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トヨタ、ハイブリッド車の特許無償開放

はじめに
トヨタ自動車がハイブリッド車(HV)についての特許の無償開放を行う方針だという。トヨタにとって特許を無償公開することの意味はなんだろう?
おそらくトヨタには特許を公開しても、同じ技術なら部品の製造コストで勝てる自信があるのだろう。


1.ハイブリッド車の時代
ディーゼルエンジンの排気ガス問題等により、電気自動車(EV)へのシフトが勢いを得ているが、充電時間、充電ステーションの密度等の課題から、すぐにEVにシフトできる状況ではない。エネルギー密度についても、現状ではバッテリーのエネルギー密度はガソリンのそれに遠く及ばない。

2.車のアーキテクチャの変化
さらに、HVやEVでは、特にパワートレインやボディの組立て等の工程以降は、PCやスマホと同じように特に自動車メーカーでなくても、誰でも出来る作業になっていくものと見られている。
PCやスマホとのアナロジーを考えると、現在これらの製品で支配的地位を占めているのは、インテルやクゥアルコム等の基幹部品に関する知財を握っているメーカーである。トヨタの動きから察するに、トヨタはハイブリッド車の基幹部品はインテルCPUやスナップドラゴン等のLSIとは性格が異なると見ているのだろう。つまり、知財を開放してもトヨタの優位性は揺るがないという自信をもっているものと見える。

3.技術的観点での「LSI」と「車」の違い
インテルやクゥアルコムのLSIとトヨタのハイブリッド車のパワートレインの技術的な違いについて考えてみると、LSIは知財を抑えておかないと製造プロセスがあれば、相対的には容易にコピー製品が作れる。それに対してハイブリッド車のパワートレインの要素部品は、藤本隆宏先生のいわれるところのインテグラル(摺り合わせ)型の製品であり、たとえ知財が解放されていても後発メーカーにとって同じ性能のものを同じコストで作ることは容易ではないものと思われる。この分野の開発で苦労を重ねてきたトヨタにはそれは自明のことなのだろう。

4.ハイブリッド車における「組み合わせ」型アーキテクチャ
「要素部品さえ供給されれば、それを組み立てて完成するハイブリッド車のパワートレインはモジュラー(組み合わせ)型アーキテクチャを持つ製品であり、相対的には簡単に製造できる」かと言うと、どうやらこちらもインテグラル性がかなり高そうである。
ハイブリッド車の特許というものは、公開された知財を使えば容易にコピー製品が作れるというような生易しいものではなく、それを参考にすればするほど、トヨタからの部品とノウハウの供給なしでは安価に優れたものは作れないという、アリジゴクのような性格があるのかもしれない。

まとめ
トヨタの特許無償公開の背景には、ハイブリッド車のプラットフォームの覇権の確保に向けた先の長い戦略がかいま見える。トヨタなら成功するだけの力がありそうだ。

専門家の見解「トヨタ、HV特許無償開放の逆転の戦略…絶え間ない“成功体験の否定”で世界独り勝ち」を見ても、この件について私が感じることはそんなに違間違ってはいなさそうに感じる。

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