意識して口に出さないようにしている言葉たち

部屋ば片付けなっせ。外では標準語を話しているつもり(イントネーションはおかしい)のだけど、子どもたちと話すときには熊本弁を使う頻度が上がる。とくに子どもたちになにかをしてもらおうとするときには、「~しなさい」の熊本弁である「~しなっせ」を使うことが多い。ニュートラルなテンションで口にすると、すごくやわらかい印象になると思う。僕は誰に対しても命令形を使うことができない。子どもや部下や後輩など一般的に目下と言われる人に対してもだ。そもそも目下という概念もないし、人間関係を上下関係でとらえることもない。そんな感じなので、命令をするというシチュエーションがなく、命令形を使う機会がない。

命令形だけでなく、人を罵倒する言葉だとか、乱暴な言葉を口にすることができない。人に「死ね」なんて言う人がいて、もちろん本当に死ねと思っているわけではないことは理解しているのだけど、そんな言葉は使ってほしくない。自分ではもちろん言わない。攻撃的な言葉や荒っぽい言葉を使わないのは、僕の性格によるものだろう。世界が平和であってほしい。そういう言葉を使わないと言うよりも、使えない。だから無意識に口にすることがないので、使わないようにしようという意識もない。一方で、ついつい言ってしまいがちだけども意識的に口にしないようにしている言葉というのがいくつかある。

ふだんから「がんばりたくない」「がんばらずに生きていきたい」と宣言している。だから「がんばる」という言葉は使わないように気をつけている。これはなかなか難しくて、義務教育でさんざん「がんばります」と言ってきたので、ついつい口にしてしまう。それを意識して止める。シングルファーザーは生きているだけでがんばっている状態なので、それ以上はがんばらないように自分を抑えるというのがひとつの目的だ。がんばりすぎて倒れてしまったら子どもの世話ができない。目的はもうひとつあって、「がんばる」と口にした瞬間に思考停止している気がするので、そこに陥らないようにするということだ。だから「がんばる」と言うかわりに、具体的にどうするのかを口に出すように意識している。

「~しなければならない」「~するべき」というのも意識して使わないようにしている。将来は予測できないのだから、なにをしなければならないかは断定できないはずだ。また、自分の常識は他の人にとっては常識ではない。自分がすべきだと考えていても、それが相手にとっても正しいとは限らない。僕が大切にしていることのひとつに「多様性を許容する」ということがある。これはお互いに理解し合おうということではなく、理解はできないけれども受け入れようという姿勢だ。この世界観では「こうしなければならない」という共通認識を持つことは不可能だと考えている。それに「~しなければならない」「~するべき」というのは自分の主張を相手に押しつける言葉なので使いたくない。僕は自分の主張を紹介はするけれども、他の人に押しつけるつもりはまったくない。かわりに「(僕は)~したほうがいいのではないか(と思う)」という言い方をするように心がけている。

子どもたちに対しては「ダメ」と言わないようにしている。なにをするのがダメなのか、僕には判断できない。子どもたちの世代の常識を自分の世代の常識で測ることはできないと考えている。それでも、この常識は次の世代でも常識であってほしいというものはある。たとえば人を傷つけるような言動をしないというのは、ずっと続いてほしい。わが子が人を傷つけるようなことを口にしたときには「ダメ」を使う。ただそれは人が傷つくかもしれない言葉を使おうとする意識がダメなのであって、なにが人を傷つけるかは自己判断してほしい。最近ではセクハラやパワハラの話題が増えてきたように感じるが、こんなこともセクハラやパワハラになるのかと驚いている年配の方も多いようだ。なにが人を傷つけるかは時代によって変わる。ところで「ダメ」を言いかえるとしたらどうなるだろう。子どもたちに対しては「これをしたらどうなると思う?」とか「こう言われた人はどんな気持ちになるかな?」のように質問をすることが多いように思う。

人生に勝敗はないという意味で「勝ち」「負け」という言葉も避けている。成功者という存在がよくわからないので、そういう意味での「成功する」も使わない。こうして自分が使えない言葉や意識して使わないようにしている言葉に注目してみると、自分の望む世界がよりはっきりりする。他人を攻撃せず争いのない世界。みんながフラットで上下関係のない世界。自分の思想を押しつけることなく、相手の思想を受け入れる世界。実現してもしなくてもいいのだけど、せめて自分は理想の世界を壊すような言葉を口にしたくはない。思考は言葉に影響を与えるのだけど、口に出す言葉もまた思考に影響を与えうる。自分の思考に悪い影響を与えたくないから、僕は使う言葉を意識して選ぶようにしている。

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