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#コラム 民事訴訟における尋問時の文書等(書面)の提示・弾劾証拠・異議

■1 はじめに

私は、学生の方と、①模擬裁判や②法文書作成についてお話することが多いのですが、講義中、細かな尋問作法について説明する時間がありません。そのため、省略しがちな民事訴訟の尋問時における①文書等の提示のルールや②異議のルールについて、本noteで概説してみたいと思います。なお「我妻・有泉コンメンタール」風のレイアウトで説明をしてみました!!

我妻・有泉コンメンタール民法 第8版 総則・物権・債権 我妻榮


(1)尋問に関する主な参考文献

条解規則 最高裁判所事務総局民事局監修「条解民事訴訟規則」(司法協会、1997年)
加藤 加藤新太郎編著「民事尋問技術<第4版>」(ぎょうせい、2016年)
ゴールデンルール キースエヴァンス著、高野隆翻訳「弁護のゴールデンルール 」(現代人文社、2000年)
反対尋問 フランシスウェルマン著、梅田昌志翻訳「反対尋問」(ちくま学芸文庫、2019年)


(2)民事訴訟全般についての主な参考文献

民事訴訟全般については、下記の優れた文献があります。
① クロスレファレンス民事実務講義<第3版> 京野哲也

② 企業法務のための民事訴訟の実務解説<第3版> 圓道至剛


■2 尋問時の文書等の提示 

【法律】民事訴訟法203条(書類に基づく陳述の禁止)
証人は、書類に基づいて陳述することができない。ただし、裁判長の許可を受けたときは、この限りでない。
※ なお、法203条は「第二節 証人尋問」のものであるが、当事者尋問でも同条は準用されている(法210条)。

 e-GOV https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=408AC0000000109#Mp-At_203

【規則】民事訴訟規則116条(文書等の質問への利用)
1 当事者は、裁判長の許可を得て*2、文書、図面、写真、模型、装置その他の適当な物件(以下この条において「文書等」という。)*1を利用して*3証人に質問することができる*4
2 前項の場合において、文書等が証拠調べをしていないものであるときは、当該質問の前に、相手方にこれを閲覧する機会を与えなければならない*5。ただし、相手方に異議*6がないときは、この限りでない。
3 裁判長は、調書への添付その他必要があると認めるときは、当事者に対し、文書等の写しの提出を求めることができる。
※ なお、規則116条は「第二節 証人尋問」のものであるが、当事者尋問でも同条は準用されている(規則127条)。

裁判所PDF https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file2/20160104minsokisoku.pdf

(1)文書等 
文書等とは、原則として、提出済みの甲・乙号証が典型例である。
しかし、証拠提出されていないものであっても、たとえば、①証拠提出されていない図面や、②ある製品そのもの(製品の欠陥等の構造が争点になっているとき、通常は、写真又は写真撮影報告書を書証として提出しているところ、尋問時には実際の製品を示した方が尋問しやすいことがある)について示すことが考えられる。

(2)裁判長の許可を得て
提示の方法としては、「裁判長の許可を得て」とされている。
証拠調べ済みの文書等であれば、特に確認もなく「甲●を示します」と述べ、証言台に当該文書等を持って行くことが通常であろう。
しかし、証拠調べがされていない文書等については「裁判長、●●を示します」と確認をすることが多いと思われるが、尋問の流れや相手方に時間を与えないため、あえて証拠調べ済みの文書等と同様に示すこともありえよう(なお、証拠調べがされていない文書等の提示については、後述の■3(1)も参照)。

【コラム】刑事事件での書面を示す場合との異同
刑事事件において書面又は物を示すことは、下記の場合に限定されている。
① 同一性確認のため書面又は物を示す場合(刑事訴訟規則199条の10)
② 記憶喚起のため書面(供述録取書を除く)又は物を示す場合(刑事訴訟規則199条の11)
③ 供述の明確化のため図面、写真、模型、装置等を示す場合(刑事訴訟規則199条の12)
このうち、①については、裁判長の許可は不要とされている。これは、同一性確認の必要がある場合には、書面又は物を提示しなければ尋問の目的を達成することができないのが通常であるためであり、民事訴訟でも同様に裁判長の許可は不要と考えられる(条解規則256頁注1)。

なお、刑事事件では、書面を示す際、いかなる根拠によって示すのかを事前に告げて、証言台にもっていくのが通常である(発言例「記憶喚起のため、弁●を示します」)。しかし、民事事件では、書面を示す理由は述べないのが一般的である(発言例「甲●を示します」)。

(3)利用して
通常は、証言台に、該当する文書等をもっていく。
さらに、文書等を利用するにあたって、
① 書画カメラ等の法廷設備を利用するときには事前の確認・調整
② 原本による尋問が必要な場合には原本持参(下記【参考文献】参照)
③ 証拠ファイルが膨大になる場合には、事前の提示予定証拠のみを抽出したファイル作成(さらには裁判官用ハンドアウトの準備)の検討
等が考えられる。
なお、関連して、遮へいやビデオリンク方式等を用いる場合についても、証拠申出書の提出段階で確認・調整しておく必要がある。

【参考文献】
「書証を示して尋問する際,原本として提出された場合(⇒§449)には原本を示すことが原則である(だから⇒§255)。特に反対尋問において,書証の成立に関して弾劾しようとする際には原本を示すことの重要性は大きい(⇒§30)。そのためには,相手方に証拠調べ期日に原本を持参させる必要があるが,特別な規定はないので,事前に相手方代理人に原本を持参するように注意喚起しておくとよい(相手方が本人訴訟の場合には,先立つ期日で注意喚起するか,期日間に書記官から連絡してもらうとよいだろう)。あえて原本を用いることを妨げた場合には,訴訟追行上の信義誠実義務(民訴2参照)に反し,証明妨害の一環として考えるべきであろう(弁論の全趣旨として主張する⇒§430)。」

京野哲也「クロスレファレンス民事実務講義第2版」(ぎょうせい、2015年)236頁


(4)質問することができる
文書等を示して「質問することができる」だけであって、示したものが証拠になることはない。
なお、規則116条3項には調書添付の規定がある。調書添付(の職権発動)を求めることで、尋問調書と一体となった資料となり、記録に編綴される。しかし、これは事後に尋問調書をみたときの理解の助けになるためのものに過ぎず、証拠調べされていない文書等については証拠ではない。なお、調書添付を求める場合に備え、文書であれば、事前に添付用文書も含めて用意しておく必要がある。

文書等の示し方のポイントについては、特に加藤158頁を参照されたい。
一般的な流れとしては、次のとおりである。
①「甲●●を示します」と発言する(調書となったときの便宜にもなる)
②黙読をさせる。
③閲覧後にすぐに引き上げるか、置いたまま質問をするかはケースバイケースである。
④最初にすべき質問は、文書との関係(語るだけの資格・立場・知見があるのか)であることが多い。


(5)閲覧する機会を与えなければならない
規則116条2項を字義通り解すると、
 原則:相手方に閲覧の機会を与えなければならない
 例外:異議がないときは、閲覧の機会は不要
ということになる。
そこで、閲覧機会が与えられていないままに証拠調べがされていない文書等が示されようとしているときには、同条2項但書により異議を述べ、「質問の前に」閲覧機会を求めることができる。
そのため、異議を述べて閲覧機会を求め、当事者本人及び代理人弁護士が黙読する機会と時間を確保して、当該文書等がどのような意味をもつものかを(数秒であっても)検討時間を確保するべきである。

【参考文献】
「(規則116条)本条1項の規定により文書等を利用して証人に質問をする場合、相手方の訴訟活動に与える影響が大きいので、当事者間の公平や相手方の質問の便宜等を考慮すると、証人に文書等を示す前に、相手方にこれを吟味する機会を与えることが望ましいと考えられる。」

最高裁判所事務総局民事局監修「条解民事訴訟規則」(司法協会、1995年)255頁


(6)本条に関する異議
・裁判長の許可を得ていません(例外:文書の成立が争われている場合には不要)。
・事前の閲覧の機会がありません。

■3 尋問時の文書等の「証拠」としての提出(弾劾証拠を除く)

【規則】民事訴訟規則102条(文書等の提出時期)
「証人若しくは当事者本人の尋問又は鑑定人の口頭による意見の陳述において使用する予定の文書は、証人等の陳述の信用性を争うための証拠として使用するものを除き*1、当該尋問又は意見の陳述を開始する時の相当期間前*2までに、提出しなければならない。ただし、当該文書を提出することができないときは、その写しを提出すれば足りる。」

 裁判所PDF https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file2/20160104minsokisoku.pdf

(1)証人等の陳述の信用性を争うための証拠として使用するものを除き
後述の弾劾証拠を除く趣旨である(証拠として提出するのではなく単に示す場合については、下記文献を参照)。

【参考文献】
「102条は、証人等の尋問に使用する予定の文書は、いわゆる弾劾証拠を除いて、尋問開始時の相当期間前までに提出することを求めているので、本条の規定に基づき利用できる文書や準文書は、既に提出されたものか、いわゆる弾劾証拠であることが原則になる。ただ、例外的であろうが、証人の記憶喚起等に用いる文書でそれ自体につき書証としての申出をしないものがあるときはこれを利用することも許容される。」

最高裁判所事務総局民事局監修「条解民事訴訟規則」(司法協会、1995年)・256頁注2


(2)相当期間前
証拠として使用する場合には、尋問期日の相当期間前までには、裁判所と相手方に、証拠として提出しておく必要がある。ここにいう「相当期間前」とは、概ね尋問期日の1、2週間前と考えられる。

【参考文献】
「民事訴訟法及び同規則は,基本書証は,訴え提起時に訴状に添付し(民訴規則55条),その後も適切 な時期に証拠を提出するものとし(民訴法156条), 尋問に使用する予定の文書は,弾劾証拠を除いて,当該尋問を開始する時の相当期間前までに,提出し なければならない(民訴規則102条)と規定している。 しかし,実際には,以前よりも少なくなってはいるものの,証拠調べ期日の直前や,ひどいときには尋問期日の当日になって証拠を提出する例がいまだに後を絶たない。早期に提出可能な証拠であるのに, 争点整理手続後に提出されると,裁判所は,その証 拠の信用性について疑念を抱くなど提出者にとって 不利になることが少なくない。人証の尋問までに新 たな証拠が発見された場合には,遅くとも裁判所及び相手方の準備が可能な,証拠調べ期日の1,2週間前までに提出すべきであろう。」

東京地方裁判所プラクティス委員会「効果的で無駄のない尋問とは何か」判タ1340号50頁

なお、福岡地裁のプラクティスでも「争点整理手続終結後に人証調べに必要な書証の申出等を追加する例外的場合であっても,遅くとも人証調べの1週間前までに,終了するものとする。ただし,弾劾証拠はこの限りでない」とされている(船所寛生「福岡地方裁判所における民事訴訟の口頭協議活性化に向けた取組について」判タ1440号38頁)。


(3)本条に関する異議
弾劾証拠以外の証拠が尋問時にはじめて提出されようとしているときには、規則102条に反するとして異議を述べることが検討できる。

■4 尋問時の文書等の「弾劾証拠」としての提出

(1)弾劾証拠の提出方法
弾劾証拠を提出する場合には、セオリーとして、相手方の相反供述を引き出した上で、「弾劾証拠として、甲●を提出します」と述べ提示する。
実務上、複数の弾劾証拠を予定している場合であっても、尋問の進行上、一部の弾劾証拠の提出を断念せざるを得ない場合もある。そのため、①弾劾証拠ごとに証拠説明書を作成し、かつ②証拠自体に証拠番号は振らず空欄にするという事前準備も検討できる(なお、証拠説明書は「尋問終了後にすみやかに提出する」と述べて証拠だけを用意することも考えられよう。)。

【やりとり例】
証人「Aさんとは、メールなどしたことはありません」
代理人「弾劾証拠として、甲●・メール履歴を提出します」
代理人(書記官に裁判官用と相手方用の甲●を手渡し、裁判官と相手方の手元に運ばれたことを確認した上で)「この甲●の発信者はあなたですね」
証人「……はい」

【参考文献】
「代理人弁護士は、証人等の陳述の信用性を争うための証拠(弾劾証拠) (規則102条本文参照)を、当事者尋間・証人尋問中に証拠として提出することがあります。具体的には、代理人弁護士は、事前に証拠(原本があるものについては写しを作成して、その写し)に証拠番号を記載したものを、裁判所と相手方当事者の数だけ用意して手元に置いておき、必要になった際に「弾劾証拠として、甲●号証を提出します」などと述べて、証拠(写し)を担当裁判所書記官等に手交して、裁判長(裁判官)と相手方の代理人弁護士に渡してもらい、その場で(原本があるものについては原本を示して)証拠として取り調べてもらった上で、尋問の続きにおいて当該証拠を踏まえた質問をすることになります。」

 圓道至剛「若手弁護士のための民事裁判実務の留意点 」(新日本法規、2013年)・208頁

【参考文献】
「そこで、『証人等の陳述の信用性を争うための証拠』として用いる証拠(弾劾証拠)については、例外的に、相手方への事前開示が不要とされています(訴規102参照)。しかし、この場合でも、質問の前に相手方に閲覧の機会を与えなければならず(訴規116Ⅱ)、また仮に弾劾証拠の意義がないものを後出しする場合は、裁判長により制限されることもあります(同116Ⅰ)。」

 京野哲也編著「民事反対尋問のスキル」(ぎょうせい、2018年)・17頁

なお、弾劾証拠について、証人に示す前に、書記官を通じて裁判官と相手方代理人に証拠提出するというフローである限りは、それをもって閲覧機会を与えたと考えてよいであろう。それに加え、より時間をとっての閲覧機会を与えるとなると、弾劾証拠の性格に反することになるからである(菱田私見)。


(2)そもそも弾劾証拠にあたるか
そもそも当該証拠が弾劾証拠にあたるかについて、悩ましいケースが多い。

【参考文献】
畠山稔(当時:東京地方裁判所民事第5部 部総括判事・36期)発言
「畠山:裁判所はその場で判断しなくちゃいけませんので,微妙じゃ済まないんですね。率直に言うと弾劾証拠と言われているものの大半は,弾劾証拠ではなくてもっと別なところで使えるものが多いと思います。従って,本来弾劾証拠として出すべきものというのはもっと絞られてしかるべきです。ところが弾劾証拠として出されることが現在でも時々あります。それは証拠の適時提出主義からすると問題がある運用です。そういう運用を認めない方向で裁判所や弁護士会で取り組むべきじゃないかなと個人的には思っています。
弾劾証拠だと言うのならば弾劾証拠として扱うことに徹するというのが,1つの解決策だと思います。弾劾証拠と言いながら,積極証拠として認定に使うと,結局尻抜けになってしまうわけですね。それを許す限りは,弾劾証拠だといって後出しをすることがなかなかやまないということになりかねません。従って,原則的な対応からしますと,弾劾証拠として提出すると言った以上は,その旨を書証目録に記載する。記載した以上は主要事実の積極証拠としては使わない。相手方の信用性の弾劾のためにだけ使う。そういうふうに裁判所も運用をしっかり徹底すべきではないかと思います。
現状を言いますと,裁判官にもいろいろありまして,比較的緩やかに扱っていることがむしろ多いんじゃないかと思います。けれども,理論的には弾劾証拠と言った以上は,相手方のその信用性の減殺とか弾劾するためだけに使う証拠として扱うことに徹した方が望ましいと,私としては思っております。」

 「民事裁判における効果的な人証尋問」LIBRA11巻7号(2011年7月号)・17頁
https://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2011_07/p02-21.pdf


■5 発展問題(尋問者が、証拠調べ未了の文書の朗読をして尋問をしたとき・私見)

たとえば、相手方代理人から「あなた(証人)がAさんから受け取ったメールには、あなた(証人)の発言として▲▲と書いているのですが、このような発言をした記憶はありますか」等の質問がされることがある。

この場合は、事実上、文書等の提示と同一の行為であるので、文書等として提示する趣旨であるのかを確認することも検討できる。文書等であれば、上記■2同様となる。

仮に文書等を示す趣旨でなくても、いわゆる「伝聞証拠」類似の危険がある。そのため、誤導尋問であるとしての異議、具体的には、上記例でいうと、①そもそもメールを受け取ったことが前提となってしまっており、受信したかどうかの確認が必要となる場合、②伝聞が中心となっているところ伝聞供述の存在や真実性が前提になっているため誤導にあたることがある場合等には誤導尋問にあたるという異議を検討しうる。

また、民訴規則115条1項では「質問は、できる限り、個別的・・・にしなければならない。」とされている。そのため、個別具体的ではない質問であるとして異議を述べることも検討しうる。すなわち、特に、メールが証拠として提出されておらず、提示もされていない場合には、まずメールの授受を確認し、その記載内容について確認(提示させるか、提示しないなら誘導なしで聞くべき)した上で、その記載内容についての認識を問うべきだからである。

以 上

■6 異議

今後、機会があれば「異議」についてまとめたいと思います。なお、十分な推敲は未了ですが、暫定的資料として下記もご参照ください。私は、尋問時、A4・両面に印刷して、ハードクリアケース(硬化ケース)にいれて持参しております。


■7 執筆者情報

STORIA法律事務所
弁護士 菱田昌義(hishida@storialaw.jp
所属事務所:https://storialaw.jp/lawyer/3738
リサーチマップ:https://researchmap.jp/hishida.masayoshi
※ 執筆者個人の見解であり、所属事務所・所属大学等とは無関係です。


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