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裏アカウント

表「今日は会社の飲み会!皆といろいろ話せてよかった。特に課長が熱心に話を聞いてくれてうれしかったな~!」

裏「会社の飲み会だった!課長がやたらとからんできた!アイツ、酒飲んでる時のこと全部忘れるからな~!何言っても無駄なんだよねw」

表「めずらしく会社に遅刻していまった……。少し気が緩んでるのかな?気合入れなおそう!」

裏「イライラする!少し遅刻したぐらいであんなに怒るか?自分はどうなんだよ!いつも遅れてくるじゃん!あ~~イライラする!」

私、田村 栄子(たむら えいこ)は二つのアカウントを使い分けている。一つは、リアルの友達が中心の表アカウント。そして、二つ目がリアルの友達には知られていない秘密の裏アカウントだ。

ズバズバ、ズバ子‼というアカウント名で会社なんかでたまったストレスを発散するためにとにかく言いたいことを言いまくっている‼ただ愚痴を言いまくっているだけなのに最近フォロワーが一万を超えた。みんなストレスがたまってるんだな~とストレス社会と言われる理由をひしひしと感じる今日この頃だ。

ズバ子(裏の私)の基本的な標的は会社の上司である課長だ!これがもう本当に働かない。すべて口だけなのだ!何故あんなのが課長という地位に立っているのかが分からない。この課長に対しての愚痴が尽きることはない。一日出社すれば必ず何かはおこるのだ!

それだけじゃない!最近、ズバ子(裏の私)標的が一人増えたのだ。それは後輩の榮倉さんという子なのだがこれが驚くほど動きが遅い。現代社会の速度にまるっきりついていけてないのだ。それだけならまだしも、たまにまさかと思う様なミスをしでかすのだ。そして極めつけは、どこかの金持ちのお嬢様らしい……。けど、私はそこまで榮倉さんが嫌いなわけでない。少し妬ましく思うけど……。むしろ頑張ってほしいと本気で思っている。つまるところ、単純にネタになるという理由でズバ子の標的にしているだけだった。

そして話は今日の出来事に移る。

また、榮倉さんがミスをしでかしたのだ。今回はなかなかに大きなミスでプレゼン資料の制作を頼んでいたのだが、その中で添付されている過去のデータが一年ずつずれていたのだ。これはさすがにすぐ修正することはできずに結局会議が翌日にずれてしまった。ここで黙っていないのが課長だ!今日は榮倉さんと共に課長に頭を下げるのが私のメインの仕事になってしまった。

帰りは榮倉さんと共に帰ることにした。

「先輩今日は本当にすみませんでした」

「大丈夫だよ榮倉さん!半分は私のミスだからこっちでもしっかり確認するべきだったしね」

「そんな先輩の責任では……」

「大丈夫!ミスは誰でもあるよ。今度から注意していこう、お互いにね。今日は疲れたね~!早く帰って早く寝ちゃおうか!また、一緒にご飯でも食べにいこうね」

「先輩……ありがとう……ございます」

そして帰宅した家ではズバ子が暴走していた。

「まさかあんなミスをするなんて思ってもいなかったわ!私の想像以上にぬけてたはあの子!」

「部長も頭おかしいのよ!半日も怒り続けるなんて怒られてる間に資料修正できたっての‼」

今日の出来事は自分でも思っていたより頭にきていたんだろう。ズバ子がもう止まらない!止まらない!次から次へと愚痴が出てきた。その愚痴たちに野次馬どもが油を注ぐ!「そうだ!上司は何もわかってない!」「使えない後輩だなw‼」など色々な油(メッセージ)が送られてくる。

一通り愚痴を吐き出し終えた私は少し冷静さを取り戻し、届いた油(メッセージ)を一通り読んでいた。不思議なことに他人の反応を見ていると少し客観的に物事が見れるというか自分を取り戻すことが出来るのだ。いくつか読んでいくとその中に一つ奇妙なメッセージが混ざっていた。


表か裏か、あなたはどっち?

裏か表か、あなたはどっち?

今のあなたは、いったいどっち?

裏か表か、あなたはどっち?

表か裏か、あなたはどっち?

今のあなたは、いったいどっち?

「なにこれ?」自然と声を漏らしていた。気持ちが悪かった。一瞬私の裏アカウントに気が付いた人からのいたずらかと考えたが、それはないと断言できた。絶対に誰にもばれないようにしてある。それだけは細心の注意を払っていたので断言できた。奇妙なメッセージを見て完璧に怒りが冷めてしまったので携帯の電源を消して。目覚ましをセットし、早めに寝ることした。布団の中で色々と考えていたが疲れていたのか、いつの間にか眠ってしまった。


あの出来事から三日、榮倉さんが無断欠勤を続けていた。私は心配になり何度かメッセージを送ったのだが、どれも既読にすらならなかった。榮倉さんの同期の子にも話を聞いたが「私たちにも連絡がなくて……」と私と同じ状況の様でなにもわからなかった。

榮倉さんのことを心配していたのだが、それと同時に私の頭の中にはあの奇妙なメッセージがチラついていた。どうしても頭の中からあのメッセージが消えないのだ……。

四日目の朝。

榮倉さんから返事が帰ってきていることに気が付く。

ただ一言だけ……。

「信じてたのに」とかいてあった。

「まさか、ズバ子がみつかった?」頭の中が心配や不安で覆われ、思考は停止していた。体に染みついた生活の流れだけで服を着替え、準備をすまし、会社へと向かっていた。会社に着くといきなり課長が私を別室へ呼び出してきた。

「田村君、ちょっといいかな?」

「はい」

別室に入り少し沈黙が流れた。課長が出している雰囲気がいつもと違っていた。その時、私は頭の中でひたすら同じ言葉を繰り返していた。

「ばれてない!ばれてない!ばれてない!ばれてない!」と……。

私の頭の中での悪あがきはあっけなく否定された。

課長は単刀直入に話を始めた。皮肉なことに、私が課長のことを気に入っている数少ない部分の一つがそれだ。

「田村君、君がネットで身近な人たちを誹謗中傷していると噂が流れているのだが本当かい?」

私は何も返事を返さず席を立って扉の方へを歩き出した。

「田村君!」

「すみません、課長!一度お手洗いに……。少し失礼します。」といって部屋出た。トイレへと歩き出した。徐々に歩く速度が上がっていった。最終的にはトイレに駆け込む様な形だった。

トイレに入るとスマフォを取り出しズバ子のアカウントを開く。もう手遅れなのはわかっていた。それでもアカウントを消去せずにはいられなかったのだ。

「ズバ子!ズバ子!ズバ子!……あれ?」

異変に気付く。

ズバ子のアカウントが存在しないのだ……。

「なんで‼どうして?」

何度検索をしてもズバ子のアカウントは見つからなかった。

「どうなってるの?」

そして一度、表アカウントを開いてみる。

「何よ……これ……」

表アカウントは存在した。しかし、それは昨日までの物とは全くの別物だった。そこにあったのはズバ子だった‼

表アカウント名で書かれている内容が全てズバ子の物に変わったいたのだ。

「何なの?何なのよ‼これは‼」

めまいと共に吐き気が襲ってきた……。

うっ……うぇッ…………。

ジャ———!

長い嘔吐が終え、トイレを流す。

息苦しい。

地面に落としたスマフォを取ろうとしたが少し躊躇する。触りたくない。何がどうなっているのか全く理解できなかった。怖い……。

どれぐらいの時間がたったのかこれ以上トイレにこもっていられない。課長が待ってる。

「今日は家に帰らせてもらおう……話は後日にして……こんな状態じゃ話なんて出来ない」

一度アカウントのことは考えるのをやめることで、今どうすればいいのかをかろうじて考えることが出来た。

呼吸を整えてトイレの外へ。地面を這う様な速度で歩き出す。トイレ内の鏡の前に立った。今の自分の姿を確認しようと顔を上げ鏡をみる。

そこには自分の姿が映っていた。

いつもの自分の姿が……今のボロボロの姿の私は映っていなかった!

そこにいるのは自分であって自分ではない自分。

もう一人の私がそこにいた。

もはや思考など出来るわけが無く。ただ、鏡の中に映る自分の姿を見ていた。自然と手が動き出した。鏡に触ろうとしているのだ。その時、私は心の底で叫んでいた。

「触ったらダメだ‼」と……。

しかし、体は勝手に動く。鏡の中の自分も手を伸ばしていた。

そして、両側の自分が鏡に手が届いた瞬間。

空間が裏返った様な、捻じ曲がった様な感覚に襲われた。

私は暗闇の中に立っていた。鏡の向こう側にしか光はなかった。

「何ここ?」

もう一人の自分が鏡の向こうでクスクスと笑ったいた。

「逆転したの?」

自分と鏡の中の自分の位置が入れ替わったのだ。そのことに気付いた時には、もう一人の私はトイレの出口へと歩き出していた。

「待って‼戻ってきなさい‼ここから出して‼‼ここから出しなさい‼」

鏡をたたきながら叫ぶ‼

しかし、私の声は向こう側には届いていない。暗闇の中に吸い込まれるだけだった。

もう一人の私の姿が見えなくなってからも私は叫び続けた。

「ここから出して‼」と叫び続けた……。


表か裏か、あなたはどっち?

裏か表か、あなたはどっち?

今のあなたは、いったいどっち?

裏か表か、あなたはどっち?

表か裏か、あなたはどっち?

今のあなたは、いったいどっち?

読んでいただいてありがとうございます。面白い作品を作ってお返ししていきたいと考えています。それまで応援していただけると嬉しいです。