今野 英樹
42歳のごく平凡なサラリーマン蓮野純。 不惑の40代にして平穏無事なマンネリ生活に疑問を覚えてしまう。 そんなある日、高校の同窓会で高校時代の悪友であり、当時のバンド仲間だった松ヶ谷徹と須田信吾と再会する。 そこでひょんな事からバンド再結成の話が持ち上がる。
「・・・よし!本日はここまで!」 ここは都の外れ鞍馬山の山中、薄暗くなり始めた夕暮れの中、古寺の境内で木刀を打ち合う大男と少年。 大男はそう言うと木刀を下ろし、首元の汗を拭う。 その顔は真っ赤で、その真ん中にはそそり立つ高い鼻を持つ、天狗だ。 厳密に言うと、男はガチの天狗では無い。 天狗の面を着けた源氏の落ち武者、源為朝その人です。 そして声を掛けられた少年も、構えていた木刀を下ろし 「・・・ハアハア、・・・天狗殿!本日もお稽古ありがとうございました!」 息を
「あに様ぁ!お帰りなさぁい!」 北条時政が源頼朝を自領に引き取って数日後、時政邸にある青年の鎧武者が幾人かの武者を引き連れて戻って来ました。 青年の名前は北条宗時。 時政の長男で、政子の兄である。 浅黒い肌に太い眉、中肉中背の父時政同様、ガテン系のいかにもな坂東武者です。 宗時は出迎えた政子の頭を撫でながら 「政子ただいま帰ったぞ!良い子にしていたかい?」 と、男らしく、そして優しく声を掛ける。 「はい!政子は超良い子にしておりましたぞ!」 政子がそう答えると、満足そうに笑い
「それでは儂はこれより伊東祐親殿の元へ参る。お前達は先んじて我が領へ戻っておれ。」 京から伊豆の国への帰路、北条時政一行は伊豆と伊東の分岐路にさしかかっていました。 時政は平清盛からの命令で、単身伊東へ向かうため、政子以下お供の者達にそう告げた。 すると政子はお共の者達を振り返り 「うむ、気をつけて帰るのじゃぞ。」 そう言う、時政と共に伊東へ行くつもりなのでしょう。 時政はふぅーっと溜息をつき政子に 「お前も先に帰るのだ。・・・伊東殿の所へ行くのは、清盛公のご命令なのだ。遊び
「ただいま戻りましたあああぁぁぁっ!」 政子が宿舎の玄関に入り、大きな声で挨拶をしました。 「バカモン!!一人でどこをほっつき歩いとったか!?」 すると一足先に清盛邸から戻っていた時政が、政子に怒鳴りつけました。 政子は 「しまった、出た時のように裏から入れば良かった。」 と思いながら 「一人ではありませぬ、・・・豊武と一緒でした。」 と、変な言い訳をし、時政はそれを聞きさらに怒り 「そんな事はどうでも良い!!一体どこで何をしておったのか!?」 政子は答えに困り、持っていた新
「な、なんと!!都へ上洛せよと!?」 ここは伊豆国の北条時政邸、政子の住む屋敷である。 そして五話目にしてやっと初登場の政子の父、北条時政、その人である。 北条家の起源はよくわかっていませんが、桓武平氏の末裔を名乗っておりました。 つまり平清盛と同族、遠い親戚だって事ですね。 ・・・あくまでも自称ですが。 さて、この時政という人物、歳は30代後半、中肉中背のゴツッとした体格で、平清盛や源義朝のような宮仕えの武士よりはちょっと品が落ちる感じの、いかにもなガテン系な感じの武将。
「・・・兄者、兄者は大馬鹿野郎だ。・・・あれほど清盛を信用するなと忠告したのに。」 都で平治の乱が勃発し、兄義朝が敗走、そして非業の死を遂げたことはしばらくして為朝の耳にも入りました。 「・・・常磐姉さん、常磐姉さんは無事なんだろうか?」 義朝には二人の奥方がいました。 正室であった由良御前はまあまあ良いとこのお嬢様で、気位が高く冷たい感じの美人で、粗暴な為朝を毛嫌いしていました。 為朝も自分に冷たいこの高慢ちきな由良御前が大嫌いでした。 側室の常磐御前はちょっとおっとりした
「・・・く、熊?」 伊豆の豪族、北条時政の娘、政子は3歳になっていました。 いつものように屋敷近くの山中を駆け回っていると、草むらにうずくまる全身茶色の大きな生き物に出会いました。 おかっぱの少女は足下に落ちていた木の枝を拾って、その生き物をツンツンと突きだした。 「・・・う・・・ん、・・・何だ?・・・何をする。」 その生き物は力無く、そう人間の言葉で話した。 「おっ?熊が喋った!」 政子が嬉しそうに叫ぶと 「・・・熊じゃ無い、俺は人間だ。」 弱々しくそう答える。 よく見ると
「おお!清盛ではないか!・・・それに重盛殿も。此度の戦での武者ぶりお見事でしたぞ!」 先の保元の乱の功績により、昇段を許される事になった義朝が正装をし御所へ赴き、父為義の助命を願い出るところだった。 そこで一足先に参内していた平清盛と重盛の親子に出くわしたのだった。 「・・・・。」 清盛は無言で片手を挙げ、義朝に薄ら笑顔を浮かべて会釈をした。 「・・・どうした?いつもの饒舌なお前らしくないのう?・・・具合でも悪いのか?」 不思議そうにそうたずねると、傍らにいた神妙な面持ちで重
「親父殿おおおっ!!・・・親父殿はいずこにおわすうううっ!?」 暗闇の中、無数の刀剣が火花を散らしぶつかり合う金属音、無数の武者達の怒号と甲冑がきしむ音が響く中、その中で一際、いや二際三際糞バカデカい馬上の若武者の野太い大声が切り裂く。 年の頃は18歳の現在であれば選挙権の与えられる年頃、身の丈は現在で言う2mを優に超える巨躯、乗られてる馬がちょっと可哀想。 団栗眼を血眼にし、熊っぽい髭の下のでかい口から真っ白な尖った歯をむき出して、飛んでくる矢を、雑兵が繰り出す槍を太刀で薙
さて、古ぼけた、いやいや由緒ある教会で行われている、美空の結婚式は終盤へとさしかかっていた。 参列者は美空の両親と、新郎のお母さんと娘さんと俺達だけの質素な式だ。 式の前に紹介された新郎の番秀人さんは元IT会社の社長って事で、やせ形で弁が立つスーツの似合う、浅黒い顔はしているがよほどガテン系には見えない男性だった。 美空と娘さんに話しかけるその言葉には、ある種の熱と優しさが籠もっているように感じた。 これで自称男運の無い美空も、卒業か。 式も滞りなく終了し、牧師さんが俺達に会
後日、祥二に電話で美空の結婚の報告と、結婚式での演奏の件を相談すると 「へー、良いんじゃない。俺達も佐川さんにはいつも世話になってるし。」 と、賛成してくれた。 「でも、考えてみると、俺達のレパートリーに結婚式に相応しいような曲が無いんだよな。」 そう、そこが一番の問題。 俺がそう言うと祥二がちょっと考えてから 「・・・そうだねえ、折角だから純ちゃんと陽子ちゃんで曲を作ってプレゼントしてあげたら?」 「えっ?」 何を言い出すんだお前は? これまで俺達の曲は、俺が作詩をして、祥
「ねえ、ここはこんな感じでどうかしら?」陽子がキーボードで何小節か奏でる。「うん、良いんじゃないか。」俺が頷くと陽子が嬉しそうに「じゃあ、次はこんな感じかしら?」調子づいてキーボードを叩く。「・・・いや、俺そんな急に高い声出せねえよ。機械じゃ無いんだから。」「アハハ、そうよね。・・・もうちょっと低いところね。」ある何でも無い休日、俺と陽子は初めて夫婦での合作の曲を作ろうと部屋にこもっている。何故こんな事態になったかというと・・・。 数日前、陽子と樹莉亜が夕方一緒に用事で出掛
その数年後、春男は高校に入学しました。 入学式の朝、春男が一人で校門をくぐり、校舎の方へ歩いていると「おい、春男!」後ろから呼ぶ野太い声。 春男が振り返ると一人の巨漢が立ちはだかっていました。 「お前、力太郎かよ?・・・お前もこの学校に入学してたのか?」 「ああ、久しぶりだな。」力太郎はにやりと笑って拳を構え「そう言えばよ、小学校の時の決着がまだついてねえな。どっちが強いか今のうち決めとくか?」 春男はちょっと笑いながら 「ああ、お前の方が強いって事で良いぜ。・・
時は変わって、第二次世界大戦終戦後。 敗戦と言う暗闇の中で、人々が焼け野原になった日本を一筋の光に向かって逞しく生きていた、そんな熱い時代のお話です。 ある町の境の空き地で、二つの小学生のグループがにらみ合い、対峙しています。 「おい!!春男はいるか!?」一方の少年グループの中の、一際体の大きな一人の少年が進み出て、野太い大きな声で怒鳴りました。 彼の名は須田力太郎、大人顔負けの怪力自慢の豪腕で「ヒグマのリキ」と呼ばれ恐れられている、大工の棟梁の息子です。 そして相
さて、あっという間に半年が経ってとうとう祥二の商店街と隣町の商店街の合同フェス開催日となった。 俺が10代の頃、親父が歳を取ると時間が経つのが早くなると言っていたのを聞いて、そんな馬鹿なことがあるか、小学校の6年間なんて滅茶苦茶永かったし、歳を取ったって1秒の長さが変わるわけでもあるまいしと思ってたが、40を過ぎて実感している。 歳を取ると時間が経つのは早くなる!!マジで。 実行委員である祥二は準備作業を勤めながらも、たまに俺と徹の特訓 俺の特訓は前にも行った、抜き打ち路上ラ
さて、変哲も無いとある日、家に帰ると陽子が難しい顔をして腕を組んでリビングに座っていた。 俺が帰ったことに気づかないようだ。 「・・・ただいま。」 俺が声を掛けると、ハッと顔をこちらに向けて 「あ、おかえりなさい。・・・ごめんなさい、気がつかなくて。」 その手には封筒と便せんのような物が。 「いや、それは良いけど。・・・どうした?」 すると、手にした封筒の中からチケットのような物を取りだして 「うん、高校の頃まで習ってたピアノの先生から、実家に手紙が来てね。」