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『BABFILM』ハンガリー発「豆」が主役の少し毒気があるストップモーションアニメ

MUBIに突然ストップモーションアニメがやってきた。それもハンガリー産となれば一体どれだけの人が関心を持つだろうか。相当の好事家でない限りわざわざ視聴しようとはしないだろう。なんせ世の中にはまだまだ面白いものがたくさんあるのだから。こんな感じでよっぽど今回ばかりはスルーして他の映画を見ようと思ったのだが、たったの12分ということもあり気軽に再生してみたらこれが大傑作だった。完全にナメていた。

タイトルは『BABFILM』(英題:SCENES WITH BEANS)。監督はハンガリーのアニメーション作家 フォキ・オットー。2012年に85歳でその生涯を閉じている。1976年に公開された本作は英題からもわかるように「豆」が主役だ。

宇宙空間にブリキ製と思われる謎の宇宙船がやってくる。どうやらある惑星を外から観察するためにやってきたらしい。宇宙船内部のスコープが星の上で営まれる人々の暮らしにフォーカスする。画面に映し出されるのは大都市での交通事故、農作業、犯罪現場、スタジアム、抗議デモ、ロケットの発射などなど。宇宙船に乗っているはずの宇宙人から俯瞰した視点で脈絡のない場面から場面へと移り変わっていく。

驚くべきなのはこの惑星で暮らす生命体はすべてが色とりどりの豆なのである。豆を人類に、日用品やガラクタを人工の構造物に見立てている。シンプルなのに意外性のある見立てで見るものを飽きさせない。そしてここが肝心なのだが、ストップモーションアニメなのに“豆が血を流す”のだ。特に交通事故、犯罪現場、抗議デモのシーンは「こんな表現があったのか!」と驚かずにはいられない。この作品に関してはオットー・フォキは『PUI PUI モルカー』のように子どもも大人も楽しめることを売りにしているわけではないことが伝わってくる。(もちろん日本のストップモーションアニメには『マイリトルゴート』や『JUNK HEAD』に代表される大人向けジャンルも存在している)

日本語で検索してもフォキ・オットーに言及している方はごくわずかだったが、少ないヒントで調べてみるとハンガリーで放送されたと思われるインタビュー番組を見つけた。インタビュアーの男性がすでに高齢と思われる本人に話を聞いている。


このインタビューの中で登場したクマのキャラクターが主役のストップモーションアニメ『TV Maci』が代表作のようである。Eテレあたりが放送すれば日本でも人気になりそうな雰囲気だ。ちなみにハンガリー語のWikipediaを読むと過去に何度か放送終了となり、そのたびに視聴率が低下したためこのクマのキャラクターが再び登場することとになったそうだ。


あまり大きな声では言えないが、今回MUBIで配信が始まった『BABFILM』でも視聴可能となっている。可愛らしい『TV Maci』と合わせると多様な作風をも持った作家だったことが垣間見える。フォキ・オットーの作品群を掘ってみるとまだ見ぬ傑作に出会えるかもしれない。


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