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『物理探査学入門』のまえがき

 おそらく,この本を読んでいる大部分の人にとっては,物理探査という言葉は馴染みの薄い言葉だろう.物理や探査の個別な意味は知っていても,それを合わせた物理探査にはピンとこないはずだ.探査と聞いて,第1章の最初の図のようにダウジングを思い浮かべる人もいるだろう.しかし,ダウジングは今のところ科学的な根拠や原理が未解明な未科学領域の方法なので,この本では詳しく説明しない.

 物理探査を深く理解するためには,多くの学問の知識が必要である.物理探査法の多くは地球物理学を基礎にしているので,地球物理の知識は必須である.また様々な測定機械を使ってデータを取得するので,電気・電子工学計測工学の知識も必要である.さらに測定データの解析にはコンピュータを使うので,情報工学計算機科学の知識も必要である.最後に解析結果の解釈のためには,地質学地球化学,さらには土木工学的な知識も必要となる.このように物理探査を深く学ぶためには,多くの理工学的な知識が必要なため,全てを詳しく勉強するのは容易ではない.しかし,どの知識も物理探査には必要不可欠なので,できるだけ多くのことをしっかり学んで欲しい.

 各章では個別の探査法について少し詳しく説明するが,これまでの教科書とは異なり,各探査方法を理解するために必要な事項を学問分野ごとに分類して説明している.これは本書の最大の特徴で,最初から順番に読んでも良いし,読者が関心ある項目だけをツマミ読みすることも可能である.なお,本書は書名の通り物理探査学の入門書なので,紙面の都合上,詳細な説明を省いた箇所が数多くある.できるだけこの本だけで完結できるように努力したが,説明不足な専門用語が数多く残っている.わからない専門用語や英単語は,自ら積極的に調べて欲しい.また,この本を読んで物理探査学に興味を持った読者には,さらに多くの専門書や論文を読んで知識を深めて頂きたい.

 物理探査は,ある意味では料理に似ている.いくら,丁寧でわかりやすい料理のレシピ本を読んでも,実際に料理をしなければ料理を習得することはできない.それと同じように,この本で物理探査の基礎知識が少しだけ身に付いたとしても,実際に試してみないことには物理探査の本質は理解できない.基礎的な知識も重要ですが,体験(経験)がより重要です.これから研究者を目指す人や,物理探査を仕事にしようと考えている人には,どのような探査方法でも良いので自らの手で試して欲しい.

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