軟水と硬水と炭酸水
1998年6月のことだ。
スイス、レマン湖のほとり、ローザンヌを訪れた。
晴れて暑くなり空気は乾燥していた。のどが乾いていた。水が飲みたい。コーラではなく、水が。
私は新潟県の、きれいな水が豊富にある土地に生まれ育った。水道水は湧水だった。蛇口をひねれば天然水が出てくる。のどごしのよい軟水だ。
だからからか、硬水が飲めなかった。フランスに滞在している間、飲み水はボルビック一択だった。エビアンもコントレックスも飲めない。いわんやガス入りのペリエをや。
ローザンヌのキオスクには、ボルビックがなかった。ほかに軟水のブランドを知らなかった。さて、困った。
スイスにはフランス語圏とドイツ語圏がある。商圏もそんな感じなのだろう。
私は、第二外国語をフランス語で2年かけても単位取得できず、ドイツ語に変えてなんとか卒業している。
棚にあるドイツ語の水を手に取った。
GEROLSTEINERと書いてある。おそらく地名なのだろう。ゲロルというのが気にかかるが、steinは確か「石」だったな。知っている単語が含まれているというだけのよしみで、その水を買って飲んだ。
そして吹いた。ド硬水のしかもガス入りだった。
キオスクでもっとも多くの棚を占めていた水が、硬水の炭酸だなんて、20世紀末の日本人旅行者には想像もできなかった。
21世紀になってから、私はダイエット目的で、まずコントレックスを、さらにはゲロルシュタイナーも飲むようになる。
それから20年以上経ち、いまや日本のコンビニ、スーパーの飲料水の棚には、炭酸水が幅を利かせるようになった。
炭酸水戦争で、アサヒウィルキンソンが圧倒的勝利を遂げた一方で、ポッカサッポロはゲロルシュタイナーの日本国内販売からひっそりと退いた。
私もウィルキンソンを飲むが、それはどこででも売っているからだ。
私はゲロルシュタイナーを好む。
やっぱり名前が悪かったのだと思う。
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