第二章 システムトレードの基礎知識

前章では、仮想通貨のトレードは初心者にとって非常に厳しい戦場となること、また、初心者の持つ弱点を強制的に克服するためにシステムトレードが有用であることを説明しました。

それでは、より具体的に、システムトレードとは何なのか、またそのメリットは何なのかを、初心者向けになるべく分かりやすく解説していきます。

システムトレードとは

システムトレードとは、あらかじめ決められたルールに則ってトレードを行う手法のことです。
もっと具体的に言い表すと、

◇事前に設定したルールに適合したときにエントリーを行う。
◇事前に設定したルールに適合したときに決済を行う。

ということです。ですので、以下をしてしまうとシステムトレードになりません。

◇ルールに適合していないが、自分の判断(裁量)でエントリー(または決済)を行う。

もともと、「システム」とは「入力と出力の変換器」のことを指します。
以下の図のように、チャート(値動き)やファンダメンタルズなどを入力することで、エントリーや決済のタイミングが出力される、というシステムです。
この、システムの役割を担っているのが「トレードルール」です。

システムトレードと聞くと、プログラムのような「コンピュータ・システム」を使ったトレードという印象がありますが、そうと決まっているわけではないのです。

システムトレードが初心者にもたらすメリット

システムトレードは、トレーダーに対し「明確なトレードルールを設けること」を義務付けます。そのため、初心者であっても「規律のあるトレード」を行うことが可能です。

[Before]規律のないトレードの例
・twitterのタイムラインが強気だからロング
・チャートが下降ぎみだからショート
・十分に含み益が乗ったから、決済して利確

これでは、トレードをする人の知識や経験によって、エントリーや決済のタイミングが変わってしまいます(初心者の勝ち目は薄くなります)。
人によってどころか、同一人物でさえも、気分に応じてエントリーしたりしなかったり、ということがあり得るでしょう。

[After]規律のあるトレードの例
・移動平均からの乖離率が10%を超えたからエントリー
・乖離率が5%に縮小したから決済

この場合、誰が運用しても、どのような気分で運用しても、同じエントリー&決済になります(トレーダー自身の知識や経験に左右されにくい)。このように、まずは「なんとなく」エントリーするようなことがなくなります。

続いて、事前にトレードルールを検証することにより、「理解のあるトレード」も可能になります。

例えば、ロングでエントリーする際、そのエントリーの期待勝率や期待リターンは、全くといっていいほど分からないのが通常でしょう。
しかし、システムトレードでは事前にルールの検証を行います。このため、「このタイミングでエントリーすると、過去のデータだと勝率が60%程度で期待リターンが1BTCあたり20,000円程度かな」と当たりをつけることができます。

これは、初心者から抜け出すための大きな一歩となります。トレードでは、勝率が100%というのはあり得ません。個別のトレードで負けたとしても、全体で勝っていればいいのです。
この大局観を持てるようになれば、個別のトレードの負けで狼狽したり、エントリーを急いで損をするようなことがなくなります。

システムトレードの流れ

それでは、ルール策定から運用開始まで、典型的なシステムトレードの流れを見てみましょう。

①ルールの策定
様々な仮説をもとに、ルールを策定します。仮説は、何らかの根拠を持っている必要があります。例を挙げてみましょう(あくまで例です)。

仮説:直近の平均価格に比べて価格が上がりすぎると、元に戻る力が働く。
根拠:利確の行動心理学。

この仮説に基づき、明確なトレードルールを作成します(ルールはあいまいな解釈ができるように作ってはいけませんが、ここでは解説のために簡略化した表現を使います)。

ルール
「過去5日間の平均価格から、10%以上値下がりしたらロングする。」
「過去5日間の平均価格から、10%以上値上がりしたらショートする。」
「平均価格から5%のところまで戻ったら決済して利確する。」
「平均価格から15%のところまで広がったら決済して損切りする。」

こうして、エントリーと決済のシンプルなルールを作りました。よいルールの作り方については、後述します。

②ルールの検証
ルールを策定したら、そのルールを過去の値動きデータ(ヒストリカルデータといいます)に適用して、どのような結果が出るのかを検証します。
これを、バックテストと呼びます。

検証に必要なヒストリカルデータの形式は、ルールに応じて異なってきます。本マガジンでのルールは日足のBTCトレードなので、BTCの直近6か月間の日足のOHLCを利用します。OHLCとは、1日における始値(Open)、高値(High)、安値(Low)、終値(Close)の頭文字を取ったもので、いわゆるローソク足のデータです。
具体的なやり方は、次章以降で解説します。

③パラメータなどの調整
②の検証の結果をよりよいものにするため、いくつかのパラメータを調整していきます。例えば、上記のルールは以下のパラメータを含んでいます。

・期間(5日間)
・エントリータイミング(10%乖離)
・利確タイミング(5%乖離)
・損切りタイミング(15%乖離)

例えば、期間を5日間から10日間に変更してみると、検証結果はどう変わるでしょうか?
エントリータイミングを、10%乖離でなく、20%乖離にしたら?

通常、これらの調整を進めるごとに、バックテストの結果は改善されていきます(結果を見ながら調整していくので、当然のことです)。

④試験運用(フォワードテスト含む)
試験運用やフォワードテストでは、バックテストで検証したトレードルールを「未来のデータ」に適用して結果を観察します。

あまりにバックテストの結果に適合しすぎるように調整を行うと、実は未来のデータで思うような結果を出せませんので注意が必要です(フィッティングと呼ばれるこの現象は、別の機会に解説します)。

このタイミングでは、以下のようなことを観察します。
・バックテストに比べ、明らかにパフォーマンスが悪くなっていないか?
・実際に市場が仮説に通りに動いたときに、利益が出ているか?
・テスト上ではなく、実際にトレードしたときのロスはないか?

問題があれば、パラメータを再調整したり、場合によってはルールを一部変更する必要があります。

⑤実運用
試験運用をクリアしたら、いよいよ実運用です。実運用を始めると、通常はがっかりすることが多いのですが、それは以下の理由からです。

1)実運用の結果は、必ずシミュレーションの結果よりも悪くなる。
実運用の際は、注文時のスプレッド(成行買いの場合、板に出ている買い注文の中で最も悪い条件で注文する)や、すべり(板が薄かったり発注量が多いと買い上がって平均約定価格が高くなる)などの「執行コスト」がかかります。
また、取引所のサーバ遅延によって発注が通らなかったり、思わぬ悪い条件で注文が通ったりということもあります。

2)ドローダウンを経験する。
ドローダウンとは、「負けが込む期間に膨らんだ損失」のことです。以下の図は、資産の伸びを表す「資産曲線」のグラフですが、赤く囲った部分がドローダウン期間です。

この期間は、精神的なストレスが大きくなります。システムに対して信頼を持っていないと、損失が膨らむ恐怖からトレードを停止する人が出てくるでしょう。


1)については、かかったコストを正しく把握し、コストを削減するための施策を立てる必要があります。2)については、このマガジンの冒頭で「資産がゼロになる覚悟をしなければならない」と述べてはいるのですが、その覚悟をしきれない人は、損失を出しても精神的に耐えられるロットまでポジションを落とすことを検討しましょう。

システムトレードの流れについては以上となりますが、このように説明しても腑に落ちないと思います。
具体的なルールの策定方法やバックテスト~運用までの実践方法を、次章以降で実例とともに解説していきます。

システムの性能を図るには

ここで、システムの性能について説明しておきます。システムトレードにおいて、性能を図るための指標には以下のようなものがあります。

勝率
全トレード中、プラスになったトレードの割合。

Profit Factor(PF)
ある期間で、利益の総額を損失の総額で割ったもの。つまり、損失1を賭けたときに得られた利益の量。

エントリー回数
ある期間中で、エントリーできた回数。

勝率は高いほうがよいと考えられがちですが、その他の要素と総合的に判断する必要があります。例えば次のように、勝率30%のものが勝率60%のものよりも優れている場合があります。

①勝率30%、勝ちトレードの平均利益が50、負けトレードの平均損失が10
②勝率60%、勝ちトレードの平均利益が30、負けトレードの平均損失が30

同じ期間に10回エントリーできたとすると、①のリターンは80、②のリターンは60となります。
この場合、①のシステムのほうがリターンの期待値は高くなります。

では、同じ期間に②のシステムだと20回エントリーできた場合はどうでしょうか?この場合、同じ期間での②のリターンは120となり、①を凌駕します。

優れた期待リターンを持つシステムであっても、エントリー回数が少なければトータルのリターンは伸びません。エントリー回数は、システムにとって非常に重要な要素なのです。

よいトレードルールとは

システムの性能とは別に、よいトレードルールの条件として、以下のことが挙げられます。

1)そのルールで利益を上げられるという根拠(利益の源泉、エッジともいう)を、論理立てて説明できること。
勝ち続けられるルールには、必ずその理由があります。また、その理由を明確に説明することができます。

2)シンプルであること。
ルールはシンプルであればあるほど、市場の変化に左右されない堅牢な性質を備えます(ロバストである、という表現をします)。なるべくルールをシンプルにすることを心がけましょう。

詳細はどこかのタイミングで解説できればと思いますが、エッジの効いた、かつシンプルでロバストなルールを作るには、トレードについての多面的な知識(テクニカル、ファンダメンタル、暗号通貨特有の事情…)が必要です。
腰を据えて仮想通貨トレードを行おうという人は、まずは昔からのトレードに関する良本を読むとよいでしょう。

システムトレードの基礎知識については、以上となります。
この量の文面では説明しきれないことが多々ありますので、必要に応じてコラムなどで補足をしていきたいと思います。

次章では、実際にシンプルな日足ベースのルールを設定して、それを検証していきますので、お楽しみに。

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コメント2件

過剰に適合させることはフィッティングではなく、オーバーフィッティングです。
過去データに過剰に適合させてしまった状態は、「オーバーフィッティング」「カーブフィッティング」などと呼ばれます。
本文中では、ある程度適切な範囲~過剰な適合に至るまでの過程を表現したかったため、フィッティングと書きましたが、問題となるのはyoguppeさんのおっしゃる通り「過剰なフィッティング=オーバーフィッティング」の状態です。
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