはずなのに。世界3大たばこ企業の本社があるらしいので規制が遅れているのかも知れません。

 喫煙文化を容認しているところ、また国レベルで女性参政権が認められたのが1971年だとか、どこか保守的な気風を感じます。直接民主制というと聞こえはいいのですが、男性民主制という歴史文化が地方によっては残っているように思います。

 スイスの東、スロベニアやクロアチアといった小国(小さな言語とまだ弱い経済力)に行った人から英語が使えたと聞きました。幾たびの戦争や大国の支配に苦しんだバルカン半島の小国は生き残りや発展のため英語を必死に勉強しようとしていると思います。

 ドイツ語とフランス語という大きな言語を持つスイスではなかなか英語が普及しなかったのでしょう(最近は学校で英語を選択する学生が増えつつあり、英語を話す人口も少しずつ増加傾向のようです)。

 そういえば世界の各都市で必ず見られる中華料理店ですが、今回の旅ではローザンヌで一軒だけしか見ませんでした(あまりの寒さに麺料理が食べたくなって入りました)。ある都市に中華料理店があるかどうかもある意味でグローバル化の指標ですね。

 さてパンの話に戻ります。スイスではパン屋をドイツ語圏ではベッカライと言い、フランス語圏ではブーランジェリーと言います。それはただ単にそれぞれの言語圏での「パン屋」なのです。

 数年前、京都に住んでいたころ、初めてブーランジェリーという名前を聞きました。フランスのお洒落な響き。今ではあちらこちらにブーランジェリーを名乗るパン屋を見かけるようになりました。またドイツのパンを扱うベッカライを称するパン屋さんも、私の住む東京では数店あります。

 パン屋、ベーカリー、ブーランジェリー、ベッカライ・・・。

 みな日本の「パン屋」の呼称は外国語のカタカナ表記ですが、文明的な西洋の「お洒落感」という、それぞれの時代のセンスが言葉の中に潜んでいるように感じます。新しもの好きというメンタリティーもありますね。

 さらに最近では国産小麦など原材料にこだわったパン屋が全国的に増えています。こんなところにも職人気質という日本人の特性が表れています。このようなパン屋さんは何と称したらいいのでしょう。

 身体にやさしいのはうれしいけど、お値段もそれなりのようで・・・。


 

 

 

 

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