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事故遭遇で運転免許返納

東松島市・蛯名さん 「亡き妻が守ってくれた」

 令和元年に認知症の妻をみとり、現在は東松島市内に一人で住む蛯名勝蔵さん(88)。昨年3月に不慮の事故に遭い、4カ月間の入院を経て何とか生活を取り戻した。「私もいつ事故を起こすか分からない」と運転免許証の自主返納を決断。行動範囲は狭まったが、事故の加害者となる不安はなくなった。

 蛯名さんと妻の照さん(当時81)は〝おしどり夫婦〟であり、どこに行くにも一緒。照さんは平成24年にアルツハイマー型の認知症を発症し、介護を高齢者が担う「老老介護」を経て令和元年5月に死去した。以後、蛯名さんは一人で暮らす。

 もともと社交的で人との交わりを好む蛯名さんだが、長く続いたコロナ禍で交流の場が減り、寂しさを助長させた。マスク着用が個人判断になろうとしていた昨年3月、自転車ごと車にはじき飛ばされる交通事故にあった。

 首の骨を損傷する大けがだったが、一命をとりとめて4カ月後に退院。ただし首を横に動かすことはできないため、医師の助言で昨年末に運転免許証を返納し、自転車に乗るのも止めた。「妻が守ってくれた命。それだけで十分」と仏壇に手を合わす。

施設の送迎を使い交流の場に参加する蛯名さん

 日課とする交流活動の「認知症カフェ」は施設の送迎を使い、通院は近隣に住む親族を頼る。週3回、食事作りでホームヘルプサービスを使うが、他の日はシルバーカーを押して近くの商業施設に足を運ぶ。買い物の有無に関わらず、散歩は1日3㌔が目安という。

 「妻の足腰を衰えさせないように、野蒜海岸や宮戸の砂浜をよく2人で歩いた。思い出をたどるにも、この地域で車がないのは何かと不便」とこぼす。東松島市の乗り合いタクシー「らくらく号」のチラシを手に「そろそろ使ってみようか」と関心を向けた。

不便よりも勝る安心

 市の乗り合いタクシーは安価だが、利用範囲や時間は限られ、マイカーのようにはいかない。「石巻など他地域に買い物に行けず、乗り合いだけに到着時間も読みにくいのでイベントには不向きか」と蛯名さん。それでも「計画的に考え、利用すれば便利かな」と前向きにとらえる。

 無事故無違反で通してきたが、加齢に伴う判断力の低下に不安もあり、事故に遭う前から免許返納も考えていた。「踏み間違えで高齢者の車が人や建物に突っ込む事故が全国で相次ぐ。誰かを悲しませてからでは遅い。返納によって車で迷惑をかけることもなく、今は安心感がある」と話していた。

 認知症カフェ、いきいき百歳体操、地域の市民センターが主催する健康講座など人が集まる場に再び顔を出すようになった。介護のコツを伝えるなど悩みを共有して相手の心も和ます。日中は人のつながりで寂しさを感じる間もないが、夜は切なさが募る。

 「最近、台所に立つ妻が夢に出てくる。心配しているのかな」。朝は仏壇の前で、きょうの予定を話す。「じゃあ行ってくるね」。張り詰めた冬の空気を吸い込み、シルバーカーを押し始めた。【外処健一】

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