44. Stage 2013 Part3

さて、古ぼけた、いやいや由緒ある教会で行われている、美空の結婚式は終盤へとさしかかっていた。
参列者は美空の両親と、新郎のお母さんと娘さんと俺達だけの質素な式だ。
式の前に紹介された新郎の番秀人さんは元IT会社の社長って事で、やせ形で弁が立つスーツの似合う、浅黒い顔はしているがよほどガテン系には見えない男性だった。
美空と娘さんに話しかけるその言葉には、ある種の熱と優しさが籠もっているように感じた。
これで自称男運の無い美空も、卒業か。
式も滞りなく終了し、牧師さんが俺達に会釈をし「どうぞ。」と一言。
それを合図に式の間、ピアノを弾いていた陽子の周りに俺達が進み出す。
祥二のはクラシックギターを抱え椅子に座り、その脇に俺が立ち、タンバリンを持った信吾とリングベルを持った徹は俺達の後ろに立つ。
演奏の前にみんなのすすめもあって、何かお祝いの言葉を言いたくて、
「・・・秀人さん、美空、ご結婚おめでとうございます。美空とは高校の同窓会で再会して、その同窓会をきっかけにこの仲間達ともバンドを再結成して、たまたま練習スタジオの近所にあった美空のお店を溜まり場のように利用させてもらっていました。・・・何か運命のようなものを感じて、今日はお祝いと日頃のお礼に演奏をさせてもらうようにお願いしました。」
一息置いて
「この曲は美空の親友である陽子が曲を書き、僕が詩を書きました。新たな結婚というステージに立つお二人のために、歌います。・・・「STAGE」。」
俺の言葉が終わると、美空のピアノのイントロが綺麗に鳴り響く、そしてそこに祥二のギターが優しさ溢れるアルペジオで重なる。


この地球上に溢れる 70億ものストーリー
いくつもの偶然が絡み合い いくつものステージが生まれる

嬉しいことも哀しいことも 時には辛いストーリー
それでもいつでもこの一瞬も 人の数だけステージが生まれる

僕のステージに上がってくれないか
君が僕のストーリーに花を添えてくれ

君のステージに僕を上げてくれないか
僕が君のストーリーに熱を吹き込もう

朝もやの中 始発電車が走り出す
僕達のステージ 今日も始まる

夕暮れの街 黄昏れる人の群れ
誰かのステージ 今夜も始まる


俺も渾身の気持ちを込めて歌い込んだ。
そんな気持ちに心地良く信吾のタンバリンがビートを刻み、たまに徹の鈴がシャンッ♪と鳴る。
徹偉いぞ!ちゃんと空気を読んでいる。やれば出来る子だ。
曲が終わり、美空の方を見ると美空は泣いていた。
振り返るとピアノを弾いていた陽子も泣いている。
そして美空が陽子に、陽子が美空にどちらとも無く駆け寄り、抱き合って泣き出す。
・・・ヤバい!もらい泣きしそうだ。
感動的な場面を見てると俺もヤバそうなので、目をそらし他のメンバーの方を見ると、信吾と徹はにこやかにそんな陽子と美空を見守っている。
祥二は目を潤ませ真っ赤な顔で、必死に泣きそうなのを我慢しているようだ。
しかし、マジで俺らの曲で、美空にこんなに喜んでもらえたのは良かった。
美空よ、マジでおめでとう!
マジで幸せになってくれよ!そう願わずにはいれなかった。
・・・ヤベ、俺もマジで泣きそう。

さて、会場だった教会を撤収して、ファミレスで反省会をすることになった。
いつもなら反省会は、美空の"ルビーチューズデイ"でするんだが、今日は当然ながら休業だしね。
化粧室で本格的に化粧を直して出て来た陽子、さっき涙でボロボロになってたからね。
「みんな本当にありがとうね。美空もすっごく喜んでたわ。」
陽子が座りながら、自分のことのように喜んで礼を言う。
さっき、演奏後に陽子と抱き合って泣いていた美空が、ふと顔を上げ、涙を拭きながら俺の方を見て
「・・・この歌詞の作詞は純君?」
俺が
「ああ、そうだよ。・・・何で?」
とたずねると
「なんかね、・・・私に贈ってくれた歌詞って言うより、陽子に贈った歌詞のように聞こえちゃって。・・・でも、すっごく嬉しかったわ。・・・ありがとう。」
・・・ちゃんと喜んでもらえたんだろうか?
と、陽子の言葉を受け徹が
「別にお前のためにやったんじゃないぜ?佐川も喜んでたみてえで、良かったな。・・・って俺は鈴をシャンシャン鳴らしただけだったけどな。」
すると祥二が感慨深そうに
「ああいう生楽器だけの演奏ってのも、たまには面白いねえ。MTVのアンプラグドみたいだったねえ。・・・徹君、今度はアコースティックギターも練習してみるかい?そうすれば俺達の音も広がるんだけどなあ。」
もう祥二の関心は美空の結婚式の余韻より、バンドのこれからのことに向いてしまってるみたいだ。
それを聞いた徹が、手を頭の後ろに組んで
「・・・うーん、無理無理。5本の指で6本の弦を押さえて弾くなんて超難しそうじゃん?指と脳みそがつるぜ。」
それを聞いて陽子が呆れ顔で
「んもう、徹君はいっつもいい加減よね?あんたがバンドやるって言い出してからこの腐れ縁が続いてるんじゃないのよ?・・・でも、あの時解散してなかったらどうだったかしらね?もしかしたらプロデビューしてて、今頃は結構ベテランの大物バンドとか言われてたかも知れないわね。」
陽子がニヤニヤしながら、そんな冗談とも本気とも取れる事を言うと、信吾が笑いながら
「そしたら、今日佐川の結婚式で演奏するって事も無かっただろうし、今ここでマッタリもしてなかっただろうな。」
と、ボソッと呟く。
「・・・そう言えばそうね。・・・でも、「STAGE」の歌詞じゃ無いけど、ホント偶然に偶然を重ねて私達はここにいるのよね?」
陽子が言うと信吾が頷きながら
「・・・そうだな、俺の家の近所に偶然純の家と陽子の家が引っ越して来なけりゃ、まず俺達3人も出会って無かったしな。」
それを聞いて祥二も
「そうそう、徹君が俺の目の前でお腹空かして倒れなきゃ、徹君と俺も友達になって無かったかも知れないし。」
徹がちょっと恥ずかしげに祥二の言葉に答え
「・・・そんな事もあったな。偶然お前が良い奴だったからな。・・・それはそうと陽子よう。」
「ん?何?」
「・・・お前プロになりたかったのかよ?したらやっぱ解散しなきゃ良かったのによ?」
さっきの陽子の言葉に俺達も予想してなかったツッコミを入れる。
これには陽子も、ちょっとだけ気色ばんだ面持ちで
「あんたねえ、あんたが解散しようって言ったんじゃ無いのよ?バカじゃないの?」
そう、俺達The Namelessは徹の気まぐれで高校時代に結成して、一度だけ対バンライブに参加して、その帰り道に徹の気まぐれで解散するって言う、若気の至り的な超テキトーなバンドだった。
「いや、俺は解散するなんて言ってねえぞ。・・・俺が辞めるって言っただけだぜ?」
・・・目が点になるってのはこのことだな?
徹の一言に視点が滅茶苦茶狭くなるのを感じた。
俺は目を点にしたまま信吾と祥二の顔を見回して
「・・・なあ?・・・あん時そんな話だったっけか?」
信吾と祥二も文字通り目を点にして首をシンクロさせて左右に振る。
「ちょちょちょちょっとあんた!!この空気どうしてくれるのよ!?・・・」
陽子がマジギレしそうな所に、信吾が冷静に
「まあまあ、落ち着け。・・・被告人の意見珍述を聞こうぜ。」
「誰が被告人だよ?・・・まあいいや。・・・あん時よ、演奏終わって便所に行ってウンコしてたらよ、誰かが入って来て俺達の話をし始めたわけだ。」
「ふんふん。」
「何気に聞いてたらよ、祥二と陽子と信吾と、あと純の事も褒めてたよ。・・・特に祥二と陽子と信吾はプロになれるかもみたいな褒め方してたんだよな。」
何か、俺は添え物みたいな扱いだな。
・・・まあ一応は褒められてたんだな。褒めてくれた方ありがとう。
「でよ、その後、俺が下手だの足引っ張ってるだの言い出しやがってよ。・・・ムカついてぶん殴ってやろうかと思って、急いでケツ拭いて出て行ったらもう誰もいなくてよ。」
・・・初耳、そんな事があったのか?
いやあ、今さらながら喧嘩沙汰になってなくて良かったな。
「でもそんなの、そいつらに言われなくてもわかってたんだよな。俺だって。・・・俺だけ下手っぴで足引っ張ってるってよ。」
「でも徹君は僕と父さんに教わりながら、一生懸命練習してたじゃないか。いつもいい加減な徹君があんな真剣になってた姿は僕も見たことなかったし。」
祥二がフォローしつつも、ちょっと酷いことを言ったが、そこは全員スルーする事にした。
「まあな、でもやっぱ元々の力量って言うか、センスって言うか、そこらが足りてなかったんだよな。・・・だから、俺だけ身を引こうと思ってだな、そうすれば祥二がギターをやって新しいベースを入れるとかすればよThe Namelessのためになるんじゃね?って思ったから。・・・そんでやめるって言ったら、お前らまで全員やめちまいやがってよ。」
・・・シーーーーーン。
ガヤガヤしているファミレスの空間の中、俺達の周りだけ静けさが漂ってしまっていた。
・・・閑さや岩にしみ入るガキの声。
冗談はさておき、頭をフル回転させ記憶の糸をたどったが、そんなシチュエーションじゃなかったよな?
祥二と信吾も多分俺と同じ様に感じてるのか、黙って腕組みをしたまま黙り込んでいる。「・・・プッ!アハハハハハ!」
突然、沈黙を破り陽子が笑い出した。
徹がギョッ!と驚いたように身構えながら
「ど、どうしたんだよ?」
と、たずねると、陽子が笑いを抑えながら
「いやね、もうそんな昔のことどうでも良いわよって思ってさ。・・・それより、これからよね。」
「これから?」
俺が聞くと
「そう!これからよ!せっかくね、またみんな集まったんだから、もう解散したくないなって!」
祥二が嬉しそうに
「うん!そうだね!」
陽子がガバッと立ち上がって
「よし!決めたわよ!The Namelessは、一生解散しない!足腰が立たなくなるまでやるわよ!・・・良いわね?バンマス!」
「・・・お、おう。お、俺は良いけど、お前らは?」
徹が陽子の勢いに押し切られたように返事をし、俺達の顔を見る。
「まあ、俺は再結成の言い出しっぺだしな。・・・信吾は?」
俺がそう答えると、信吾も言うまでも無いというような表情で
「おう、俺も付き合うぜ。」
それを受けて、徹も立ち上がりながら
「よし!じゃあ、決まりだな?・・・祥二次のステージはどこだ?」
「結局、祥二任せかよ。」
信吾が笑いながら言うと、祥二も苦笑いしながら
「まあまあ、そんなに慌てないで。・・・一応、考えてはいるんだ。」

さて、そんな訳で俺達The Namelessは、これからも活動を続けていく事で全員の意見が一致した。
次はどこでどんなステージになるやら?そしてどんな出会いが待っているやら?
今から楽しみでしょうが無い。
・・・と、とりあえずここいらで俺達のお話はお終いですが、俺達のRock'n'roll Timeはこれからも続きます!
Yeah!

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今野 英樹

STAGE

42歳のごく平凡なサラリーマン蓮野純。 不惑の40代にして平穏無事なマンネリ生活に疑問を覚えてしまう。 そんなある日、高校の同窓会で高校時代の悪友であり、当時のバンド仲間だった松ヶ谷徹と須田信吾と再会する。 そこでひょんな事からバンド再結成の話が持ち上がる。
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