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インバージョンについて

物理探査に限らず、観測データの解析には二種類の方法があります。一つは順方向のデータ解析です。この解析は、順解析またはシミュレーション(simulation)などと呼ばれます。物理探査の例で説明します。ある地下構造を仮定すれば、その地下構造を離散化して数学モデルに落とし込むことで、そのときに得られるであろう観測値を予測することができます。これが数値シミュレーションです。シミュレーションは、モデル空間からデータ空間への変換と捉えることもできます。

もう一つの解析は、逆解析またはインバージョン(inversion)と呼ばれる解析法です。物理探査の究極の目標は、地表で観測したデータから地下構造を推定することです。物理探査を実施して得られた物理探査データを使えば、地下の様々な物性分布を推定することができます。弾性波探査では弾性波速度の分布、重力探査では密度分布、電気探査や電磁探査では比抵抗分布が得られます。

最も一般的なインバージョンでは、最小二乗法を基礎とした手法が使われます。インバージョンの多くは、線型最小二乗法や非線形最小二乗法を利用しますが、それ以外の手法も使われています。これらの方法は、メタヒューリスティクス(発見的な方法)と呼ばれています。メタヒューリスティクスの手法の多くは、生物を模倣したアルゴリズムが使われています。

最近はAIブームですが、このAIの基本になっているのがANN(人工的なニューラルネットワーク)です。ANNはこれまで何度もブームになりましたが、ここ最近のブームはこれまでにない最大のブームになっています。その他にも生物の遺伝を模擬した遺伝的アルゴリズムや、鳥・魚・昆虫などの群れを模倣した群知能と呼ばれる一連のアルゴリズムもあります。

インバージョンを実施する場合に問題になるのが、求めたい未知パラメータの数(M)と観測データの数(N)の大小関係です。観測データ数Nが、未知パラメータ数M以上あれば(優決定問題/平衡決定問題)、数学的に未知パラメータを推定することが可能です。一方、観測データ数Nは未知パラメータ数Mより少ないと(劣決定問題)、そのままでは数学的に推定することが出来ません。ただし、別の条件を加えることで無理やり解くことはできます。

例えば、未知パラメータのノルム(大きさ)を最小化する条件を加えれば、最小ノルム解が得られます。また、未知パラメータ間にある種の拘束条件を加えても解くことができます。一般的には、複雑な地下構造を推定しようと思えば、観測データが不足する劣決定問題になります。しかし、様々な工夫によって、”最適な”解を推定することができます。これがインバージョンです。

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