わたしの手は、心のバロメーター
指が短くて丸っこい。肉厚で、あたたかくて…
”白魚のような綺麗な指”ではないのだけれど、わたしは結構、気に入ってる。
たぶん、この手じゃなければ、私はこんなにもセラピストという仕事を続けてこれなかっただろう。
この手じゃなければ、自分に自信を持てなかったかもしれない。
この手だから…
たくさんの人に支えてもらえた。
たくさんの人に触れたいと思った。
マッサージを『芸術的だ』と思えた。
自信をもてた。
”白魚のように綺麗な指”でも、女性らしいきれいな手元でもないのだけれど、この手を気に入ってる。この手でよかったと思う。
指が短すぎてお医者様に…
指が短い。手も足も。
わたしが生まれた頃、母は驚いたらしい。そして、お医者様に相談したらしい。
それくらい、わたしの指は短かった。
そのことを知ったのは、小学生の頃か、中学生の頃か…。ショックだったのを覚えてる。
『わたしの指って、他の人よりも短いんだ…』
『わたしの手、普通じゃないんだ…』
友達の手を見て。なめらかに、しなやかに動く長い指を見て…手を隠した。袖をのばすのが、ほっとした。
恥ずかしくて…手を隠し続けた学生時代。
大学時代、ネイルしてる友人を『きれいだな』『大人っぽいな』『かっこいいな』って思った。
だけど私は、ネイルできなかった。
指が短くて、子供みたいなわたしの手。『ネイルなんて似合うわけがない』と諦めた。
諦めたはずなのに、諦めきれない私のこころ。
『実験をするんだから、ネイルはしない方がいい』と言い聞かせた。
間違ってないけど…どこか納得いかなくて。ネイルが嫌いになっていく。いや、自分の心を守るために、ネイルを悪者にした。
いつのまにか手荒れがひどくなって、治らなくなった。ハンドクリームをぬっても、病院に行っても、薬ぬっても治らない手荒れ。
治りそうになっても、また荒れる。その繰り返し。
ネイルをできない理由ができあがった。だけど、今まで以上に苦しくなった。
手が見えないように、隠す。
ちょっとでも手が視界に入ると、恐くなる。
『友達に気づかれてないか?』毎日心配でしょうがない。
気づいてほしい。っ気づかれなくない。
「大丈夫?」と心配されるたび、言い訳をする。「ちょっと荒れちゃったんだよね~」と笑ってる私の心は、ぜんぜん笑えない。
ネイルなんて、諦めた。諦めたから…。せめて、人に見られることを恐れなくていい、普通の手が欲しかった。
セラピストになったら治った。
今でも不思議に思う。
セラピストになった時、わたしは手荒れを忘れてた。一生懸命練習して、『早くお客様に触れたい』と思ってた。
「そろそろお客さんにはいってみようか」と言われたとき、『手荒れ!!』と思いだして、手を見た。
手荒れはほとんど消えていて、少ししっとりしてた。
どれだけ病院に通っても、いろんなハンドクリームを試してお金をかけても治らなかったのに、すごく不思議だった。
当時の私は、手が治った喜びよりも、お客様に触れることのできる喜びが大きかった。
もしもあの時、手荒れがひどいままだったら…私はきっと、お客様に触れるのがもっと怖かったと思う。だから、ありがとう。
お客様のおかげで、この手が好きになった。
セラピストとして活動してる間、たくさんのお客様に出会った。わたしの手を気に入ってくれた人もたくさんいた。
触った瞬間に、お客様の体が緩む。『この人だ!』って思ってもらえる。そんなことが、何度もあった。
技術や知識だけではなく、私の手を気に入ってくれた人たちがいた。白魚のような綺麗な手じゃないのに。
帰り際に、握手を求めてくる人たちもいた。私の手を大切にしてくれる人たちがいた。
いつのまにか私も、自分の手が好きになって。自分の手と似た人を探すようになってた。
『マッサージを受けるときは、こういう手がいい』と思うほど、気に入ってた。
ある日、初めて来たお客様が「あなたに、できるの?」と不機嫌そうに言った。
帰り際に、私の両手をつかんで、のぞき込む。
「こんなに子供みたいな手をして…」
ものすごく大切そうに手を包み込み、ものすごく喜んでくれた。何度も何度も握手を求められる。
「子供みたいな手」と言われたのに、わたしは泣きそうなほど嬉しかった。
たくさんのお客様に出会い、たくさんの経験をして。自分の中にあった思い込みに気づいて、癒されて…
いつのまにか私は、自分の手が大好きになってた。
わたしの手
セラピストになってからすっと思ってるんだけど…わたしの手は、心のバロメーターになってるのかもしれない。
自分の好きなことをやって、ワクワクしてる時、エネルギーが満ちてる時、わたしの手は元気だと思う。
『本当は違う』と無理をしてる時、エネルギーが枯渇してる状態が続いた時…わたしの手はしわしわになったり、荒れてくる。
わたしの手は、私にいろんなことを教えてくれる。
わたしの手は、お客様を通じて、私にたくさんのものをくれる。
わたしの手は……
私は最近、ネイルをするようになった。
濃い色は、苦手だ。爪だけが目立って、わたしの手には似合わない気がする。
だけど、うっすらネイルをすると、元気になる。気分がいい。少しだけ、手がきれいに見える。
わたしの手は、白魚のような綺麗な手ではない。ネイルが似合う…とも思わない。
でも私は、わたしの手が好きだ。
ネイルをしても、何をしてもかまわない。でも、主人公は譲れない。
わたしの手だ。
私は今日、久しぶりに文章を書いてる気がする。
何日ぶりかなんてわかんないけど…すごく久しぶりな気がする。
久しぶりすぎて、キーボードを打つ手もぎこちない。文章もぎこちない。
でもね、
こうやってnoteを書いてる今も、わたしの手は教えようとしてくれてる。
『ねぇ、もっと書きたいんでしょう?』
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