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Dragon Eye

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ひとりの少女とドラゴンとの出会いを描いたファンタジー小説。
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1:起床

1:起床

「おはよう」

 少女の声が家の中に静かに響く。少女の暮らす家はとても小さく、小屋と言った方が正しいように感じられるサイズだった。けれど、少女が一人で暮らすには十分な広さではあった。そう、一人で暮らすには……。

 少女の家は村から離れた森の中にポツンと一つだけ建っていた。もちろん周りに住人は誰もいない。

 ベットから出て少女は朝の支度を始める。まず、近くを流れる川に水を汲みに行く。朝日を浴びな

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2:嘆息

2:嘆息

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 朝食を終えた少女は食器を洗い片付ける。次に畑に行く準備をしながら、軽く家の中も掃除する。掃除をさっさと済ませて準備を整えて家を出る。

 少女は森の中を通り所有している畑に向かう。

 森の中であることに少女が気づく。

「空気が甘い……。そうか……もう春になるのね!」

 少女は森の中の空気をもう一度しっかりと吸う。確かに空気の中に甘

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3:他人

3:他人

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「足が重い」

少女は自分の家がある森を抜け村へつながる道を歩いていた。

足取りは遅い。畑へ向かっていた時の半分以下の速度で歩いていた。春の匂いを感じ取ることは出来ない。いや、匂い自体は存在するが今の少女にそれを感じ取るだけの心の余裕はなかった。

すると、前から人が歩いてきた。少女の歩く速度が少し上がる。早くすれ違うために自然と速度が

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4:趣味

4:趣味

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少女はあっという間に家に到着した。村に行くまでの重い足が自分でも信じられないほどに帰りは足が軽かった。

「人って不思議……気分一つでこんなにも変わっちゃうのよね……ふふ」

少女は自分のことを少し離れたところから観察し、その変化が面白くてついつい笑ってしまう。そんな少女を今沈もうとしている太陽が優しく照らしていた。夕日が少女を赤く染める

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5:秘密の場所で……

5:秘密の場所で……

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バタン!

少女が家の扉をしめる音が響く。

背中にはリュックを背負っている。大きく膨らんでいて何やら色々と詰め込んでいるようだ。そして手には母が買ってくれた画材が入った箱を持っている。

「よし!行こう‼」

少女を体を反転させて歩き出す。足を進める方向は昨日向かった村と逆方向の山だ。

今日少女は山にある彼女だけが知る秘密の場所にピク

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6:Dragon Eye

6:Dragon Eye

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「ここは……どこ……?」

少女は思考する。

暗闇の中で。

「私……死んじゃったのかな……?」と思考を巡らせていると徐々に体の感覚が戻ってきた。

視界は未だに黒一色だが、体は確かにそこに存在して自分の意志で動いている。

手を自分の顔まで上げてそこに自分の頭や顔があることを確認しようとする。

頬に自分の手が触れる。

「大丈夫!生

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7:逃避

7:逃避

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「………………!」

少女とドラゴンの視線の間にノイズが入る。

ドラゴンの瞳の中に血が流れ込んできた。どうやら、ドラゴンの額から流れてきたもののようだ。

互いの意識が溶け合ってしまう様な不思議な感覚から、そのノイズ(血)によって突然少女は我に返る。

どれぐらいの時間ドラゴンの瞳に目を奪われていたのだろう……。少女はそれほどの時間はた

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8:朝食

8:朝食

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「…………………………うぁ‼」

少女は声を上げながら、突然目を覚ました。

周りを見渡して自分がどこにいるのかを確認した。目には小さなキッチンに、丸いテーブル、二つの椅子、テーブルの上には母がくれた画材入りの箱が置いてある。

「家だ……」

少女は頭では理解しているのだが、安心したいのと確認の為につい声に出してしまう。

最後に自分が

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9:再度

9:再度

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バタン!

少女が家の扉を閉めて振り返り歩き出す。

目的地は……少女の秘密の場所。そう、空からドラゴンが降ってきたあの場所だ!

手の震えや涙はもう止まっていた。それと同時に少女の心は決まっていた。

「もう一度あのドラゴンを見に行こう‼」と……。

怖くないのかと言えば嘘になる。しかし、もう一度行かないと、あのドラゴンに再度会わないと

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10:影

10:影

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「…………………………」

少女の視線は空を切る……。

そこに視線を交わしあったドラゴンの姿はなかった。

少しの間思考が停止していた少女だったが、すぐに考えを改め次の行動に移っていた。

視点を少し下げる。

そこにはドラゴンが空から落ちてきたときに出来たクレーターのような窪んだ穴が出来ていた。

少女はドラゴンの痕跡をたどり始める。

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11:あなたの名前は……

11:あなたの名前は……

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大きな影の中で少女は息を殺し、固まっていた。

影は全く動かない。ただ、その場で動かずに少女を覆っていた。

顔を上げてその影の主を確認しようとしたが、恐怖が邪魔をして顔を上げるという簡単な行動すらできなかった。

極度の緊張の中、呼吸を長く止めることが難しいことは誰でもわかる事だろう。

少女はギリギリまで呼吸を我慢していたが我慢の限界

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12:諦めない

12:諦めない

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タマゴン(ドラゴンの卵)に出会ってから少女の生活は変化した。

暇を見つけてはタマゴンに会いに行くようになったのだ。

だからといって、畑の手入れ野菜を育てることは決して怠ったりはしなかった。少女は基本的には真面目なのだ。

少女はタマゴンに会いにいくと、初めはじっとタマゴンを見つめているだけだった。

しかし、4、5回目を超えるころには

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13:タマゴン……!

13:タマゴン……!

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少女が描くタマゴンの絵は完成を迎えようとしていた。残すところは仕上げだけと言える状態まできていた。

少女の住む家の扉が開く。中から少女が出てきた。扉を閉め施錠をし歩きはじめる。今日もタマゴンのいる洞窟へ向かうのかと思いきや少女が進む方向は山とは反対方向、そう村へ向かっていた。

月に一度の村への買い出しは少女にとって憂鬱以外の何ものでも

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14:殻

14:殻

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 少女は走った。タマゴンがいる洞窟へ!村を出て森に入り買い物かごを放り投げ。必死で走る。

 しかし、森の中に入り少女の育てる野菜畑を少し過ぎたあたりで失速し始める。街から洞窟までの距離を全力で走れるほどの体力を持ち合わせた人間などいるはずがないのだ……。

 それでも少女は足を止めなかった。体力を回復させながら少しでも早く洞窟にたどり着

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