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【雨穴パロディ】変な譜面【BeatSaberホラー】

 どうも、Web ライターの鼻穴(びけつ)と申します。

 先日、私宛にある一通のメールが届きました。

 それは、ある「変な譜面」についての相談でした。そこには、ある音楽ゲームに使う譜面のデータがありました。あなたには、この譜面の異常さが、わかりますか?

◯青木さんとの電話

鼻穴:どうも、鼻穴です。お電話失礼します。
青木:あ、鼻穴さんですか。こちらこそ、ありがとうございます。
鼻穴:早速、相談の件なんですが、実はわたしこのビートセイバー……? っていうゲーム、プレイしたことないんで、どこが変か分からないんですけど
青木:ああ、すいません。ビートセイバーがどんなゲームかは、ご存知ですか?
鼻穴:はい、VRでこの箱を切るゲームだということだけは知っています。
青木:では、この譜面なんですけど、

 私は、事前に教えてもらった手順にしたがって、譜面の中身を見られるソフトを起動してみました

青木:定期的に変な配置が出てくるんですよね

青木:普通はこんな真ん中に箱を置かないです。これ、実際にプレイすると目の前にこの箱が来ちゃって奥が何も見えなくなるんですよね。ビジョンブロックと言うんですけど
鼻穴:確かにそうですね
青木:それ以外にも色々おかしくて、まあ、マトモな譜面ではないです

青木:まあ、気になる点というのが、譜面そのものもそうなんですが……
鼻穴:この譜面を送ったお知り合い、Cさんが、その直後、音信不通になっている……ということですよね
青木:はい

青木:結構、連絡はマメにするタイプだし、本当に突然でした
青木:だから、何か、隠されたメッセージがあるんじゃないかって

鼻穴:気付いたこととして、青い箱の右方向が出てくる時は、変な配置になっていますよね
青木:そうですね
鼻穴:また、ここだけを抜き出すと、 9 個単位の繰り返しになっています。となると、この板みたいなパターン。これに何か意味があると考えるのが自然です。つまり、これが、ある種の暗号になっている訳です
青木:では、どんな暗号が……?
 鼻穴:この配置が繰り返されるところに、この譜面のキモがありそうです
鼻穴:例えば、モールス符号、と考えたらどうでしょうか
青木:あっ、なるほど


鼻穴:一列だけの点を短点、二列の点を長点と考えると……

鼻穴:……

・・・- --・・ ・・・- ・-・・ ・・・・ --・-

く ふ く か ぬ ね

鼻穴:意味不明な文になっちゃいました……
青木:あらら
鼻穴:ごめんなさい、的外れだったようです
青木:いえいえ、でも良く考えてみたら、そもそも暗号というのは変な気がします
鼻穴:というと?
青木:だって、伝えたいメッセージがあるなら直接送ればいいじゃないですか。こんな、謎掛けみたいにする意味ないですよ。僕もCさんも、謎解きマニアとかではないですし
鼻穴:それは……確かにそうですね。

鼻穴:しかし、この配置に何か意味がありそうなので、ちょっと私の方でも調べてみます
青木:すいません、ありがとうございます

 数日後、私は知り合いの設計士である栗平(くりひら)さんに連絡を取りました。設計士でありながら、ミステリーとオカルトにも詳しい、便りになる人です。

◯栗平さんとの電話

鼻穴:もしもし、鼻穴です
栗平:ああ鼻穴さん、見ましたよ
鼻穴:すいません、今回は特に間取りとか関係ないんですけど
栗平:いやいや、とんでもない。VRって、実は、今建築関係でとてもホットな分野なんですよ
鼻穴:え、そうなんですか。
栗平:はい、それこそ間取りシミュレーションとか。他にも、建築現場でも、訓練等に使われているんですよ
鼻穴:それは、知りませんでした
栗平:このゲームも知ってましたよ、まあ、私はやったことないですけど
鼻穴:そうなんですか、それで、わかりましたか、この謎の配置の意味は……
栗平:ええ、一瞬で
鼻穴:本当ですか!?
栗平:はい、鼻穴さん、今回も、私に相談して正解でしたね
鼻穴:そういうの、自分で言っちゃうんだ……
栗平:この暗号、建築分野とも密接な関わりがあります
鼻穴:ええ……?

 私は一瞬、栗平さんの言っている意味がわかりませんでした

鼻穴:この配置が、建築……?
栗平:ヒントは、端の列が絶対に空いていることですね。つまり、これは実質、3行2列の暗号だということです
鼻穴:それは私も、なんとなくは気付いていましたが
栗平:そしてこれは鼻穴さんも出かける度に高確率で目にしています。それぐらい、社会にありふれたものです
鼻穴:そんな暗号、さすがに見ないと思うんですけど……

栗平:……点字、ですよ
鼻穴:あっ……
栗平:私は仕事で請けたことはないですが、公共建築だとバリアフリー対策が必須なので、一応知識はあります
鼻穴:なるほど……ということは、内容も?
栗平:ええ、平仮名の点字に復元可能でした。以下がその内容になります

お ん れ い お ろ し た ま へ

鼻穴:「おんれいおろしたまへ」……これは
栗平:何かの、呪文……。もっと言えば、降霊術のような内容を思わせますね
鼻穴:ということは、Cさんは、青木さんに降霊術を行わせるために?
栗平:さあ? しかし、VRゲームを通して行う降霊術なんて、聞いたことがありません

栗平:また、もしこれが点字だとしたら、明らかに不可解な点があります
鼻穴:というと……?
栗平:この点字は、誰にも読めない点字なんですよ
鼻穴:誰にも読めない……?
栗平:鼻穴さん、点字って、どうやって読むかご存知ですか
鼻穴:それはさすがに知っています。指でなぞって読むんですよね
栗平:はい、ではこのVRゲームの中の点字はどうやって読むのか?
鼻穴:それは……切ることによって?
栗平:不可能です。現在のVRではそこまで細かい触覚は表現できません。それに、眼前に迫ってくる箱を、眼の見えない人がどうやって感知するんでしょう

栗平:これが点字だとしたら、視覚障害者に情報を伝える、という仕事を放棄しているとしか言えません
鼻穴:それはそうですね
栗平:それとも、点字を読ませるのではなく、別のメッセージがあるのかもしれません

 その日の電話は、それで終わりました。後日、私は青木さんにまた電話をかけてみました

◯青木さんとの電話その2

青木:はい、青木です
鼻穴:もしもし、鼻穴です
青木:ああ、鼻穴さん。どうもです

 私は、青木 さんに今までのことを話しました

青木:なるほど、点字か……それは気付かなかった
鼻穴:あの、失礼ですが、ご自身やご家族が視覚障害をお持ちだったりとかは
青木:いえ、全く。なんなら僕は両目で 1.0 あります
鼻穴:では、Cさんがそうである可能性は?
青木:ないと思いますよ。だって、視覚障害があったらビートセイバーは絶対にできないです
鼻穴:そうですよね。Cさんの目的は、なんなんでしょうか……?
青木:点字の呪文、「おんれいおろしたまへ」ですか。こっくりさんみたいな呪文でしょうか?
鼻穴:この譜面って、実際にテストプレイされたんですよね
青木:何回かは。もちろん、怪奇現象が起こったりはしてないですw
鼻穴:何かのイタズラでしょうか?
青木:そういうのをする人には見えなかったけどなあ……
鼻穴:Cさんとは長い付き合いなんですか
青木:それなりに。僕がこのゲームを初めてからの知り合いです。色々と道具を譲ってもらったり、お世話になってたんです
鼻穴:道具?
青木:ああ、トラッカーって言って。簡単にいうとモーションキャプチャー用のセンサーです。
鼻穴:その道具、見せてもらえますか? 今回の件に関係あるかもしれません
青木:まあ、いいですけど、本当にただの小型の電子部品ですよ

 私は、その写真を見せてもらいました。

 このような部品の写真が送られてきました。全部で五個ほどもらっていたようです。

鼻穴:え、これって一個数万円もするんですか。これを五個も譲ってもらったんですか?
青木:これ、旧式なんですよ。新しいもの好きな人は全部リプレースしちゃって、余っちゃうんです。景気の良い話ですが、この界隈は金払いが良い人が多いので、珍しい話じゃないです

青木:もちろん、タダとは言わずに、お金は払いましたけど、それでも定価よりはずっと安いです。公式だと品薄になっちゃうんで、メチャクチャありがたかったです
鼻穴:バカみたいな確認になっちゃうんですけど、これを使うようになってから体の不具合とかは?
青木:ないですよ、全く。数ヶ月間フル稼働してますが、そんな気配は全くないです

 しかし、私はこのトラッカーに、何か違和感を覚えずにはいられませんでした。数日後、私は栗原さんにまた電話をしてみました。

◯栗平さんとの電話その2

栗平:視覚障害のセンはなしですか
鼻穴:はい、なので点字にした意味は不明なままです
栗平:それよりも、そのトラッカーが気になりますね
鼻穴:私も、そこは気になりました
栗平:調べてみましたが、これはただのセンサーと通信機器ですね。赤外線を受信して、その座標と角度をパソコンに送るためだけの装置
鼻穴:その……これに盗聴器が仕込まれている、とかは?
栗平:不可能だと思います。そこまでのスペースはありません
鼻穴:となると、トラッカーを送ること自体が目的だった……?
栗平:送ること自体?
鼻穴:はい、降霊術めいた呪文と合わせて考えてみたんですけど、故人が愛用していた衣類を着せて降霊をさせる、みたいな話があるじゃないですか
栗平:まあ、オカルトでは、ままある話ですね
鼻穴:つまり、トラッカーに細工をするのではなく、トラッカー自体が「愛用していた衣類」だった
栗平:つまり、Cさんの知り合い、ここではDさんとしましょう。Dさんは生前このトラッカーを愛用していた。Cさんはそれを青木さんに送りつけることによって、青木さんにDさんを降霊させようとしている……?
鼻穴:はい、青木さんは、トラッカーを身につけることによって、故人が愛用していた衣類を着たのと同じ状態になる。その状態で、譜面をプレイする。青木さんにその意味はわからなくても、降霊術の呪文を唱えたのと同じことになる……

鼻穴:無理がありますかね……?
栗平:確かに、VRヘビーユーザーの中には、それこそ衣類のようにトラッカーに愛着を持つユーザーもいるでしょう。しかし、故人を呼び寄せるオカルトアイテムにしては、あまりに無機質な気がします
鼻穴:まあ、なんとなくわかります
栗平:……ん。待ってください、鼻穴さん

 突然、栗平さんが何かに気付いたような声を上げました。

栗平:このトラッカー。これは、一度、分解されていた可能性があります
鼻穴:え!?
栗平:ここ、見てください

栗平:僅かですが、えぐったような後があります。マイナスドライバーか何かでこじあけた後、また戻した。つまり、何か異物を混入させた……
鼻穴:え、でも、盗聴器は不可能だって
栗平:もっと簡単なものなら可能ということですよ。もっと小さいけれども、故人の肉体の一部として残るもの……そう、例えば歯や髪の毛
鼻穴:……

 トラッカーの中に埋め込まれたそれらを想像して、私は少し寒気がしました。

栗平:そのようなものなら、降霊術の依代としては十分そうに思えます。鼻穴さんの言うとおり、もし、フルトラッキング状態の時に、この譜面をプレイした場合……
鼻穴:トラッカーの中に埋め込まれた、故人の肉体の一部を装着したまま、青木さんはその譜面をプレイして、点字による呪文を唱える……
栗平:可能性の話ですよ。しかし、オカルト的なことは置いといて、異物混入の疑いがある。すぐに青木さんに、この可能性を伝えた方がよいと思います

 私は、すぐに青木さんに電話をしました

◯青木さんとの電話その3

鼻穴:もしもし、青木さん?
青木:ああ、鼻穴さん。先日はどうも
鼻穴:あのトラッカーのことなのですが、もし可能なら、分解していただくことは可能ですか?
青木:え?
鼻穴:もしかしたら、何か異物が混入されているかもしれません
青木:……

青木:……あの、実は、あのトラッカー、捨てたんです
鼻穴:え?
青木:元々型落ち品だったって言ってたでしょ。ちょっと気分を変えたくなって、新品を一式揃えちゃったんですよね
鼻穴:そうなんですか。譲渡とかではなく、処分を?
青木:はい。もったいないですけど、やっぱ新品はいいですね。トラッキングも良いし、バッテリーの持ちも良い。安い買い物じゃなかったですが、俺としては大満足って感じです
鼻穴:その、例の譜面の方は
青木:削除しました。もう持っていても仕方ないので
鼻穴:そうですか
青木:心配しなくても、怪奇現象も体調不良も起こっていませんよ
鼻穴:それならよいのですが……Cさんとは?
青木:……まだ連絡が取れてないですね。もう、あきらめることにしました。すいません、頼んでおいて。

 私には、青木さんの話し方が、以前と少し違うような気がしました。しかし、電話で数回話しただけの関係なので、確証を持って言うことはできませんそ、ただの気のせいかもしれません。

 結局、この件で以後青木さんと話すことはありませんでした。

 あの譜面が目的が何だったのかは、謎のままです。しかし、皆様も、他人から送られてきたデータや荷物には、十分に注意をすることをオススメします。

 そこには、思いもよらない、恐ろしい何かが隠されているかもしれません。


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