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#セルフライナーノーツ 代表訴訟の提起が不当訴訟となる場合〜不当訴訟とは〜

1 はじまり

本noteでは、私が公表した判例評釈・文献などについて、①書かなかったこと、②書きたかったことを等を記載する個人のnoteです。自分が書いて公開したものに解説を加えるなど「推敲が足らん!」とは思いますが、単なる雑記(あるいは長い言い訳)ですので、お読み捨てくださいませ。

2 書籍・文献紹介

掲載書籍:
藤村和夫編集代表、山口斉昭編・松嶋隆弘編・大久保拓也編「複雑困難事件と損害賠償II (青林書院、2023年)

上記書籍に、先日、
 「不当な株主代表訴訟の提訴に対する損害賠償請求事件」
と題する判批のようなものを掲載いただきました。対象は、東京高判令元年9月11日・2019WLJPCA09116006です。私の原稿は、15頁・16000文字程度の、短い小論です。


3 エッセンス

(1) そもそも不当訴訟とは

1 憲法32条は、国民に裁判を受ける権利を保障しています。他方で、訴えを提起された者(被告)にとっては、応訴への時間的・心理的負担が生じるのみならず、代理人を選任した場合には弁護士費用の負担が強いられます。

2 最高裁は、昭和63年、次のとおり、当該訴えの提起が違法な行為と評価される場合を示しました。

【判例】最判昭和63年1 月26日・民集42巻1号1頁(裁判所HP
「当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が①事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、②提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。けれども、訴えを提起する際に、提訴者において、自己の主張しようとする権利等の事実的、法律的根拠につき、高度の調査、検討が要請されるものと解するならば、裁判制度の自由な利用が著しく阻害される結果となり妥当でないからです。」との判断を示しました(下線部及び丸数字は筆者によります。)。

(2) 不当訴訟の議論状況・代表訴訟の係属数

1 そもそも不当訴訟については、認容事例の少なさとも相まって、不法行為法学でも十分な議論がなされていないように思われます。さらに不当訴訟に関する議論が、会社法学、殊に代表訴訟論に持ち込まれたときには、代表訴訟の制度趣旨や各制度(特に事前の提訴請求が必要であること、担保提供制度が存在すること等)をふまえて検討する必要が生じます。また、代表訴訟については、常に濫訴の危険が議論され続けてきたのであり、あくまで例外的事案でしか認められてこなかった一般民事事件における不当訴訟論とは状況が異なるのです。

2 令和4年の株主代表訴訟の新受件数は34件であり、平成26年以降はほぼ同水準で推移しているとされます(旬刊商事法務2332号57頁(編集者執筆「ニュース欄」)参照) 。今回取り上げた裁判例は、株主代表訴訟の提起が不当訴訟とされた、数少ない事例の一つといえます。本稿では、不当訴訟論を概説したうえで、代表訴訟の各制度が昭和63年判決の判断枠組みに与える影響、その結果として代表訴訟がいかなる場合に不当訴訟と評価され得るかを検討しています。


4 行間とその先

まず、「不法行為法学でも十分な議論がなされていない」としましたが、相当程度の文献を調査した結果、不法行為法学において、不当訴訟についての議論が活発とはいえないことは確かだと思います(ただし、スラップ訴訟の検討は若干存在します。)。

次に、「株主代表訴訟の提起が不当訴訟とされた、数少ない事例の一つ」と記載しました。しかし、私が知る限り、本件が唯一です(担保提供命令に関係するものは除く。)。なぜ、数少ないのか、その理由は判然としませんが、①そもそもの不当訴訟のハードルの高さに加え、②会社法の特殊性、③担保提供命令がなされると代表訴訟までいかない現状、④非公開会社であって表面化しない可能性等を考慮して検討する必要があります。

私は、弁護士費用賠償に興味をもっております。そして、不当訴訟と弁護士費用は、密接に関連する問題です。今後は、諸外国の動向(特に米国法理)を踏まえて、より一層の検討をする予定です。


5 執筆者

STORIA法律事務所
弁護士 菱田昌義(MAIL:hishida@storialaw.jp)
researchmap:https://researchmap.jp/hishida.masayoshi
所属事務所:https://storialaw.jp/lawyer/3738
※ 執筆者個人の見解であり、所属事務所・所属大学等とは無関係です。


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