Good night ~ 2夜:ノック ~
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《昨晩のこと》
学校ですすめられた曲「Good night」を聴いた僕を待っていたのは明けることのない夜だった。「Good night」を聴きはじめてから一睡もできなくなったしまったのだ……。そして僕はその状態に耐えれなくなり、ついに手のひらいっぱいに睡眠薬を持ち、それを口へ……! その時、自分の影から手が飛び出してきて……
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一瞬何が起きているのか理解できなくて、僕の思考は停止した。ゆっくりと目から捉えた情報が脳に届く。あまりに非現実的な目の前の状態に脳が拒否反応を起こし、目の前で起きているリアルな現象を理解しようとしない……。そんな僕の脳内活動、情報処理を恐怖の感情が追い越す。
「わぁ~~~~‼‼」
僕の恐怖や驚きが入り混じった声が家中に響き渡った。
その瞬間、僕の手を抑えていた影が今度は口を抑えつけた。
「いけません! 主……。今は深夜です! あなた様の母上や父上が起きてしまいます‼」
あまりに驚きすぎると、逆に冷静になってしまうという話を聞いたことがある。今がまさにそれだった。僕は「この影やたらと言葉遣いがいいな」とそんなことを考えていた。それと同時に少しだけ、冷静に今の状況を確認することができた。
影の手はやはり、僕の足元にある影から伸びていた。そしてどこからか影の声も聞こえてきた。それもどうやら、足元の影から聞こえてくるようだった。状況を確認していると、影がまた声を発した。
「少し冷静になられたようですね。よかった……。実は主だけではなく、私も驚いているのです。まさか、この様に声を発し、手を動かすことができるとは……。そして何より、主とこうしてコミュニケーションをとることができている。あ、あ、なんと素晴らしいことでしょう」
すごく丁寧で、僕のことをしたってくれていることはこの短時間で十分理解できた。しかし、口は抑えられたままだった……。影に抑えられた口を指でさして合図を送った。すると、すぐに影の手が口から離れた。
「もうしわけありません、主!」
ハ~ハ~と少し大げさに息を吸い込み呼吸した。気持ちを落ち着かせるだめだ。そして、こちらから影に話しかけてみた。
「オマヘ……いったいなんなんだ?」
「お~~主と会話ができるなんて……こんな日がこようとは私は…私は……』
涙を流しながら感動するようなトーンで、自分の影から声が聞こえてくる。少し……。いや、かなり不気味だった。
「少し、落ち着いてくれ。話になんないだろ!」
何故自分の方が影を宥めているのだろう。という正論が頭に浮かんできたが深く考えないようにした。混乱しているのは間違いなく僕の方なのに。
「す、すみません!」
「もう一度聞くけど、オマヘいったいなんなんだ?」
「影でございます」
『落ち着け。ツッコミは入れちゃダメだ! ややこしくなるだけだ!』と、心の中で自分に言い聞かせる。
「その影が何で手お伸ばしたり、声を出したりできるんだ?」
「分かりません!」
正直なことはいいことだ。返事が早いということも同じく。しかし、今のこの状態では求めていない。
「オマヘも何が何だかまったく分からないってことだな?」
「はい!」
まったく迷いのない返事に、こちらの気が抜けてしまう。謎は深まるばかりだった。いったいこの状況は……。僕の影はどうなってしまったのだろう?
コンコン‼
その時、部屋のドアをノックする音が聴こえてきた。そして、その音に母の声が続いた。
「明? 大きな声が聞こえたけど大丈夫?」
その声を聞くと同時にまた戻りかけていた冷静さが消えてしまう。この状況を見られたらまずい……。そのことだけが頭の中を支配した。
コンコン‼
「ねえ、明? 大丈夫?」
働かない脳を置いてきぼりにして、耳だけはしっかりとノック音と母の声を聞き取っていた。
呼吸すら忘れて硬直する体をよそに、脳だけがフル回転していた。
「ど、どうしたら!?」と……。
【続く】
読んでいただいてありがとうございます。面白い作品を作ってお返ししていきたいと考えています。それまで応援していただけると嬉しいです。