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「お嫁くん」の偶像がもたらす多幸感

 私にとって好きという一言で済ませるにはあまりにも受け取ったものが多すぎるドラマ、「私のお嫁くん」が先日最終回を迎えました。
 このドラマについて書くのは2度目なのであらすじは割愛しますが、最終回を言語化してくださったこちらのコラムが、とてもフラットで、でもお嫁くん用語を多用してくれていて個人的にとてもはまったので、私の偏った脳内の補強にはあまりにも恐れ多いですが、置かせていただきます。最終回翌朝に拝見して、興奮で全くもって消化しきれていなかった私の脳内をなんの引っかかりもなくまるっと表現してると感じたあの感動はすごかった。

 少女漫画原作のラブコメとして「女性の共感性を狙っていそう」という面と、「現代受けしそうなメッセージ性を放っているな」という面で、かなり「いかにも」な「お嫁くん」というタイトル。最初の頃は、「働く女性を家事で助ける男性」や「契約的同居」というたくさん消費されてきたテーマを思い浮かべ、比較する声もあったように思います。
 “推しの私得すぎる設定、ごちそうさまです…“ という見方で入り、その感情を無視することなんてできなかったのでフラットな感情で語るのは難しいけれど、そういう声は目に入っていたし、何より2話目くらいまでの私自身が、このドラマを内容的にどう受け取ったらいいか、戸惑っていたことをすごく覚えているので、オタク心をできる限り抑え、「お嫁くん」から受け取ったメッセージを、残してみます。

 「家事力」を利用し、憧れの先輩と同じ屋根の下に、あれよあれよと入り込む山本くんと、汚部屋を見られ軽蔑されたと思った後輩が、何故か「お嫁」に来てくれることになったはやみん。お互いの利害が(一応)一致し、同居をスタートさせたはいいものの、ここからラブコメになっていくって、
「山本くんの下心をどう描き、あり得ないほど罪深いはやみんがどう山本くんと自分の気持ちを処理するのだろうか」…

 でもそれは、私自身が「お嫁くん」という言葉に縛られていたということだったのかもしれない。それが、11話かけて2人が教えてくれたことでした。

 山本くんは自分が家事が得意なだけでなく、「女性には家事ができていて欲しい」と考えていたし、はやみんも「お嫁さんにしたい」が一人歩きしていることに違和感を抱いているものの、決して家事を放棄して誰かに任せきりにしようとはしていない。

 山本くんを引き止めたあの空港で、はやみんは、「お嫁さんはいらないけど、山本くんのことを待っていたい」と伝え、山本くんは、「嫁だから家事をしていたわけではない、速見先輩のためにしていた」と答える。2人の間にあるのは、「嫁」「旦那」という言葉が想像させるどちらが何をするかという形式ばった役割ではなく、「一緒にいたい」という至極シンプルな感情だということに、美しい涙が。と同時に彼らの走馬灯から、それを守ることがどれほど覚悟が必要で、尊いことかを、改めて感じさせられました。

 誰かの「お嫁さん」になるために誰かと結婚するわけではないけれど、「家事」は誰かがやってくれるものでもない。2人が大事にしている「一緒にしよう」という言葉が、「お嫁くん」の一つ目の答えだと思いました。この言葉を出すとやっぱり思い浮かぶラブコメの概念を超えたあのシーンに軽率にぶっ飛びそうになりますが、あの場であのセリフを使ったことはもはや何周も回って本当に大事なことだったんだなと、改めて思うのです。だって一緒に洗濯物を畳む2人、一生眺めていたいくらい、多幸感に満ちているもの。

 そして「お嫁くん」に度々登場する「〜神」という言葉。神の定義を考え始めたらいよいよ書き上げられないので「人を超えた存在」と勝手に解釈しますが、この「神」という偶像が、2人が対等に、時に「家事」に、時に「営業」をはじめとする仕事に打ち込む人間であることを、「神」になるべく、努力し続けられる強い人間であることを示しているように思えます。

 そうなってくると、「お嫁くん」という愛称さえも、偶像であるような気がしてきて。ジェンダーを意識した問題提起は、狙いすぎると「意識しすぎている感」があるなと受け取ってしまう…のは私自身が意識しすぎているのかもしれないけれど、「お嫁くん」の着地は、そんな捻くれた私にも、大事なことをたくさん届けてくれた、素敵な作品でした。
 尻切れ蜻蛉みたいですが、難しいことを言いたいわけじゃないのに簡単なことを難しくいってるだけの文章になってしまった気がするので最後はふわっと終わらせます。

 波瑠ちゃんのおかげで、この先も大事にしたい、愛すべき作品がまたひとつ、増えました。「わたしのお嫁くん」に関わり、届けてくださったすべての皆様に何度感謝してもしきれません。素敵な作品を届けてくださり、ありがとうございました。
 また2人の愛おしい日々を、見せてもらえる日が来ることを信じて…

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