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ハッピーセットに「かいけつゾロリ」が初登場ーゾロリの魅力について語る

マクドナルドが「ほんのハッピーセット」として、原ゆたか作の人気児童書「かいけつゾロリ」シリーズのオリジナルストーリー『かいけつゾロリ おたからいただき大さくせん』を3月15日から約8週間の予定で展開すると発表した。また、ポプラ社は本書を日本全国の小学校約2万校へ寄贈するという。ゾロリ大ファンの私としては飛び上がるほど嬉しいニュースである。

「かいけつゾロリ」シリーズは、1987年11月にシリーズ第1作『かいけつゾロリのドラゴンたいじ』が発表されてから、およそ年2回の刊行ペースで現在74巻まで出版されている。対象年齢は幼稚園児から小学校低学年程度。迷路や間違い探しが本全体に散りばめられ、親父ギャグや「おなら」「おしっこ」などのお下品ネタ、芸能人やテレビのパロディが多用され、絵本から児童書の過渡期に本を読むことの楽しさを教えてくれる「読書の入門書」として、長年多くの子どもたちから愛されている。

ストーリーはおおまかに、旅するゾロリと双子のイノシシ(イシシとノシシ)が「悪巧みを企てるが失敗する」か「時々いいことをするが名乗らずに去る」といった具合だ。ゾロリが器用にロボットを作ったり、うまい嘘で相手を騙したり、お金と食べ物に意地汚く飛びつく姿は、どことなく「こち亀」の「両さん」に似ている。作者の原先生はゾロリを「男はつらいよ」の「寅さん」に重ね合わせて描いているらしく、フーテンゾロリの旅も終わることなく人情喜劇は続いていくとし、あえて「最終回」は描かないと断言されている。(「最終回」があるとするなら映画版の『Z Zのひみつ』が相応しいとコメントされている。ゾロリの誕生秘話が明かされる名作中の名作である)

ゾロリの本には、他の児童書にはない楽しい仕掛けがたくさん隠されている。カバーとその中の表紙が微妙に書き換えられて間違い探しになっていたり、見返しの隅々まで物語の後日談が描き込まれていたりする。時々ついてくる初回限定特典のオモチャは採算度外視のクオリティの高さに驚かされる。これらはすべて原先生の「数ある娯楽の中からせっかくゾロリを選んでくれたんだから、一回読んで終わりじゃなくて、何度でも楽しめる本にしたい」という優しさと誠実さが込められている。キャラクターとしても登場するチャーミングな原先生に見守られて、ゾロリの世界観は成立しているのだ。

もうひとり、ゾロリには「見守り」のキャラクターが存在する。「ゾロリママ」である。ゾロリのママはゾロリが小学生の頃にすでに他界している。マザコンのゾロリは事あるごとにママを思い出して寂しがったり励まされたりする。ママもそんなゾロリを心配して天国から幽霊として様子を見にやって来る。その姿は木や岩などに隠し絵として表現されており、ママを探すのも本書の見どころとなっている。ゾロリとママが天国で再会を果たす物語31巻『かいけつゾロリのてんごくとじごく』は、親目線で親が子を想う気持ちを尊く切なく愛情深く描いた、涙なしには読めない作品になっている。親御さんにおすすめしたい一冊だ。

はじめてゾロリを読む子どもたちにすすめたいのは、6巻『かいけつゾロリのチョコレートじょう』だ。ゾロリの旅の目的は2つ。自分のお城を手に入れることと、可愛いお嫁さんをゲットすること。本作はこの目的が明確で、物語の枠組が分かりやすいので、その他の作品を読み進める際の手立てになると思う。また登場キャラクターが少なくて話の展開がシンプルでオチがしっかりしていて笑える。パロディが多くて難しい作品もあるなか、題材が幼稚園児にも身近なチョコレートなのも良い。第1巻から読まなければ理解できない作品ではないので、できれば6巻から、または表紙にときめいた作品から手にとってもらいたい。

アニメ版のゾロリもまた少し雰囲気は異なるが面白い。ゾロリの声優に山寺宏一氏を選んだのも原先生である。「山ちゃんの素の姿ってゾロリに似ているんじゃないかな」と思わせる、山ちゃんの中では最も自然体な演技を楽しむことができる。原作をベースにアニメが作られているので、アニメからゾロリの世界に親しんでみるのも良いだろう。

ゾロリは一冊を通して大きな事件に立ち向かうわけではなく、小さな難題を「おなら」や「げっぷ」の力も借りながらひとつずつ乗り越えていく、ドキドキハラハラが連続する物語である。一気に読まなくても「今日はここまで」で終わってもさほど問題ではない。また明日にでもゾロリの世界はあなたを容易く迎え入れてくれるはずだろう。しかしピンチの後にすぐにやってくるピンチに、なかなか本を閉じることができないのが、ゾロリの物語構成の不思議なのだ。そうやって気づけば74巻、本棚にゾロリは並んでいく。特別な75冊目を手に入れるため、3月15日はマックに行こう!

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