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逃避の散歩 23.東急多摩川線

過去を思い返してみると、大田区内を歩いた記憶がほとんどない。覚えているのはJR大森駅周辺と京浜急行平和島駅周辺、そして羽田空港にJR鎌田駅周辺くらいか。

ふと大田区が歩きたくなったので、今はここにいる。

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東急線の多摩川駅。東急東横線の停車駅でもあるが、今回の目的は大田区を通る東急多摩川線の線路沿いに歩く。ゴールは蒲田駅西口。この駅を含め全7駅で運行距離は5.6キロメートル。今回初めて歩く路線だ。

東口からスタート。地下のホームから出てくる線路と並行する歩道を歩く。線路を挟んだ右側には木々の生い茂る丘が見える。多摩川浅間神社だ。

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スタートから2分経過したところで、最初の踏切に差し掛かる。線路の先左側に見えるのが丸子橋。多摩川浅間神社に丸子橋ときてピンと来た人はお察しの通り。趣味丸出しの話をすれば、『シン・ゴジラ』で自衛隊がゴジラ(第四形態)を迎撃する「タバ作戦」が展開されるのはこのあたりで、その作戦指令室が置かれたのがこの神社の社務所の屋上の展望台だ。

踏切は渡らずにそのまま線路沿いに進む。そういえば、線路を渡って川沿いに西へ1キロほど行くと、多摩川緑地広場がある。そこの野球場はかつて『巨人の星』や『侍ジャイアンツ』に出てきた読売巨人軍の多摩川グラウンドだった。ジャイアント馬場が読売巨人軍にいたころ、その辺りの土手をよく走っていたという話を聞いたことがある。

思い出しついでに、多摩川駅と二子玉川駅の中間あたりに古くからのプロレスファンはご存じの田園コロシアムがあった。『キン肉マン』でウォーズマンとバッファローマンが闘ったのも確かそこだ。

線路と少し間は開き、中原街道の下のトンネルを抜ける。すると、「六郷用水の跡」という名前板付きの石柱が目に入る。

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かつての水路を再現した遊歩道になっているそうだ。時々、水路に鯉が泳いているのが見える。人通りが少なく、気持ちよく歩けるのはいい。

脳内でパーカー・エインズワースの『Running Far So Long (House A Home)』が流れる。映画『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』のエンドクレジットで使われた曲だ。

遊歩道を歩いて4分過ぎたところではじめての交差点に差し掛かる。右折した先に踏切が見えるのでその方向へ進む。

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スタートから9分経過。踏切に差し掛かったところで左側に見えたのは沼部駅の改札口が見える。遮断機が下りているので、電車の通過待ちをする。

遮断機が上り、踏切を越えて下り側改札横の道を進む。JR線の高架下をくぐり、その先の最初の角を左折して線路沿いの道に入る。この辺りは神奈川県方面へ行くJR線の車窓からぼんやりと見ていた風景だ。今回歩いて逆の視点からJR線の線路を認識できたことで、頭の中の地図がまた更新される。

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晴れ渡る空を見上げつつ歩いていると、ふと脳内でボン・イヴェールの『Second Nature』が掛かる。Netflixで見れる映画『ドント・ルック・アップ』のラストで流れる曲だ。

次の駅へ向かう道の途中で時おり右側の角の先を見ると、多摩川の土手が見える。目測で数百メートル離れていると思うが、名称通り多摩川の近くを歩いているのだという実感がわく。

そういえば、元はこの路線がかつて東急目蒲線と呼ばれていた路線の一部だったことはうっすらと覚えている。普段からこの辺りの電車を滅多に利用しなかったので、「あれ、目蒲線はどうしたんだろう」と思いつつ、今回歩く前に調べたら、2000年に路線整理があり、現在の名称と区間に変更されたことを知る。

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スタートから22分経過、鵜の木駅前を通過。

この辺りから、右側を見ても多摩川の土手が見えなくなってきた。視線の先にマンションが必ず立ちふさがるような感じだ。それが悪いというわけではなく、マンションが建つ以前はどのような風景が広がっていたのだろうかと想像しながら歩く。

それでも辺りがあまりにのどかすぎるからか、脳内でザ・モンキーズの『デイドリーム・ビリーバー』が流れる。ベタすぎて申し訳ない。

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二つ目の踏切を渡ったほうが線路沿いになるようなので踏切を渡り、奥の交差点で信号待ちする。

進行方向から見て左側の錆びたフェンスが気になる。フェンスの奥に木々が生い茂っているのが見えるからだ。信号待ちの間に軽く検索してみると、光明寺という寺らしい。

光明寺というと、『人造人間キカイダー』を思い出す。実写版は当然好きだが、漫画版も好きだ。連載当時、石ノ森章太郎が忙しすぎてコンテだけ手がけ、作画はすべてアシスタントが行ったという証言があるけど。リブートした実写版はできればなかったことにしてほしい。

信号が変わった。渡って線路側に戻って先を進もう。線路に沿った直線の先に見えるのは大田区民プラザだ。

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大田区民プラザの前に来たところで右折し踏切方向へ。スタートから31分経過したところで下丸子駅前を通過。踏切は渡らず、そのまま大田区民プラザの横を抜ける。最初の踏切に差し掛かったところで左折。

最初の交差点を右側へ渡ったとき、おもむろに見た案内標識に書かれている字を見てはっとする。

脳内でデイヴ・ディー・グループの『ソーホーの夜』が掛かる。映画『ラストナイト・イン・ソーホー』でエンドクレジットに使われた。

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次の交差点を通っているのが環状八号線だということに。

自分がいままで環状八号線で実際に歩いたり自転車で通ったことがあるのは、北は練馬の光が丘から南は東急東横線の田園調布駅近くまで。確かに、田園調布へ向かう歩道橋の案内標識には鎌田と下丸子が書かれていたし、実際に行かなくても地図を見ればこの辺りに出るのはわかる。

しかし、実際に歩いてみて実感することはあるもので、また頭の中の地図が更新される。

入った道は、環状八号線から一つ外れているだけなのに幅が広く、車通りも人通りもほぼない。無心になって歩を進める。気が付くと踏切が見え、道は線路沿いになる。

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スタートから42分経過、武蔵新田駅前を通過。沼部駅と同じように踏切を渡り、下り側改札横の道に入る。駐輪場の脇を抜けると線路沿いの道が続き、線路だけが上り坂となり、高架になる。その先には環状八号線が見える。

ここでプライマル・スクリームの『カントリー・ガール』が脳内で流れる。このオリジナルもいいけど、映画『ワイルド・ローズ』で主役を演じたジェシー・バックリーが歌ったカントリー風アレンジのカバーもいい。

さらに100メートルほど進んだところで第二京浜(国道1号線)と交差する二つ目の高架の手前に来た。先へ進むため線路と環状八号線の矢口陸橋に挟まれた位置にある交差点を渡り、また高架をくぐって線路沿いの道を進む。

少しだけ坂を上った先の踏切を渡る。そして踏切を通る道は2車線なので、いったん環状八号線の多摩川一丁目交差点へ出て鎌田方面の横断歩道を渡って対向へ。すぐ右折して踏切に戻ったら手前を左折。これで線路沿いの道に戻る。

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スタートから55分経過、矢口渡駅前を通過。次は終点だ。

最初の踏切前を通過した先で、また環状八号線と合流しそのまま直進。しかし、環状八号線はほどなくしてアンダーパスに入ってしまう。それを見届けつつ先へ進む。

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2つ目の踏切が見えてきた。踏切の前は複雑な形状の六差路になっている。時計回りの要領で4つの横断歩道を渡り、右側の道へ入る。

最初の角を左に入ってすぐに右。そこからはしばらく直線が続く。二つ目の踏切が見えたら右折していったん踏切を渡り、先の横断歩道から対向に移り、そのまま踏切の方へ戻る。そして手前で右折。

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ここで脳内でサイモン&ガーファンクルの『明日に架ける橋』が流れる。いかにも最後らしい曲にしてしまった。

あとは最後の直線。いよいよ蒲田駅に近づいてきた。

それがわかるのも、視線の先に屋上の観覧車が特徴的な東急プラザが見えるからだ。その手前は東急線蒲田駅の駅舎が見える。ここから多摩川線に乗ったことがあるものの、いまだに池上線は乗ったことがない。

東急プラザ下の南口が見えたら左折し、高架下をくぐり抜けたら右折する。

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スタートから1時間14分、ゴールの蒲田駅西口に到着。

蒲田といえば……『鎌田行進曲』でもあるが、ここはあえて今回の始発駅のことを思い出してみれば、『シン・ゴジラ』のゴジラ(第2形態)が羽田沖から呑川を通って現れた場所だ。

あそこだけ寄って帰るか。

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駅から4分、蒲田宝塚・テアトル蒲田の跡地に来た。

シャッターの裏側は入り口ではなく、上映作品のポスターを貼るショーウィンドーだった。右側の入り口から入って4階にあった。

自分は2016年に『シン・ゴジラ』をある条件に合ったいくつかの劇場で観ていて、テアトル蒲田がその1つだった。怪獣映画は出現地で観ると楽しさが増す。しかも、この劇場は内装だけでなく入れ替え制ではないところが完全に昭和の映画館だ。モノラル音声の作品を観るには雰囲気が最高だった。

2019年に閉館してしまったが、非常に贅沢な体験をさせてもらったのはいい思い出だ。