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地域と子どもの「つなぎ役」 〜盛んな多世代交流、広がる地域の輪〜

学校と地域の橋渡し役として、双方の思いをくみ取りながら、子どもの学び、地域住民の生きがいづくりを行っている地域学校協働活動推進員。この日、お話を伺った林志保さんと野村俊巳さんは、飛騨市立河合小学校区で推進員を務めています。フィールドは“地域”。子どもと住民が一緒になって、釣りをしたり、マルシェを開いたりしているんだとか。「飛騨市にはまだまだ知らないことがいっぱいある」と話す2人に、活動内容や地域活動の魅力などを伺いました。

■プロフィール
飛騨市地域学校協働活動推進員(河合小学校区)
野村 俊巳さん

岐阜県飛騨市河合町出身。もともとは教師をしており、退職後に最後の在籍校であったことが縁で推進員に就任。その他、飛騨市の民生委員、飛騨市PTA連合会事務局にも所属し、地域とつながりを持ちながら活動している。

飛騨市地域学校協働活動推進員(河合小学校区)、河合小学校ICT支援員
林 志保さん

岐阜県高山市出身。田舎暮らしに憧れて、結婚後に河合へ移住。現在は家庭菜園を営むかたわら、河合をフィールドに地域での新たな活動のきっかけをつくっている。

学びのフィールドは“地域”。週末や夜も活動

――推進員の活動内容を教えてください。

野村さん:ひとことで言えば、学校ではやれないこと、やりにくいことをやっています。子どもたちを地域で育てることが狙いです。学校では、学年やクラスという大きな単位で同じことをやりますよね。しかし私たちの場合、希望者だけが参加できるようにすることで、学校が活動できない土日や夜間でも活動できます。また、私たちは“地域がフィールド”と考えているので、活動場所は学校にとどまりません。川で釣りをしたこともありましたね。

林さん:そうそう。そのほかにも畑で野菜を作りました。あとはクズの花を取りに山に行ったり、まちの工場にインタビューに行ったりしました。


――地域の人の協力はどのように得ているのですか?

野村さん:実は必ずしも、私たちから働きかけているわけではないんですよ。地域住民や保護者の中には「学校では味わえない体験を子どもたちにさせてあげたい」という思いを持つ方がいます。ただ、やりたいことがあってもどのように始めたらいいか分からない。そういうときに私たちが仲立ちをして、「一緒に何か活動をやりませんか?」と声をかけています。例えば、漁業組合の人たちからは「釣りや魚の魅力を子どもたちに教えたい」という声がありました。私たちが組合の人たちに代わって聞いてみると、魚を釣ったことがない子がたくさんいることが分かり、「じゃあ釣り教室をやろうか!」という話になりました。

林さん:日頃から地域の皆さんからさまざまなアイデアをいただいています。推進員への依頼というよりは、普段の会話の中でちらほら出てきて、ちょっとずつ実現に近づいていくという感じですね。

野村さん:地域住民や保護者がアイデアを出して、私たちが子どもとつないでいく。地域学校協働本部の活動をさらに知ってもらえれば、地域と子どものつながりがより増えていくのではないかと思っています。

漁業組合の方から釣りのレクチャーを受けている様子

推進委員になったきっかけは新型コロナ?

――野村さんが、地域学校協働活動推進員になったきっかけを教えてください。

野村さん:新型コロナの影響で学校が休みになった2020年に、「学校の授業を配信できないか」という依頼が、私たちが所属していた学校運営協議会にきたことがきっかけです。私たちで各家庭の通信環境などを調べ、結果的にケーブルテレビで授業を配信することができました。そこから、地域学校協働本部としての活動が始まり、推進委員になりました。

林さん:授業を助けるためにほかにもいろいろやりました。企業の方を招いて子どもたちに授業をしてもらうとか、コーディネーターのようなこともしました。

野村さん:最初のころ学校はZOOM等で市外の人につなぐことを毎度教育委員会の許可を得てやっていました。そんな時、学校ではなく、私たち地域学校協働本部の名前で行うとスムーズに実行できることもたくさんありました。ということもよくありました。しかしそんな時でも、私たちは岐阜県美術館と学校をつなげて、協同で鑑賞の授業を行いました。

当時、地域学校協働本部の活動のきっかけとなった授業配信動画を作成している様子

――林さんが活動に携わることになったきっかけはなんですか?

林さん:株式会社Edoの副代表・盤所杏子さんが、声をかけてくれたのがきっかけです。元々マルシェのような活動には興味があったので、肩書があった方が動きやすいなと思い、迷いなく参加を決めました。

野村さん:林さんはちょうど妊娠していたので心配していましたが、全然関係ありませんでしたね。その子をおんぶしてきたり、抱っこしてきたり。お父さんより私の顔を見てるんじゃないかって思ったけど(笑)。その子とともに、私たちも成長しています。

――推進員として、どのような活動をされてきたのですか?

林さん:先ほどお話しした授業配信やマルシェのほかに、この間はダンスの体験会や、釣り教室などをやりましたね。

野村さん:あとはもみじカフェとか?

林さん:もみじカフェは、普段は地域のおじいちゃんやおばあちゃんが集まってお茶を飲みながら喋ったり、ゲームをしたりしているのですが、長期休みには子どもたちも加わって多世代交流をしています。フラダンスを習っている子が発表したり、多世代でゲームをしたりします。そんな感じで何でもやっています。

野村さん:“地域で育てる”ということは、地域の人と会ったり、話を聞いたりすることだと考えてます。テーマは農業でもいいし、漁業でもいいんです。ネタはいっぱいあります。

学校の枠から飛び出し、成長する子ども

――推進員の活動を通して、何かが変わってきた実感はありますか?

野村さん:子どもが積極的に物事に取り組んでくれるようになりました。学校の先生は、勉強や部活、生徒会活動を褒めてくれます。一方でマルシェをやったとして、「元気がいいね」「上手に商品の説明ができるね」と褒めてくれるのは、先生ではなく一般のお客さんです。老若男女問わず色んな人から褒められる。そんな経験を積むと、自信につながると思います。
また、子どもたちは知らない大人に商品を説明するという経験は、普段できません。こういう経験を通して、自分から発信することもできるようになったと思います。「人前でも堂々と話せるようになった」「知らない人に声をかけられるようになった」という声を聞きます。

林さん:地域住民からみると、推進員に言えば、何かかしらできるかもしれないという期待は持ってもらえているかもしれません。実際、地域からの声も上がってくるようになりました。

「河合っこマルシェ」で来場者に商品のPRを行う様子。河合小学校有志児童3~6年生による取り組みで、「地域で子どもを育てよう」という河合小地域学校協働本部の取り組みとして2021年よりスタート。

飛騨の“未知”をこれからも。人手も募集中

――最後にこれからの活動について教えてください。

林さん:今の仕事は全て自分たちでやっており、あまりほかに手を回す余裕がありません。広報や会計など、お手伝いできる方がいらっしゃったらいいなと思います。

野村さん:あとは、学校外での活動になるので、安全面の確保は課題だと感じています。事故が起きてしまえば、全てがなくなってしまうわけですから、どのように安全を高めていけるか考えていかなければいけません。

林さん:安全を高めるにしても、地域の人によって、危機管理の感覚が違うのが大変ですよね。しかし、私たちもそこは勉強です。私たちの問題も含めて、子どもたちに伝えられればいいかなと思っています。

野村さん:そして、自分たちも子どもたちと一緒に楽しんで活動したいですね。飛騨市にはまだまだ知らないことがいっぱいあります。もっとすごい人がいると思うんです。日々、アンテナを張っておくことが大切だと思います。