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今の気持ち心で伝えて 十三回忌・寄り添う日々 金蔵寺副住職 渡辺伸彦さん

 未曽有の被害をもたらした東日本大震災から間もなく12年。仏教では故人を弔う「十三回忌」となる。復興に伴ってまちの景色が変わっても、大切な人を亡くした遺族の悲しみや思いは変わることはない。金蔵寺=石巻市南境=副住職の渡辺伸彦さん(43)は、仮埋葬や火葬の場で読経し、遺族に寄り添い続けた。「故人に心を寄せて生きていくことが一番の供養。十三回忌の命日は、それぞれが大切な人を思う日にしてほしい」と語った。

 あの日、渡辺さんは蛇田地区で大地震に遭遇。渋滞に巻き込まれながら1時間かけて寺に引き返した。駐車場は避難してきた近隣住民の車が多数。本堂倒壊の懸念もあり、渡辺さん家族や避難者はそのまま車中泊で夜を明かした。

「十三回忌は大切な人を思う日にしてほしい」と話す渡辺さん

 「湊と渡波、女川が壊滅状態だ」。翌朝、訪ねてきた檀家の消防団員の言葉に耳を疑った。居ても立ってもいられず、この日から4日かけて市内や東松島市の知人宅、他の寺を回り歩き、自らの目で地域の惨状を確かめた。「日和山から見た南浜の光景は言葉にならなかった。門脇小の焦げた臭いが忘れられない」。

 16日からは金蔵寺隣の石巻斎場で犠牲者の火葬が始まった。「私にできることはこれしかない」。使命感に駆られた渡辺さんは1週間斎場に詰め、「私でよければ拝ませてほしい」と故人の供養を無償で引き受けた。朝から夜まで毎日15―16体は供養し、悲しみに暮れる遺族の声に耳を傾けた。

 「カウンセリングも僧侶の役目。聞けば聞くほど私の心もつらかったが、遺族の心を少しでも受け止めてあげたかった」と渡辺さん。23日からは市内3カ所に設けられた仮埋葬場に出向き、石巻仏教会や曹洞宗第十三教区の有志の一員として読経する日々を送った。

金蔵寺敷地内に建立した供養塔の前で読経する渡辺さん

 数年後、とある女性から一通の手紙が届いた。「11歳の息子を火葬した際、(渡辺さんに)読経をしていただきました。葬儀社とも連絡が取れず、枕経も唱えてあげられないのかと心苦しい気持ちになっていた時でした。どんなに心の救いになったか計り知れません」。感謝の思いだった。渡辺さんは今も手紙を大事にしており、「供養と話を聞くことしかできなかったが、支えになれたと思う」と語った。

 震災犠牲者を慰めるとともに教訓を後世に伝えるため、渡辺さんは金蔵寺敷地内に供養塔を建てた。「経を読むことだけが供養ではない」と渡辺さん。「墓前でも仏壇でも故人との思い出が詰まった場所でもどこでもいい。今の気持ちを心で伝えてほしい。それが一番の供養」と冥福を祈った。
【山口紘史】





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