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新型コロナの陽性者を音声で判定する音声バイオマーカーとは?

新型コロナの検査方法として広く知られるようになったPCR検査。

無症状でも感染の有無が分かるため重用されていますが、結果が判明するまで日数がかかったり保健所を介さないと受けられなかったり、また偽陽性の可能性も無視できないと歯がゆい点が多々あります。

一方世界に目を向けると、遺伝子を用いず、何とスマホで数十秒で検査が出来るテクノロジーやアプリの開発が進んでおり、国によっては行政自ら採用の姿勢を見せるほどにまでなっています。AIで被験者の声を分析し、陽陰性を判別する音声バイオマーカーと呼ばれる技術です。

日本ではあまりニュースになっていないコロナ禍における「音声バイオマーカー」、そしてそれを使ったアプリを開発している企業について紹介したいと思います(=゚ω゚)ノ

音声バイオマーカーとは

「音声バイオマーカー」(Vocal biomarker)は、ざっくり言うと人間の「声」から身体異常を検知することを指します。研究自体は数十年前から行われていたそうですが、ここ最近はAIを活用した音声バイオマーカーの開発が各国で進んできました。

声というのは私たちが思っている以上に複雑な仕組みらしく、後ほど紹介するSonde HealthのCEO・Liu氏曰く『脳、口、肺、心臓など身体のあらゆる部分が連動して生まれるもの』。裏を返せば声を分析することで各部位の異常を見つけられるんですね。

AIで音声分析ができるのはご存じだと思いますが、概ね文字起こしや感情分析といった言葉そのものを活用するテクノロジーがメイン。一方の音声バイオマーカーは声質を基により高度な分析ができるもので、医療現場や従業員の健康管理を図る企業、また人が集まる施設なんかでの利用が期待されています。まさにWithコロナ時代のテクノロジーですね。

日本では馴染みがありませんが、音声バイオマーカーは今後2023年までに25億ドル規模の市場に成長するというレポートも出ており、後述するようなスタートアップ達が次々とサービスを公開しています。

新型コロナについていえば、感染者の声や呼吸、呼吸器系の臓器の異常を感染者の声と健常者の声をAIが分析・比較することで、新型コロナに感染していること、または疑いがあることを検知するという訳です。アプリによって細かい仕様は異なりますが概ね同じ仕組みです。

国にもよりますが、PCRはとにかく時間がかかることがネック。一方この技術はものの数十分で出来ること、アプリにすれば会社や施設で簡単に広く使えるのが大きなメリットで、どこでも手軽に無症状者を検出することが実現可能となります。

新型コロナに対応した音声バイオマーカーサービス

日本どころか欧米でもまだまだテスト段階ですが、各所で徐々にプロジェクトが進み始めています。いくつかご紹介しましょう。

VocalisHealth

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(VocalisHealth HPより引用)

8月上旬、インドのムンバイの行政がイスラエルの企業Vocal Healthが開発した新型コロナの音声検査アプリを使い、サンプル分析を始めると発表しました。

VocalisHealthはイスラエルに拠点を置く企業。AI とビッグデータを使って音声解析を行い、ユーザーの健康状態を把握することに長けています。ちなみに以前の新型コロナ接触確認アプリの記事でも少しご紹介しました。

アプリの仕組みと使い方はこうです。
アプリの搭載されたデバイスの前で、まず被験者に50~70個の数字を声に出してもらいます。
アプリのサーバーには無数の健常者、新型コロナ陽性者、陰性者の音声データが蓄積されており、それらをAIで被験者の声と比較。30秒後に検査結果が表示されます。詳しい仕様が公開されていないのですが例えば“audio point”が0.05だと新型コロナが陽性、0.08を上回ると「速やかな治療が必要」だと判断されるとか。ただし、この数値が取る範囲や数値の詳細な記載がみつからないので、詳細な仕様は不明です...。
恐らく、感染の有無だけでなく重度までわかっちゃうということだと思われます。

まだ試験段階ですが、ムンバイを中心にインド国内で10,000名を対象としたサンプルを実施予定。陽性、陽性の疑いあり、陰性の3グループに分けてそれぞれ行うそうです。もちろん実用レベルの検査精度ではないため、合わせてPCR検査も実施して「答え合わせ」をすることになります。

接触確認アプリ同様、ユーザーのサンプル(音声データ)が多ければ多いほど精度は増します。という訳で、現在VocalisHealthのウェブサイトでは皆さんの音声サンプルを絶賛募集中です!興味のある方は提出してみては?(*'ω'*)

Sonde Health

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(Sonde Health HPより引用)

Sonde Healthはボストンの音声バイオマーカー企業。

開発するアプリ“Sonde One”は、何と6秒間スマホの前で『あー』と声を出すだけで呼吸ほか身体の以上を検知できるという優れものです。新型コロナの症状の特徴も(設定上は)検知できるものの、厳密に言えば新型コロナの検査ができる訳ではなく、「(PCRなど)実際に医療機関で検査を受けるかどうか」を判断する為に使うべき、としています。PCRの前段階として使うという点はムンバイと似ていますね。

こちらは音声サンプルのビッグデータから導く訳ではなく、連日『あー』することでユーザーの「平常時の声」を設定し、そこからのズレをAIの分析で検知する仕組みです。もちろん呼吸器疾患に関する研究をベースとしている為決してユーザー1人のデータに頼っている訳ではありません。

こちらはAPIが公開されており各アプリとの連携もできるようになっています。驚くべきは心肺だけでなく睡眠や気分の落ち込みまで検知できる(らしい)んですが、声で睡眠不足まで分かるんですねぇ…(;´・ω・)

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(Sonde Health HPより引用)

元々は企業向けに開発されたアプリで、従業員の日々の健康状態を低コストかつ楽に測定し観測することを目的としています。上写真のようにダッシュボードで従業員のヘルスケアを把握することが可能です。ちなみに体温も計れるので現在よく見られる「朝検温した後に会社に報告して、それを管理者がまとめて…」みたいな作業も必要ありません。

すごいテクノロジーですが、同社は新型コロナの検査が出来るレベルまで目指している訳ではないそうです。

ちなみにこのアプリ、2019年にローンチされているので既に相当数運用されています。例えばアメリカ国内のあるソフトウェア企業では、原則在宅勤務を命じている現在から社員の出社を(感染リスクなく)再開させるための「策」として活用が想定されています。

もちろんまだ日本では使えません(;´・ω・)

Withコロナの新基準になるか

他にもMITのチームが新型コロナを検査できるテクノロジーを開発していますが、いずれにしろ新型コロナにおける音声バイオマーカーはその精度が課題になっている様子(具体的な数値や指標は不明)。しばらくは今回紹介した2つのサービス同様「本格的な検査を受けるべきかどうかを教えてくれる」くらいのものとして使うのが確実かも知れません。

2020年8月現在、経済を再開させウィルスと共存する姿勢が各国で見えてきました。人数が集まる場所で全員にPCR検査を行うのは難しい中、低コストかつ短時間で検査が出来るツールは非常に重宝するテクノロジーと言えます。残念ながら日本の公共機関で使われることは遥か先となりそうですが(・・;)、今回のようなサービス、国によっては広く普及するかも。もう新型コロナとの共存は当たり前で、「Withコロナをどうスマートに暮らしていくか」その段階に来ているのかも知れませんね。

参照サイト

https://vocalishealth.com/
https://www.freepressjournal.in/mumbai/coronavirus-in-mumbai-bmc-to-use-voice-biomarkers-to-help-detect-virus-in-30-seconds
https://fit.thequint.com/coronavirus/bmc-to-conduct-voice-based-covid-19-testing-how-does-it-work
https://www.voiceome.org/covid19/index.html
https://www.sondehealth.com/
https://www.bostonglobe.com/2020/07/09/business/say-ahhh-smartphone-please-new-too-covid/
https://www.thedenverchannel.com/news/national/coronavirus/voice-analysis-app-helps-companies-potentially-spot-employees-with-covid-19


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