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二十歳の夜に星光る

明日はふわわの誕生日。
ふわわって誰かって?
それはね、恵麻の大切にしている、くまのぬいぐるみ。どこに行くのだって一緒。
恵麻が1歳の時に、おばあちゃんがプレゼントしてくれたんだ。おばあちゃんとは、去年永遠のさようならをしたんだ。もちろんふわわも一緒だった。
そんな、ふわわと一緒に生活をし始めてから、20年が経った。
家にきたころは、恵麻の足と同じくらいだったのに、今では手で包めるくらいの大きさになってしまった。
ふわわは、焦げ茶でふわふわいていた。歳を重ねるごとに、洗ってはいるが焦げ茶は黒っぽく、ふわふわした体はぼわぼわしていった。
母親は、
「20歳過ぎたしもうボロボロだから、持ち歩くのやめたら? 」
と言うが、恵麻はやめなかった。恵麻にとって初めてできた友だちだったからだ。それに、ふわわをくれた大好きなおばあちゃんはが、お星さまになってしまったからさびしかったのだ。
 大切な想いとさびしさをむねにいだきながら、2人きりでふわわの誕生日祝いをした。
「ふわわ、1日早いけど、20歳の誕生日おめでとう。20歳は特別な、誕生日よ。そんなすてきな誕生日をこうして、2人でお祝いできて、とても幸せ。苦しい時も、辛い時も、悲しい時も、嬉しい時も、楽しい時も、いつも一緒にいてくれてありがとう。これからも、よろしくね。これは、私からの誕生日プレゼントよ。気に入ってくれるかしら? 」
 恵麻は微笑みながら、小さなふりそでを、ふわわに着付けしていく。えりが黄色で、まっちゃ色のきじに白と薄ピンクの花のししゅうがほどこされている。そこに、むらさき色の帯をまいた。
 去年自分が着た、ふりそでを半年かけて、リメイクしたのだ。
 ちょっと黒くなりかかった、ふわわにまっちゃ色の振り袖は中々にあっていた。えりから、ぼわぼわになった、毛があふれていたが、そこがまたかわいいなと恵麻は思った。
 それから、恵麻とふわわは、おさないころからの話を夜おそくまでした。2人が布団に入ったのは、夜の11時だった。
 布団に入ると、疲れたのか恵麻はすやすやとすぐに、眠りについた。
 寝始めてどれくらい経ったころだろうか、恵麻は声が聞こえてきた気がして、目がさめた。
 ふと、となりを見ると、となりに寝ていたはずのふわわが、消えていた。
 辺りをみわたした。すると暗がりでまっちゃ色のモノが窓に向かって、立っていた。
 よく目をこらすと、それはふわわだった。何か外に向かって話している。
 恵麻はびっくりして、布団から起き上がった。すると、ふわわがそれに気づき、手をふった。
 恵麻は、何も考えず手をふりかえした。
 少し間をおいて、しんこきゅうしてから言った。
「ふわわ、だよね? 」
 すると嬉そうな声で返してきた。
「そうだよ! 20歳の誕生日だから特別にぼくのおねがいをお星さまが叶えてくれたんだ。でもね恵麻、びっくりするのはそれだけじゃないんだよ」
 言うと、ふわわは窓の外を、指した。
 恵麻は、窓の外を見ると、そこにはむらさき色の星がかがやいていた。
「恵麻、元気だったかい? 」
 恵麻は、その声を聞いて泣きそうになった。
「お、おばあちゃん、なの? 」
 むらさき色はおばあちゃんが大好きなあじさいの色だ。
「そうよ恵麻。今日はね、ふわわの誕生日祝いに来たの」
 恵麻は、目を細めてベッドの上の時計を見た、針は深夜1時を指していた。
「ふわわ、20歳になったのね! おめでとう。でも、私何から言っていいのか」
「ふふふ、こんらんするのもわけないわよね。おばあちゃんは、むらさき色の星になって、会いに来て、ふわわはしゃべって動いてるんだもの。おばあちゃんもびっくり。ずっと、空をさまよってた気がするわ。きおくがないんだけどね。でもね、ふしぎなことに、今日ここに来れる気がしてたの。そうしたら、本当に来れちゃったのよ。おまけに、ふわわの中に眠ってるたましいを、呼び起こすことができたの」
 むらさき色の星のおばあちゃんは、くるくる回りながら、まるで子どものようにはしゃいだ。
「それにしても、恵麻ぼくはふりそでより、はかまが着たかったな」
ふわわは、少し長いそでをぶらぶらさせながら言った。
「ごめん! ふわわ、お目々がつぶらで、キラキラしてるし、首にピンクのリボンもついてたから、女の子とばかり思ってた。ふりそでなんていやだよね」
 ふわわは、笑いながら言った。
「うそだよ。ぼくは、男だけどふりそででも、ちっともいやじゃないよ。毎日遅くまでぼくのためにつくってくれてたの見てたし、ふりそでをきれるくまのぬいぐるみなんて、そうそういないよ。しかもこんなすてきな」
「よかった。ふわわは、私が思っていた通りとても優しいくまさんだね。なんだか、やっとふわわと、おばあちゃんとお話できてるじっかんがわいてきた」
「それにしても、きれいなふりそでね。おばあちゃんがふわわを買った時、女の子だと思ってリボンをつけちゃったのよ」
おばあちゃんは、かがやき方を変えて、感情を表現している。
「おばあちゃん、恵麻、すてきなプレゼントをありがとう。ぼくずっと恵麻と、ちゃんとお話がしたかったんだ。こんなボロボロになっても、ぼくをすてたり、ほうちしたりしないで、かわいがってくれてありがとう。ぼくは、きっと世界一幸せなぬいぐるみだよ」
 ふわわが、そう言うと恵麻はふわわをなでながら言った。
「違う。だれよりも大切な友だちであって、家族よ。ただのぬいぐるみなんかじゃないわ」
「ありがとう。恵麻」
 ふわわは、小さな手をいっしょうけんめい伸ばして、恵麻の親指をにぎりしめた。
 そのしゅんかん、おばあちゃんが2人を喜ばせようと、まばゆいまでに光かがき、部屋がむらさき色になった。
「恵麻、おばあちゃんちょっと力を使いすぎたみたい。お別れの予感がするわ。ふわわとも、もうお話ができなくなると思うけど、何か伝え忘れていないことは、ないかしら」
「そうね、ふわわはどんな友だとがほしい? 」
「友だち? 」
「そう、私ふわわに夢中で、他にぬいぐるみとかもってないから。私の他にも友だちがいたら、特別な時以外でも、ふわわがだれかとお話できるかなって」
 ふわわは、しばらく考えているようだった。それからおばあちゃんの方を見て、恵麻の方をまた向いた。
「むらさき色のねこ」
それを聞いて、喜んだのは恵麻ではなくおばあちゃんだった。
「ねこちゃん、動物の中で一番好きなのよ。しかも大好きな、むらさき色なんて。何だか私じゃないけど、私が一緒にいるみたいで、嬉しいわ」
「おばあちゃん、むらさき色のねこ、私がつくるよ。ふわわにたましいがやどっていたみたいに、おばあちゃんのたましいがやどるように、想いを込めて」
 おばあちゃんは、ダンスしているみたいに、体をゆすっていた。
「ありがとう、恵麻。ばくにすてきな友だちを用意しようとしてくれて。とても楽しみにしているよ」
「あら、何だか意識が遠のいて来た。そろそろお別れかもしれないわ。恵麻、恵麻にもとっておきのプレゼントを用意しておくからね。ああ、本当にお別れみたい。じゃあね、2人とも元気で」
 さっきと同じように、光りかがやいた。その光が、2人を夢の世界へと連れて行った。
 朝日の光で、恵麻は目覚めた。
「あれ、カーテンがしてない。………。そうだ、昨日の夜ふわわと話したんだ! 」
 ふわわは、ベッドの上で、びどうだにせず横たわっていた。
「夢………? 」
おもむろに、部屋をみわたすと机の上に何か白くてふわふわした物が乗っていた。近づいてみると、そこには、むらさき色のフェイクファーきじと、ピンクのトイクロスと、ピンクの糸とクリスタルアイが対で1セット、そして、あふれんばかりの綿が乗っていた。
「夢じゃなかったんだ。ありがとうおばあちゃん。ふわわ、今から友だちつくるからね」
 恵麻は、パジャマのすそをたくしあげると、伸びをし、机に向かってふわわと、そして自分のために新しい大切な友だちをつくり始めた。
 もちろん、手の先におばあちゃんへの想いを込めて。

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