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【映画ベスト10】2020年新作映画ベスト10

2020年に公開され、映画館で鑑賞した映画から渾身の力をこめて選出し、自信を持ってお勧めするベスト10です。

1.フォードvsフェラーリ (Ford v. Ferrari ジェームズ・マンゴールド/2019)

 これは「フォードvsフェラーリ」ではない、「個人vs組織」の闘いだ。捕獲しようとする資本に対してそれを突破しようとするアソシエイトした諸個人の力能。多用されるクローズアップとローアングルのキャメラが轟音を立てて爆走する車たちと共に骨太な熱き物語の行方を一分の隙も逃さず捉えていく。この半端ない傑作を産み出したジェームズ・マンゴールドにも称賛の嵐を!

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2.リチャード・ジュエル(Richard Jewell クリント・イーストウッド/2019)

 タイトル名が個人名であることが示唆するように、これはアイデンティティをめぐる闘争、イメージを簒奪し、「特異」なものとしてアイデンティファイ(同定)しようとする力との闘いの映画だ。それは、もちろんリチャード・ジュエルがサイン=署名を拒否する時点から既に始まっている。そして、最初と最後のシークエンス。そこに同じ二人の切り返しショットを据えるという律儀さがこの傑作に更なる厚みを与えている!

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3.空に住む(青山真治/2020)

 空に住む雲のような浮遊感を漂わせ、ゆっくりとパンしていくキャメラは猫を除き生活感のないタワマンの一室を地上の現実から遊離した虚構性を高めた世界として描き、そこの住人たちはどこか地に足を着けず、ワイングラスを通してしか、その関係を取り結ぶことができない。
 切り返しショットに互いの信を据える岩田へのインタビューを終えた多部の床を踏みつけ大股で彼に歩み寄る固定のワイドショットが地上と上空の対立を止揚し、彼女が背伸びする右手の青空をバックにしたラストショットが爽やかな風に似た心地良さを画面に吹き込む!

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4.娘は戦場で生まれた(For Sama ワアド・アルカティーブ、 エドワード・ワッツ/2019)

 砲撃音が鳴り響き、粉塵にまみれた子供たち、流血に染まった人々が横たわるアレッポの病院は地獄絵図のような絶望的な場所であると共に、負傷した母親から生まれた脈のない赤ん坊が息を吹き返す、希望の生まれる場所でもある。
 娘サマに捧げられた『For Sama』というパーソナルな原題を付された映像は、剥き出しの生を記録する手持ちショットによって、シリア政府(ロシア軍)による住民への野蛮な戦争=ジェノサイドに対する存在を賭した抵抗となり、その真理への勇気をもって豊かな普遍性を獲得する!

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5.風の電話(諏訪敦彦/2020)

 震災により生と死の境界に投げ出されたハル(モトーラ世理奈)を再び生きる側へと帰還させるロードムービーの傑作‼️現実の時間を紡ぐ、ワンシーン=ワンアクトがこの映画にリアルなランドスケープを導入し、彼女が踏みしめる爪痕の生々しさが観る者を圧倒する。存在を奪われようとしていたハルに存在することそのものを無償で与え、生きることへと送り返そうとする人々との出会いがまた素晴らしい!

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6.スパイの妻 劇場版(黒沢清/2020)

 吹きつける風の音やカラスの不気味な鳴き声が淡いモスグリーンに反射する画面と共に、時代の不穏な空気を醸成し、長回しのキャメラは不信が渦巻く危うい関係をそこで向き合う二人の立体的な配置と動線によって表象し、活劇に満ちた豊かな空間を獲得する。
 振り向き様のショットによって偶然を必然として選択することを決意した蒼井は、確信を力能へと高めた表情をその都度画面に刻みつけ、バストショットからスクリーンへと向かい崩れ落ちる彼女の圧巻のアクションを目の当たりにする私たちは正に「お見事!」と喝采するほかない!

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7.ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語(Little Women グレタ・ガーウィグ/2019)

 ジョーとローリーが初めて出会うダンスパーティーの外の廊下が一瞬にしてアナザーワールドとなり、二人が弾けるような躍動感で自由を体現するように踊る場面の素晴らしさ、この映画の解放感がキラキラと輝き出す瞬間である。
 キャメラは過去と現在を相互に照応しながら4姉妹たちを平等に描いて能動的に介入し、それぞれの人生を豊かに立ち上がらせると共に、他の姉妹たちの人生に寄り添うように画面を横断していくジョーはラストシークエンスにおいて来るべき人生を自分自身のものとして輝かせはじめる!

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8.ブルータル・ジャスティス(Dragged Across Concrete S・クレイグ・ザラー/2018)

 オープニングの薄明の青みがかった画面の中に銃を構えながら、非常階段に面した窓際で待ち受けるメル・ギブソンを正面から捉えたショットは、見えないターゲットとの距離を巡る戦いがこの映画のテーマであることをヒリヒリとした緊張感と共に教えてくれる。
 クライマックスの舞台となる廃墟となった倉庫の広場は、電灯と車のヘッドライトが照らし出すオレンジ色の光によってスポットライトを浴びたように冷たい夜の闇に浮かび上がり、画面の奥と手前に対峙する望遠ショットの中で響き渡る銃声と閃光が華々しくスパークする!

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9.異端の鳥(The Painted Bird バーツラフ・マルホウル/2019)

 冒頭の暴行を受けて地面に横たわる少年のローアングルのクローズアップが彼を地上に縛られた存在とし、その後の流浪の旅が空の高みを目指しながらも、悲しみの出会いに満ちた受難の道程となり、美しいショットに陰鬱な画が連鎖していく。
 人と動物の境界を無効にするような剥き出しの生が全面的に展開し、啓蒙が野蛮に転化した現代史に遭遇する少年が傍らで多くの死に直面しながら、能動性を纏いサバイバルしていく過程をキャメラは美しいモノクロの画面にひたすら焼きつける!

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10.シチリアーノ 裏切りの美学(Il traditore マルコ・ベロッキオ/2019)

 オープニングのマフィア組織のパーティーにおける集合写真のパノラマショットは、そこで焚かれたフラッシュがその後に抹殺される者たちを対象化すると共に、抹殺する者が裁かれるその後の裁判での無数のフラッシュへとリンクしたプロローグとなる。
 裏切り者とされる主人公ブシェッタのクローズアップは視線が重厚に絡み合う活劇の中心となり、空中の拷問シーンでの妻、組織への捜査に協力して面談する判事、法廷での組織の被告人との切り返しショットが個人の矜持、国家の法律、組織の掟を巡る正義を問い正す!

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