ボランティアカメラマンは社会への恩返し

カメラバッグに機材を詰め込んでいく。会場の広さはどれくらいだろうか。照明はどうなっているだろうか。ある程度どのような状況にも対応できるように機材を選ぶ。

市内で活動するいくつかの非営利団体でボランティアカメラマンをしている。イベントのある日に撮影に出かけ、終わったら写真を提供する。団体はその写真をSNSに流すなど広報に利用することができる。カメラマンだけではなくIT関連の相談を受けることもある。例えば子どもたちが通う小学校ではPTAの顧問としてサイトやメール配信システムの構築をしている。

僕はなぜこのような活動をはじめたのだろうか。ひとつには、ひとり親になって社会問題が人ごとではなくなったというのがある。ひとり親、多子世帯、心の病との付き合いは一歩踏み外せば生活することすら困難になる可能性があるだろう。もはや様々な社会問題が人ごとではない。ひとり親の貧困や子どもたちの貧困について調べはじめた。想像すらできなかった世界が広がっていた。一方でこんな僕がそれなりに生活していけているのは、まわりの人たち、もっと言えば社会のおかげだと思うようになった。何か恩返しができないだろうか。

そして僕を直接的な行動に駆り立てた人物がいる。洋食屋の社長さんなのだが、月に1回お店を貸し切ってひとり親家庭の親子を集め、みんなでご飯を食べて遊んだり学んだりという会を開催している。この会に参加すると、こんなによくしてもらっていいのだろうかと感じずにはいられない。ずいぶんと苦労をされてこられたようなのだけど、今こうしてひとり親家庭にしあわせを届けている。僕にもなにかできることはないだろうか。行動を起こさなければという気持ちが高まっていく。

お世話になっている人たちに直接恩返しをするのもいいのだけど、ペイフォワード式にこの善意を次に人たちに伝えられたらと考えた。そこで日頃から気になっていることが頭に浮かぶ。いろいろなNPOや非営利団体のサイトやSNSを見ていると、見せ方がうまい一部の団体とそうでない大多数の団体がある。せっかく有益な活動をしているのに、それをうまく伝えられていない。SNSに投稿する写真1枚でも違ってくるのに、常々そう感じていた。

もともと写真を撮ることに興味があって、イベントの写真を撮ったりしている。そこでボランティアカメラマンになることを思いつく。もちろんサイトやシステムの構築も相談を受けることはできるのだけど、ひとり親でわが子にも時間をとらなければならない。日をまたいで時間を取られるシステム構築よりも、半日程度の活動が一単位であるカメラマンであれば実現可能な気がした。

市のNPO・ボランティアセンターのサイトで非営利団体を探す。今回はひとり親や子ども関連の団体で絞り込んだ。十数団体をピックアップして連絡窓口にメールを送る。半数ほどから返信があっただろうか。そこから何団体かの代表の方とお会いする。カメラマンは必要ないのだけど活動を広く知ってもらいたいという団体にはそれに応えられる人を紹介してイベントを開催してもらった。別の団体にはFacebookページの作成などカメラマンとは別のお手伝いもした。そしていくつかの団体でカメラマンをしている。平均すると月に2回程度だろうか。

非営利団体でのボランティアカメラマンにはいくつか気をつけなければならないことがあると思う。子どものイベントや問題を抱えた人が集まるイベントでは、参加者の顔が写っていないカットを撮っておく必要がある。顔を写さずにイベントが盛り上がっている様子を伝えなければならない。また、最初にイベントのスタッフであることを紹介してもらって、参加者に不信感を与えないようにしている。写ってはいけない人をあらかじめ把握しておき、記録用にカメラは向けるがネットにアップしたりはしないことを伝えておく。参加者に不安を感じさせないことを心がけている。

撮影が終わって帰宅するとすぐに写真のセレクトとレタッチを行う。顔を出してはいけない人の写真は外さないといけないし、微妙な表情など写っている人が嫌な思いをする写真は選ばないようにする。子どもたちの写真はそのお母さんがどんな気持ちになるか想像しながら選んでいく。半日で数百枚の写真から3分の2ほどをセレクト。それを1枚ずつレタッチしていく。数百枚の写真をレタッチするのはしんどい。完璧を目指すことはできないが、8割がた納得のいくくらいに仕上げる。仕上げた写真を相手のITリテラシーに合わせた方法で送る。ここまでをその日のうちにやってしまう。

ほとんどの団体はSNSで活動報告をするので、遅くとも翌日までには写真が間に合っていなければならない。そのためにも相手に写真をセレクトしてもらってそれを完璧にレタッチするという方法はとれない。それにもともと質のよくない写真を投稿していたのだから、レタッチしていない写真を渡してもそれを使われてしまう。その日のうちにある程度のクオリティの写真を提供するということが重要だ。早さと品質とのバランスに気をつかう。

正直に言うと、半日撮影しっぱなしで帰宅して数百枚の写真と格闘していると、自分はどうしてこんなことをしているんだろうと思う時がある。けれでも、先に書いたように僕を生かしてくれている社会に何かを返したい。それに社会貢献活動をしている方たちはみな、ビジョン、情熱、行動力がすばらしく、そこらのIT系スタートアップがおままごとに見えるくらいだ。ただその見せ方があまり上手ではない。そこをサポートすることができれば、世の中をもっとすばらしいものに変えていけるんじゃないだろうか。

それから僕が特定の団体に所属せずに複数の団体のお手伝いをしている理由を説明しておこうと思う。僕は自分に大きな力がないことを自覚している。どこかの団体に所属してもプラス1にしかならないだろう。でもその1の力で10の団体に作用することで10団体がそれぞれプラス1されると全体でプラス10になる。そうやって広く関わって行こうと考えているので、メールを受け取っていない他の団体からも相談があればお話を聞きに行こうと思っている。

子どもたちが寝静まるのを待って、写真のセレクトとレタッチをはじめる。イベント参加者の真剣な眼差し、登壇者の熱意、いきいきと活動する子どもたち、そして主催者がふと見せる表情。たくさんの人たちに伝わってほしい。ボランティアカメラマンの日は反省しっぱなしだ。つぎはもっと伝わる写真を撮りたい。

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