マイマイペース
今は新しいクラスになって初めてのホームルーム。虫組の生徒たちはそれぞれ自分がどういう虫でどんなことが得意なのかを紹介している。
そして最後に、担任のカタツムリ先生への質問タイムがやってきた。
開始と同時に挙手の嵐。はい!はい!はい!はい!はい!はい!はい!クラスのみんなが手を上げる。
「何をそんなに聞きたいのやら……w」
ゆっくりまったり、マイペース。まずは一人目、カマキリ君。君の質問に答えていくよ。
「先生は動くのがすごくすご~く!遅いですよね?不自由じゃないの?」
「またこの質問……ですか……」
どうやらクラスのほとんどがこの質問をしたかったらしいく。皆「それそれ~!」「気になる~~!」と声を漏らしている。
これまで色々な人にこの質問を投げかけられてきたカタツムリ先生。けれど、答えはいつも同じ。今日も生徒に同じ答えを返すとしよう。ゆっくり間を取ってから話し出す。
「不自由ではありません」
その答えにカマキリ君。
「え~!動くの遅いと移動に時間かかって大変でしょ?」
そして間を置き、カタツムリ先生。
「確かに、私は動くのが遅い。それが理由で周りからは不自由に見えるかもしれませんね」
それを聞いた生徒たちがまた声を漏らす。
「やっぱり大変なんだ~~!」「大変だね!」「遅すぎるもん、仕方ないよ」
話を続けるカタツムリ先生。
「皆が言う様に、朝学校に来るのにもすごく時間がかかります。朝起きるのも皆さんよりだいぶ早くなりますね。」
「けれど、何も不自由ではありません!」
「ただ、少し皆さんより時間がかかるだけなのですよ」
いつの間にか生徒が皆、カタツムリ先生の声に耳を傾ける。
いつの間にやら、マイマイペース。
「時間がかかる分、私は皆さんの知らないことを沢山知っているのですよ。朝日の綺麗さ。眠っている町の姿。鳥たちの目覚めの挨拶。水の音。花の香りなど」
「いいですか?人はそれぞれ自分の時間をもっています。つまり、マイペース(自分の時間)です!」
「先生は皆にこれから色々なマイペースがあることを学んでいってほしいと考えています!」
「ゆっくりじっくり教えていくので……よろしくお願いしますね」
ここで一人の生徒が手を上げる。
「はい。トンボ君なんですか?」
「先生!僕、早く飛べるから朝はギリギリまで布団に入っていたいです‼」
それを聞いたカタツムリ先生。ゆっくりクスクス笑い出す。
「クス、クスクス!素晴らしい、トンボ君!それはあなただけのマイペースです。私も本当はもう少しゆっくり寝ていたいものです」
「やっぱり、早く動きたいんじゃん!」とカマキリ君。
「他人のペースへの憧れと自分のペースへの愛はまた話が違うのですよ」
首を傾げる生徒たち。
「まだ、お話するのが早かったようですね。これもまたペースの問題なのです……」
キーン!コーン!カーンコーン!キーン!コーン!カーンコーン!
すると終業のチャイムが鳴り始める。
最後にカタツムリ先生、生徒たちに一言。
「それでは皆さん、これから一年ゆっくりじっくり学んでいきましょう!今日はこれで終わります」
ゆっくりじっくりマイペース!虫組担任、カタツムリ先生!
マイマイペースで、まいります。
読んでいただいてありがとうございます。面白い作品を作ってお返ししていきたいと考えています。それまで応援していただけると嬉しいです。