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怪談琵琶湖一周より「すじえび」GWver.お読みいただいておおきにでした。

 ふと思いついて始めたGWの余興も最後の一話となりました。先の見えない不安定な日々ですが、なにがあれしましたら、ぜひ一度ゆっくり琵琶湖に遊びに来てくださいね。

「すじえび」
 滋賀県の北部に古戦場として知られるS岳がある。
 そのS岳から数キロ・メートル南に位置する、とある漁村に、かつてこんな話が伝わっていたという。

 その昔、琵琶湖に沿うようにして在るその漁村では、雨風の強い夜は、どの家もきっちりと戸を閉め、無闇に外出をせずに静かに過ごすという習わしがあった。

 真夜中になり、雨風と波しぶきが引き戸をガタガタと揺らす音が大きくなってくると、それらの音に混じって
 ドンドン、ドンドンッ。
 と、引き戸を叩く音がするのだという。

 のっぴきならない調子で、二人、三人が叩いている音である。

―――もしかしたら近所の親戚の誰かに何かあったのかもしれない。
 雨風が家屋を軋ませる音と、何者かが戸をドンドンと叩く音が合わさって、家中の空気が不穏に震える。

 戸の向こう側にいる何者かが、戸を叩く激しさとは裏腹にまったくの無言だということがなおさら不気味である。

―――戸を開けなくていいのですか?
 と目が訊く妻に、夫は
―――今夜は(あの方たちは)うちに来やったんや。
 と、無言で首を振る。

「すんません。何もできません。すんません。ようお持て成しできません」
 夫は妻を抱きかかえながら、引き戸の向こう側に向けて叫ぶ。
「すんません。うちに来てもろても、何もできません。お帰りください」
 と、何度も繰り返す。
 すると、いつしか戸を叩く音は止む。
 そしてやがて雨が上がる。

 翌朝、何者かが訪れた家の軒先には、必ず「すじえび」が数尾、死んでいたという―――。

追記。
 S岳の合戦の折、尾根伝いに麓まで逃げた兵が、追い詰められて琵琶湖に入ったという話があります。現在でも琵琶湖の水中には、甲冑姿の兵が仁王立ちで彷徨っているといわれる所以でもあります。
 ちなみに「すじえび」とは淡水にすむ三、五cmほどのエビで、琵琶湖周辺では大豆と甘辛く炊いた「えび豆」という郷土料理に使われます。
 すじえびがかつて「琵琶湖で死んだ武士の生まれ変わり」といわれていたことを知る人はほとんどいないと思います。
「美味しい料理やのに、いらんこと言いな(言わないで)」ということなのでしょう。

 明日から仕事の人も、ずっと仕事だった人も、自宅にいる人も、マスクつけて外に行く人も、休校中の学生さんも、明日からまたぼちぼち頑張りましょう。 それでは。            ひびきはじめ拝


 

 

 

 


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