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Good night ~明けない夜の始まり~


~1夜:明けない夜の始まり~

「Good night?」

 それは、いつもと変わらない噂話から始まった。勉強中に聴くいい曲はないか? という話題。

「それを聴くと眠気が無くなる」と友達は言った。半信半疑で聴いたその曲はどれだけ聴いても飽きなかった。3日間のテスト期間中、僕はそれを聴き続けた。

 その間、一睡もしなかった。

 異変が起きたのは4日目の夜。曲を聴いていないのに寝れないのだ。5日目も……。6日目、親に頼み病院へ。睡眠薬を貰うが寝れない。

「寝れない……寝れない……寝れない……」

 7日目の夜、僕は布団の中で同じ言葉を繰り返た。ついに、限界が訪れた。

 僕は布団から飛出し、机に置いてある睡眠薬を掌いっぱいに持ち、勢いそのまま口へと運んだ!

「これで死(ねむ)れる」

 一瞬目の前が暗闇に覆われた気がした……。

 気が付くと僕の手は止まっていた。いや、止められた。自分の影から伸びる手によって! そして、影が僕に話しかけた。

「おはよう、主様」

こうして……。

『明けない夜が始まった』。



『~ 2夜:ノック ~』


  一瞬、何が起きているのか理解できなくて、僕の思考は停止した。ゆっくりと目から捉えた情報が脳に届く。あまりに非現実的な目の前の状態に脳が拒否反応を起こし、目の前で起きているリアルな現象を理解しようとしない……。そんな僕の脳内活動、情報処理を恐怖の感情が追い越す。

「わぁ~~~~‼‼」

 僕の恐怖や驚きが入り混じった声が家中に響き渡った。

 その瞬間、僕の手を抑えていた影が今度は口を抑えつけた。

「いけません! 主……。今は深夜です! あなた様の母上や父上が起きてしまいます‼」

 あまりに驚きすぎると、逆に冷静になってしまうという話を聞いたことがある。今がまさにそれだった。僕は「この影やたらと言葉遣いがいいな」とそんなことを考えていた。それと同時に少しだけ、冷静に今の状況を確認することができた。

 影の手はやはり、僕の足元にある影から伸びていた。そしてどこからか影の声も聞こえてきた。それもどうやら、足元の影から聞こえてくるようだった。状況を確認していると、影がまた声を発した。

「少し冷静になられたようですね。よかった……。実は主だけではなく、私も驚いているのです。まさか、この様に声を発し、手を動かすことができるとは……。そして何より、主とこうしてコミュニケーションをとることができている。あ、あ、なんと素晴らしいことでしょう」

 すごく丁寧で、僕のことをしたってくれていることはこの短時間で十分理解できた。しかし、口は抑えられたままだった……。影に抑えられた口を指でさして合図を送った。すると、すぐに影の手が口から離れた。

「もうしわけありません、主!」

 ハ~ハ~と少し大げさに息を吸い込み呼吸した。気持ちを落ち着かせるだめだ。そして、こちらから影に話しかけてみた。

「オマヘ……いったいなんなんだ?」

「お~~主と会話ができるなんて……こんな日がこようとは私は…私は……』

 涙を流しながら感動するようなトーンで、自分の影から声が聞こえてくる。少し……。いや、かなり不気味だった。

「少し、落ち着いてくれ。話になんないだろ!」

 何故自分の方が影を宥めているのだろう。という正論が頭に浮かんできたが深く考えないようにした。混乱しているのは間違いなく僕の方なのに。

「す、すみません!」

「もう一度聞くけど、オマヘいったいなんなんだ?」

「影でございます」

『落ち着け。ツッコミは入れちゃダメだ! ややこしくなるだけだ!』と、心の中で自分に言い聞かせる。

「その影が何で手お伸ばしたり、声を出したりできるんだ?」

「分かりません!」

 正直なことはいいことだ。返事が早いということも同じく。しかし、今のこの状態では求めていない。

「オマヘも何が何だかまったく分からないってことだな?」

「はい!」

 まったく迷いのない返事に、こちらの気が抜けてしまう。謎は深まるばかりだった。いったいこの状況は……。僕の影はどうなってしまったのだろう? 

 コンコン‼

 その時、部屋のドアをノックする音が聴こえてきた。そして、その音に母の声が続いた。

「明? 大きな声が聞こえたけど大丈夫?」

 その声を聞くと同時にまた戻りかけていた冷静さが消えてしまう。この状況を見られたらまずい……。そのことだけが頭の中を支配した。

 コンコン‼

「ねえ、明? 大丈夫?」

 働かない脳を置いてきぼりにして、耳だけはしっかりとノック音と母の声を聞き取っていた。

 呼吸すら忘れて硬直する体をよそに、脳だけがフル回転していた。

 「ど、どうしたら!?」と……。


『~ 3夜:リンゴと重力~』

 コンコン‼‼

 扉をノックする音が少し大きくなってきた。

「ねえ、明? 本当に大丈夫なの?」

 母の声が遠くの方から聞こえる様な感覚に陥っていた。まるで、水の中から音を聞いている様だった。思考が停止し、体がまったく動かない。布団にもぐり寝たふりをするという簡単な方法すら思いつかなかった。

「ねえ!? 起きてるんでしょ、明?」

 母の声も少しずつ大きくなり始める。痺れを切らす寸前だった。

「主! 逃げましょう‼」

「え!?」

 影が何を言ったのか、確認する前に影はすでに行動に移っていた。それは一瞬の出来事だった。影から4本の腕が伸びてきて、僕の両手両足を掴む。その影が腕と足を覆うように薄く伸た。僕の腕は肘まで覆う様な手袋はめ、足はブーツを履いているような状態になった。

「何だコレ!?」

 自分の腕と足に取り憑いた影を見て驚いていると体が勝手に動き出した。

「いきます!」

「待て! お前が体操ってるのか?」

「説明する暇はありません!」

 会話をしている間も、僕の体は勝手に動き部屋の扉の反対側にある窓へと進んでいった。その時、ついに母が部屋に入るという最終確認の声が聞こえた。

「明、入るわよ!」

 母の声と同時に窓のロックに手がかかり解除し、窓を勢いよく開いた。開いた窓に足がかかる……。

「おい! まさかここからいくのか!?」

 影からの返事はなかった。答えは行動で返ってきた。

「いきます‼」

「ちょっっまっ‼ ここ、マンションの4階だぞ!?」

 僕の体は4階の窓から、空へと勢いよく飛び出した。

 キーと、小さな音を立てながら部屋の扉が開き母が部屋へ入る。

「明? 大丈夫……明?」

 そのに息子の姿はなく。大きく開いた窓から、少し強めの風が吹き込むだけだった。

 もし、不思議な力に目覚めたらいったいどんな力が手に入るだろう。皆、一度は考えることだろう。影から手が伸びて驚きが大半を占めていたが、そこに期待や喜びが混じっていたのは確かだった。

 影に操られるままに窓から飛び出した僕の中に期待が確かに存在した。不思議な力に目覚めたんだ! と……。その期待は一秒も保たなかった。窓から飛び出した僕の体はニュートンのリンゴよろしく、重力によって地面に引き寄せられていた。

「嘘だろ~~~!」



『~ 4夜:兎の嫉妬~』

 今、僕は……。重力により、地面に引き寄せられていた。

「嘘だろ~~~!」

 アニメや映画などで高いところから落ちるシーンを沢山見てきた。そして、僕はいつも同じ感想を抱いていた。「冷静すぎるだろ……」だ! 僕の考えは正しかった。まさか、現実に同じ状況に陥るとは思っていなかったが。やっぱり、リアルとフィクションでは話が違う。

 冷静な判断なんてできなかった。僕に出来たのは叫ぶことだけ……。気付くとすぐそこに地面が迫ってきていた。

「ダメだ‼‼ 死ぬ!?」

 その瞬間、僕は力一杯に目をギュッと閉じた。

 ……。

 …………。

 ………………。

「主様。大丈夫ですか?」

 しばしの沈黙の後、影の声が聞こえてきた。影の声に反応して閉じていた眼をゆっくりと開く。

「生きてる……? あれ? 傷ひとつない……!?」

 僕は地面に両手両足をついていた。ちょうど、犬や猫、四足歩行の動物たちのような体勢だった。

「4階から飛び降りて……無傷!?」

 体勢を変えるのを忘れながら、自分の腕と足に取り憑いた影に目をやる。それから、飛び出してきた自分の部屋の窓も確認した。確認するまでもなく、無事ですむ高さではない。

「主様、心配無用です。衝撃は私が全て吸収しております」

「先に言っとけよ‼」

 深夜の団地の道の真ん中。傍から見たら、四足歩行の体勢の男子が誰もいないのにツッコミを入れている状況。

 それが今の僕だった……。

 ウ、ウンッ! 恥ずかしさを紛らわすために軽く咳払いをした。取り敢えず手を地面から離して二足歩行の体勢にもどる。動物の体勢から人間の体勢に戻ることでようやく思考も戻ってきた。さっきの影の言葉を確認する。

「本当に衝撃を吸収したのか……? マンションの4階だぞ?」

「まったく問題ございません! 何ならその倍の8階からでも可能だと思われます。お試しになりますか?」

「いや、いい!」

 影の提案を秒殺で否定しながら、もう一度、自分の腕と足に目をやる。そのままの自然な流れでその場で小さくジャンプする。

「うぁ!?」

 そん瞬間、僕はまた驚きの声を上げてしまう。想像をはるかに超える跳躍をしたからだ。頭の中では10~20㌢もいかないような感覚でのジャンプが実際はマンションの周りを囲む塀と同じ高さ。つまり、2㍍近くの大ジャンプになっていた。
 
 トン……! と、小さな音を立てて地面に着地する。「本当に衝撃を吸収してる……。それより、なんだこの跳躍力!」確認の為に同じように2、3回ジャンプを繰り返した。

 へへ! 味わったことのない超感覚に自然と笑みがこぼれ落ちる。

「どうです、主様? 私めの力は?」

「これ……。最高だよ!」

 心の底から出た感想だった。窓から落下した時は本気で終わったと思ったけど、今自分が体感しているこの力はまさに自分が想像した通り……いや、それ以上の特殊能力。まさに、夢の力だった……。

「お気に召したようで何よりでございます!」

「本当にすごいよ! この力‼」

 その場でのジャンプを繰り返しながら影に返事を返す。すると、影から1つ提案する。

「主、助走をつけて思いっ切り跳んでみてはいかがですか? 今見えている2階建ての家の屋根を跳び回ることができると思います』

「マジで!?」

 「何だそれ! 漫画とかで見る能力者たちの移動方法じゃんか!? ヤバすぎる!」頭の中はもうお祭り騒ぎだった。

 トン……! 

 その場で続けていたジャンプをやめて、一度地面に静かに着地する。

「よ~し! やってやる‼」

 はやる気持ちを落ち着かせながら集中した……。冬の夜空に浮かぶ月の光が静かに僕を照らす。その時、光によって少し影の濃さが増したように感じられた。

 タッタッタッ‼

 その瞬間、僕は一気に走りだした。そして短い助走を終え、力一杯地面を蹴り上げて2階建ての民家の屋根めがけ跳躍した。

 タン‼ 

 少し大きめの音を立てて見事に家の屋根へ跳び乗った。

「ははは! 冗談だろ!?」

 その時、僕は笑わずにいられなかった。まさに大跳躍! 何と跳び上がって乗ろうと考えていた家の屋根を飛び越えて、1つ隣の家の屋根に着地したのだ! あまりの超能力に笑いが止まらなかった。そんな僕に影が確認をとる。

「まだ続けますか?」

「勿論!」

「愚問でしたね! では、行きましょう‼」

 タッタッタッ! タン‼

 そして僕は次の家の屋根めがけて跳んだ。

 その晩、僕は月に暮らす兎たちが嫉妬してしうほどの見事なジャンプを繰り返し町中を跳び回った。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『~ 5夜:朝日が沁みる~』

「ハ~~本当に最高だった!」

 僕は今、自分が住むマンションの屋上の縁に座っている。少し前まで4階から飛び降りることにビビっていたのに、今ではこの12階の屋上からでも飛び降りれる自信が芽生えていた。我ながらいい性格をしているなと感じてしまう。そして、一晩中町を跳び回り今ようやく落ち着いてここから日の出でも見ようと考えているところだった。

「主、誉めていただいてありがとうございます」

「けど、さすがに疲れちゃったなw」

「当たり前でございます。基本は主の体であって私の力は補助なのですから!」

 「コイツ、後出しが多いな……」と思ったがあえて口には出さずに言葉を飲み込んだ。そして、コイツのこの癖は注意しようと、静かに心に刻んだ……。

「てことは……筋肉痛とかにもなったりするのか?」

「まず間違いなくなられるでしょうな……」

 はぁ~~。さっきまでさほどでもなかった疲れが一気に倍増したように感じた。溜息と同時に頭を下げる。その瞬間、視界の端から光が差し込んできた。慌てて頭を上げると、少し顔を出し始めた太陽が強い光を放っていた。

 ゆっくりと日が昇る……。

 その時、自分の頬を何かが流れ落ちた。そのことに気が付き、ハッ! と手で押さえようとした。

 それは……涙だった。

 それが何なのか理解した途端、感情の咳が切れた。涙が次々に溢れ出てきた。手でぬぐってもまったく追いつかない。

「ハハ……なんだ、コレ?」

 自分のことなのに涙の正体が分からず戸惑っていると影が話し出した。

「無理もありません。主はこの一週間一睡もしておられないのですよ。尋常ではないストレスだったでしょう。そして、先ほど自ら命を絶とうとなさいました……。さっきまでは興奮で忘れていたのでしょう。しかし、体はその緊張を忘れていなかった……。涙が出て当然です……」

「オマヘ……僕のことよく見てるんだな……」

「勿論です。主がいるから影である。主のおかげで、私は存在しているのです。主人のことは足元からいつでも見守っていますよ……」

 「はは……ありがとな!」少し照れ臭ささを感じながらも、心の底から滲み出た感謝の言葉を影に伝えた。それに対して影は一言。しかし、ハッキリと力強く言葉を返した。

「もったいないお言葉です……」

 そこからは会話はなく。ただ、静かに日が昇ってくるのを眺めていた。涙はまだ止まらなかった。

 その日、僕は朝日がこんなにも沁みる物なのだと初めて知った……。

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『~ 6夜:命名~』 

 ズッ~~! と音を立てながら鼻をすする。ようやく涙が止まり高ぶっていた感情が静まる。そのころにはすっかり日が昇っていた。

 僕が涙を流している間、影は一言もしゃべらずにいてくれた。ありがたいことなのだが今となってはこの沈黙が少しばかり気まずく感じる。

 その時、あることを閃く!

「そうだ! 名前付けてやるよ?」

「ぬわぁん?」

 驚きで影が変な声を出す!

「誠でございますか? 主が……私めに名をつけて下さると!?」

 あまりのテンションの上がり方に僕の方が少しビビッてしまったが話を続けた。

「だって、ないと不便だろ? いつまでも『オマヘ』って呼んでられないし?」

「あ~~なんと素晴らしい!私めの様な、ただの影に主は名を与えて下さるというのか……。本当に素晴らしい主だ!あ~主様‼」

「あ~もういいから、何かこういうのがいいとかあるか?」

「主が下さる名でしたら何でもかまいません」

 何でもいいっていうのが一番困るんだよな……。ん~! と軽く声を出しながら考える。その時、僕は何故かふと後ろを振り返った。朝日に当てられ自分の影がマンション屋上の床に見えた。

 僕はその影がゆらめいているように見えた。きっと、いまだに目に残る涙が影響したのだろう。その影を見た時だった。一つの名が頭に浮かんだ。

「……『カゲロウ』」

 とても静かな声で頭に浮かんだその名を囁いた。

「カ・ゲ・ロ・ウ……」と影が繰り返した……。

 影の繰り返しが耳に入った時にハッ! と我に返る。

「あ!? ごめん、ただの思いつきだから嫌な『すっっばらし~~‼名前です‼是非、今この時よりその名で私めを及び下さい‼』」

 僕の言葉を途中で遮り「カゲロウ」は喜びを爆発させた!

「わかったよ‼ じゃ、改めて『カゲロウ』これからよろしくな‼」

「ありがとうございます、主。頂戴した名に恥じぬようこれからも主に使えてまいりますのでよろしくお願い致します!」

 少しおもいな……と感じたが、あえて言葉にはせずにそのままにしておいた。

「そうだ! あともう一つ『カゲロウ』僕のことはこれから名前で呼んでくれ!」

「主様を……!?名……!?名前で呼ぶ……!?」

 想像を超えた驚きのリアクションだった。それでも譲れないともう一度カゲロウに命令する。

「いいから! 僕のことは「明」と呼ぶこと! 「主様」とか言われても困るんだよ!」

「分かりました……。これより、明様とお呼びさせていただきます」

 あまり納得していないようだったが、気にしないことにした。

「よし、それじゃ! そろそろ戻るか!」僕はその場で立ち上がり軽く屈伸した。

「そ、そうですね。そろそろお戻りになった方がよろしい時間でしょう」と言いながらカゲロウは影を僕の腕と足に延ばし覆った。

「よし!」

 自分の腕と足に影が付いたのを確認し、僕はマンションの屋上から四階にある自分の部屋の窓めがけて飛び降りた。

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『~ 7夜:第1回寝床会議~』

 部屋に戻った僕は取り敢えず布団の中で横になっていた。やはり、眠ることはできなかった……。「それでも! 横になるべきです‼」とカゲロウが強く指示したので仕方なくそうしていた。

 その間に気付いたことがあった。どうやらカゲロウとは言葉を交わさずとも会話ができるようだった。つまり、心の中で会話ができるのだ! 「こ、こんなこともできるとは……! やはり、明様と私目は深いところで繋がっているのですね‼」とカゲロウがあまりに激しく感動していたので、僕はかえって少しドライな反応になってしまった。

 布団の中で会議をし、まず何をやるべきなのかを2人で話し合った。その結果まずこうなった原因を探ろうということでまとまった。

 『Good night』の謎を解く

 第1回寝床会議がまとまったところでちょうど、学校へ行く時間になっていた。

 そして僕は無駄に温まった布団を蹴り上げ。学校へと向かう準備を始めたのだった。

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『~ 8夜:登校~』

(まずは噂の出所を探るのが一番だよな~)

(明様はどの様にその曲を知ったのですか?)()

 学校までの登校中もカゲロウと心の中で会話をしながら学校へを向かった。この心の中での会話というのはとても便利なのだが……なかなか慣れない。なぜかというと、考え事をしながら歩くという感覚に近いので少し周りへの注意力が低下するのだ。ま、歩きスマホよりはましなのでたいして支障はないのだが……。

(友達にすすめられたんだよ。普通に……。やっぱり、そこからあたっていくしか……)

(地道な作業になりますが頑張りましょう! 明様! 大丈夫です、私目が足元についております!)

(カゲロウは何か情報収集に使えそうな能力持ってないのか? 昨日の夜の影を体に巻きつけて身体能力上げるみたいな超能力……他にはないの?)そんな都合のいい能力があるとは思っていないが、先に聞いておかないとカゲロウはわりと後出しが多いので今回は先手を打つことにした。

(そうですね~~)と言いながら少し考え込むカゲロウ。

 その時、ちょうど信号が赤だったので足を止めながらカゲロウの答えを静かに待つ。学校が近づいてきたのもあり同じ学校の生徒達も周りに増えてきた。一緒に登校する女子生徒のグループや音楽を聴きながら一人で登校する男子生徒の姿が視界に入る。

 信号が青に変わると同時にカゲロウが返事を返してきた。

(明様、1つ使えそうな特技があります!)

 そんなに都合よく使える力があると思っていなかったので、カゲロウの返答は期待していなかったのだが……。

(で、その特技って……?)

(耳がいいです!)

(ほぉ~う……)

 判断しかねる返事にすごく微妙なリアクションになってしまった。この時僕はこの返しで、改めてカゲロウは言葉足らずだなと確信を得た。気を取り直して会話を続けた。

(どれぐらい耳がいいんだ?)

(そこに見える女子生徒の会話を聞き取ることができます!)

(へ~すごいじゃないか! めちゃくちゃ使える特技だよ!)

(あ!?すみません間違えました! 聞き取っていたのは向こうの女子生徒たちの会話のようです)

(は? 向こうってどこの?)

 目の前にいる女子グループ以外の集団を辺りを見渡して探した。目の前の女子グループの前に男子生徒がいてその先にもう一つの女子グループを発見した! まさかと思いながらカゲロウに確認を取る。

(え!? 前の前にいるあのグループの会話が聞き取れるのか? 20㍍ぐらい離れてるけど……?)

(そのようですね! すみません。他人の会話を聞き取るということをあまりしたことがなかったもので、距離感を掴めませんでした。そうですね。前の前にいるあの女子生徒たちの会話までなら聞き取れることができるようです!)

「すげ~~な!」と我を忘れ心の声が漏れてしまう!すると前にいた女子生徒2人が僕の方を振り向いてまたすぐに前を向きなおした。何か2人でこそこそと話している。

(「何で一人で急に声出してるんだろうね~?」と話し合っております)と頼んでもいないのに、早速カゲロウが声を聞き取り2人の会話の内容を僕に教えてくれた。しかも、少し裏声で……。

(あ~大丈夫! それは聞き取らなくていいから! 大丈夫だから‼︎)恥ずかしくなり、カゲロウの言葉を慌てて遮った。

 少し間を置いてから心の中での会話を続けた。

『とにかく、カゲロウの耳がいいのはわかった! かなり使える能力だと思うよ』

(勿体無いお言葉です! ありがとうございます、明様)

(カゲロウは学校へ行ったら出来るだけ広い範囲で『Good night』の噂をしている生徒を探してくれ)

(承りました)

(よろしくな)

 カゲロウとの心の中での会話がちょうど終わった頃に学校へと到着した。

 なんとしても突き止めてやる!改めて気合いを入れ直し、学校内へと進む!

 明の睡眠を取り戻すための作戦が始まろうとしていた……。

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『~9夜:噂の噂話~』

 ガラガラガラ‼

 教室の扉を開く。一瞬教室の中に嫌な間が生まれた。しかし、その間はあっという間に消えてなくなりクラスメイト達は各人で会話の続きを再開した。

 (何で2,3日休んだだけでこうなるんだろ……?)と考えていると、カゲロウが(大丈夫ですか? 明様!?)と心の中ですぐに話しかけてきたがあえてそれは無視した。

 皆、経験したことがあると思う。インフルエンザなどで一週間近く学校を休んだ後に登校すると生まれる謎のクラス内での空気……。特に今回、僕は病気で休んでいたわけじゃないわけで……。つまり、余計にたちが悪い。

 僕の考え過ぎだな! と考えを改めて気にせず自分の席へと進んでいく。ガラリ! と椅子を引いて自分の席に着くとふ~~! と自然に溜息が漏れてきた。すると突然、後ろの席から声が飛んできた。

「明! 久しぶりだな? テストの出来が悪すぎて寝込んでたのか?」

 後ろを振り返り声の主を確認する。ま、確認するまでもないのだが……。そこには幼馴染の伊達 健吾(ダテ ケンゴ)がいた。健吾とは小学生からの長い付き合いで何と小学6年から今現在の高校1年生までクラスが一緒という少し気持ち悪いぐらいの腐れ縁だ。見た目はスポーツマンの様なさっぱりとした感じで、体格もしっかりしている。そして性格も見た通りさっぱりした感じで、いい意味で空気を読まないタイプだ。唯一見た目と違うのはスポーツをしないということだけ。そして根っからのゲーマーだった。

「バカ! 本当に体調崩してたんだよ!」と健吾に言葉を返す。すると健吾が僕の顔をじっと見つめ観察し始めた。

「あ~確かに顔色悪いな……。てか、今の状態見ても大丈夫そうじゃないぞ? 学校来てよかったのか?」

「大丈夫! 顔色はあれだけど体調はもうもどってるよ!」

「本当か? ヤバくなったらすぐ言えよ!」

(良いご友人ですね)とカゲロウが心の中で囁いてきた。本当にそう思うよ……。

「ありがとう。」

 そして健吾は僕が休んでいる間に返ってきた自分のテストの点が散々だったことを話し始めた。その中で「せっかく徹夜までしたのに!」という単語が出たのでチャンスと思い探りを入れた。

「健吾も皆で噂してたあの曲! 『Good night』聴きながら勉強したのか?」と……。

 すると健吾は何のためらいもなくすんなりと答えた。「ああ、聴いてたよ! けど、まったく効かなかったぞ? 聴いてた日はむしろ子守唄がわりに寝ちまったぐらいだ!」と何とも健吾らしい返事だった。

(人によって効果があるかないか別れるようですね……)カゲロウがすかさず分析をいれる。そして僕も少し黙って考え込む……。

「どうした? 明?」と健吾が少し心配したような顔でこちらを覗き込んでいる。

「ごめん! 少し別のこと考えてたw!」と苦笑いしながら返事を返すと健吾も笑いながら「ホントに大丈夫なのか~w?」と心配しながらも2人で笑う。

 2人の笑いが静まり出した時に健吾が突然「あ!?」と声を出した。何かを思い出したようで、少し声のトーンを落としながら僕にそのことを話し始めた。

 健吾の思い出した話とはある噂ばなしだった。そう、例の曲……『Good night』のこと……。噂の曲の噂話……。つまり、噂の噂話だ。

 朝だというのに教室は生徒たちの声で溢れ。ともすれば自分たちの会話が周りの会話に邪魔されてしまうような状態だった。

 そんな中で話される。健吾の『Good night』についての新たな情報を僕は必至で聞き逃すまいと、健吾が話す噂の噂話に真剣に耳を傾けるのだった……!

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『~10夜:生徒会長~』

「寒い!」

 明がボソッと呟く。体育館のフローリングの床ってなんでこんなに冷えるんだ? 自分のクラスの列に並びながらこの異常な寒さについて考えていた。

 現在、体育館で終業式が行なわれているところだった。期末テスト、テストの返却も終わり。生徒たちは冬休みを待つばかりといった状態だった。

 先生たちは冬休みの過ごし方、注意すべきことについて壇上から生徒たちに話しているが誰もまともに話を聞いていないと言った状態で。気づかれない程度の声量で冬休みの予定などを話し合う生徒。退屈そうにあくびをしている生徒など……。生徒たちは早く終業式が終わることを考えているのだった。

 そんな中、明は心の中でカゲロウと会話をしていた。

(どうだ、カゲロウ? 誰か『Good night』について話している生徒はいるか?)

(それより、明様! 寒さは平気でございますか?)

(それは……いいから! どうなんだ?) 

(いえ、『Good night』について話している生徒はいないようですね……。)

(そうか……。)

 全校生徒が一か所に集まる機会などなかなかないのでこの機会にもしかしたらと少し期待をしていたのだが……。さすがに、こんな場所で都市伝説みたいな不思議な曲の話をする奴はいなかったようだった。

(そりゃそうだよな……)

(どうしました?)と聞き返してくるカゲロウに(いや、こっちの話だ)と軽く返事を返す。

 自分の考えが的外れだったことに軽くショックを受けていると、カゲロウが僕に話しかけてきた。

(明様、先ほどの健吾様がおっしゃっていた話どう思われます?)

 それは終業式に入る前、教室での健吾との会話についての質問だった。つまり、『噂の噂話』についてだ。健吾が教えてくれた話の内容を一言でまとめるとこうなる。

 「『Good night』の歌声と生徒会長の声が似ている」というものだった。

(どう思うって言われても、生徒会長の声なんて覚えてないからな~?)

(そうですか……)

(取り敢えず、確認してみるしかないだろ! 今から……)

 「え~では続いて生徒会長からの挨拶です。生徒会長お願いします。」終業式を進行する生徒会役員の一人がタイミングよく読み上げた。

 その言葉を受けて! 生徒会長がステージの裏から姿を現す。その瞬間、体育館中の空気が変わる。先ほどまで小声で話し合っていた生徒たちは話をやめ、あくびをしていた生徒は背筋を伸ばし皆、生徒会長に集中する。

 生徒会長は迷いなく歩を進めて、ステージ中央にある演壇に立つ。

(すごく……雰囲気のある方ですね)

 カゲロウでもそう感じるんだな……。と思いながら、明は演壇に立つ生徒会長へと視線を向けた。

 彼女の名は、黒亜 夜空(くろあ よぞら)。

 我が学園の名物生徒会長だ。まず、漂わせている雰囲気が並みの高校生のそれではない……。学校の教員たちですら、まだ親しみやすいと感じてしまうほどの空気を身にまとっていた。人の上に立つ人間の素質なのだろう。場の空気を支配するのだ。

 長い黒髪に一度だけ軽く手を触れ、少し間を作った後で生徒会長が話し始める。

「皆さん、学期末の試験お疲れ様でした。結果はどうでしたか?」

 身に纏う雰囲気とは真逆とも言っていいほどの甘い声でスピーチを始める生徒会長。明はその声を一言一句聞き逃すまいと集中して聞き取る。

(どうです、明様! 生徒会長の声は歌声に似ていますか?)

(似ている……? ん~~分からないな……。人の声をそこまで細かく聞き分けしたことがないから……。似ていると言えば似ているし、似てないと言えば少し違うような……?)

 生徒会長の声を聞きながら心の中でカゲロウと話合う。しかし、なかなか自分の感覚だけでは噂の確証は取れなかった。軽く頭を抱え、改めて生徒会長を見る。

 その時、生徒会長と目が合った。

「なッ!?」

 驚きで少し声を漏らし一瞬で目を逸らす! 隣近所の生徒たちが僕のことを不思議そうに見る。

(どうしました、明様!)

 慌ててカゲロウが声をかけてくる。

(今、生徒会長と目があった……! 600人近く生徒がいるのに僕のことを見ていた!)

(落ち着いてください。明様、大丈夫です。)

 動揺が隠せない明を落ち着かせようとするカゲロウ。 

(もう一度見てみる……)

 カゲロウにそう宣言すると、明はもう一度生徒会長に視線を飛ばした。しかし、生徒会長は全くこちらを見ておらず真っ直ぐ前を向いて全校生徒にスピーチを行っているだけだった。

 (気のせいだったのか……?)と少し自分の自信を無くす明。そうこうしているうちに生徒会長がスピーチを終わらせる。

「では、あまり長くなりすぎると校長先生のようになってしまうのでここらへんで……。皆さん、よい冬休みをお過ごしください。」

 スピーチを終えるとまた無駄のない動きでステージの裏へとさがっていった。

 気のせいだった? さっきの出来事が頭から離れず。その後の終業式は全く頭に入ってこなかった。

(大丈夫ですか、明様?)

 心配してカゲロウが何度も声をかけてきたがそれすらも頭に入ってこなかった。

 黙って考え込む、明……。

 何の確証もないのだが、明の勘は生徒会長に何かあると問いかけていた。

 そして、マジ物の第六感(カゲロウ)は、黙り込む明にたいして……。

(大丈夫ですか、明様? 明様? 大丈夫なのですか?)と問いかけつづけていた。

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『~11夜:静かな図書室~』

 パラ!

 本のページをめくる音が静かに響く。明は現在、図書室にいた。テーブル席に座って本を読んでいる。しかし、ただ本を読んでいる訳ではなかった。

 生徒会長を待ち伏せしていたのだ。

 図書室と生徒会室は非常に近い位置にあり、図書室から生徒会室の音を聞き取ることができるとカゲロウが言い出したのだ。しかも、足音で人物を特定することもできるという……。

 自分の体に宿ったこの謎のカゲロウ(影)にもだいぶ慣れてきたと思っていたが、まだまだ秘められた力が沢山ありそうで油断ならないと思った。

(静かですね、明様)

 カゲロウが心の中で話しかけてきた。

(そうだな……。特に今日は人も少ないしな)

 そういって軽く図書室を見渡してみる。生徒の数は10人もいないと思われる。今、目に入る範囲内で6人しかいない。しかも、皆静かに本を読むか、探すかしているだけで誰一人として声を出す者はいなかった。

 いつもならもう少し生徒がいて騒がしさも感じられたと思う。しかし、今日は終業式ということもあり、授業も早く終わったので大抵の生徒はすぐに帰宅したか、クラブに行ってしまったのだろう。

 つまり、今図書室にいる生徒は相当な本好きだといえる。わざわざ空いた時間を使って図書室を訪れるほどには……。そんな者たちが図書室でのマナーを破るわけがないのだった。

(明様が読んでおられるのは「睡眠についての書物」ですか?)

(分かるのか?)

(はい! 明様の目を通して何を見ているのかを視認することができます!)

 でた! カゲロウお得意の後出し!

(…………)

(どうされました? 明様)

(いや! 何でもない!)

 ツッコみたい気持ちはあったが、あえてツッコまないことにした。カゲロウのこの癖にも慣れていかないと……。

(不眠について何か分かりましたか?)

 カゲロウからの質問を受けてパラパラと本のページをめくっていく。しかし、そこには自分が欲している情報は書かれてはいなかった。少しは期待したがやはり、睡眠についての専門的な本は図書室にはなかった。あったとしても今手にしている。『ぐっすり寝れる睡眠法』というタイトルからして、あまり期待できない本しか置かれていなかった。

(ダメだな! さっぱりだよ……)

(そうですか……)

 残念そうなトーンでカゲロウが返事をした。

「それにしても本当に静かだな……」

 小さな囁き声を出しながら、改めて図書室を見渡す。こんなに静かなら眠たくなってもおかしくはずなのに……。しかし、あくび1つでない。どうして眠れないんだ……?あまり考えないようにしているが、油断すると自分の体に起きている異変について考えてします。

 「ダメだ!」と声を出しながら突然、席から立ち上がってしまう。そして自然と静寂を乱した者に視線が集まった。 

 明は、視線に気が付きその場で固まる。気まずい空気が消え去るのをその状態のまま待った。ありがたいことに10秒も立たない間にまた静かな空気が図書室の中を支配した。

(明様、どうされました?)

 突然の主の行動に軽く驚きながら声をかけてくるカゲロウ。

(何でもない。違う本を探すだけだよ……)

 そんなカゲロウの問を適当な言葉で返して。本を探しにゆっくりと移動を開始した。

 静かに移動しながら明は思った。

 静かすぎる図書室というのも考え物だなと。

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『~12夜:罠だとしても……~』

(明様、きました!)

 カゲロウの声を受けて、手にしていた本を本棚に戻す。

 生徒会長が生徒会室から出てきたのをカゲロウが察知したようだ。

(よし、尾行するぞ!)

(はい!)

 カゲロウと心の中で話しながら、図書室の出入り口まで素早く移動する。

(生徒会長は?)

(今、2階につづく階段を上がり始めました!)

 図書室から出てゆっくりと階段の方へと進む。カゲロウの聴力があればこその尾行。明は、かなりの余裕をもって生徒会長の後を追うことができた。

(2階に上がり廊下を少し歩いた先にある。扉を開けて中に入っていきました)

(分かった! どこの教室に入ったか確認したい。生徒会長がその部屋から出てくるかどうか注意してくれ!)

 本当にすごい聴力だなと、改めてカゲロウの能力に感心していた。そして、明は階段を一気に駆け上がり2階の生徒会長が入っていった教室を確認する。顔だけを廊下へ突き出して2階にある一番近い扉の教室名が書かれたプレートを確認する。

(え~~と、一番近い扉は……)

「んな!?」

 明は小さく声を漏らした。

(明様、生徒会長が部屋の中でまた1つ扉を開いたようです!)

 生徒会長の動きを細かく聞き取りそれを報告し続けるカゲロウ!

「タイム‼ 待った、待った、待った! 報告、スト~~プ‼‼‼」

 尾行しているということを忘れて、声を上げながらカゲロウにストップを命じた! 廊下と階段を利用していた何人かの生徒が明を不審な目で見つめる。慌てて自分の口を手で押さえるが、まったくもって間に合っていなかった。

 慌てて上がってきた階段を逆戻りして一階へ。

(どうされました、明様!?)

(ト・イ・レ‼ トイレに入ってたの‼ ト・イ・レに‼)

(トイ……レ? ですか?)

 まったく理解していないカゲロウの返事に明は大きく溜息をつく。影にそこら辺のことを理解してもらおうと、願うこと自体間違っているのだろうか? 明は軽く頭を抱えながら悩むのだった。

(とにかく、トイレを出たかどうかだけ報告してくれ! 分かったな!)

(分かりました)

 は~~。一度、大きな息を吐いて呼吸を整える。呼吸が元に戻るころに、ちょうどカゲロウから言葉が届いた!

(トイレから出てきました! 生徒会長はさらに上の階へ向かっています)

(よし、もう一度だ!)

 気合を入れ直して、改めて尾行を開始する。

 生徒会長が3階に上がると同時に明は2階へ。ちょうど、1階ずつ距離が空くように追跡する。

(今、3階に到着。まだ上がっていきます!)

 カゲロウが生徒会長の動きを逐一報告する。ゆっくりと近づきすぎないように後を追う。

(4階へ到着! まだ、上に行くようです!)

(4階の上に!?)

 明は、予想外の行先をカゲロウの口から聞き驚きを隠せなかった。

(明様、どうかされましたか?)

(4階の先は……屋上なんだよ!)

 明は、3階の時点で一度足を止める。そしてある可能性について思案する。

(罠……ですか?)

 カゲロウも同じことを考えていた様で、明に確認を取る。カゲロウの言う通り。罠の可能性が非常に高い。生徒会長といえど屋上に行く用事などまずないだろう……。思考の停止と同時に足も止まる。

(どうします……?)

(行くしかないよな‼)

 明は、カゲロウに返事を返しながら、先ほどより力強く階段を上り始める。

(罠だとしても行くしかない! 『Good night』の手掛かりは今はこれしかないんだから‼)

(分かりました! 安心してください、明様! 何かあればこの私目が明様をお守りいたします‼)

 相棒の心強い返事を聞いて、明はより力強く階段を上がっていくのだった。

 生徒会長がいる。屋上はすぐそこまで迫っていた……‼

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【続く】



読んでいただいてありがとうございます。面白い作品を作ってお返ししていきたいと考えています。それまで応援していただけると嬉しいです。