伊勢丹フランス展のバゲット炎上に見るデパートの求心力低下

炎上してますね、真っ黒焦げです。

今回の炎上事件についてですが簡単に言うと伊勢丹新宿店で開催されているフランス展に出店されていた「ブーランジェリー・パティスリー・トレトゥール・アダチ」さんのバゲットに対してお客様から「焦げている」というクレームが入って100本以上の大量廃棄という結果になったという話です。
(後に伊勢丹側から廃棄はしていないという発表あり?)

僕も百貨店の催事に出店することが多いので、なんとなくニュアンス分かります。アダチさん、パンと真摯に向き合われているお店なので、これは本当に悲しい出来事だったと思います。

で、アダチさんのインスタ投稿を見るとちょっと気になる投稿がありました。

美しいバゲットですね。絶対美味しいやつです。

投稿内容を見ると「大苦戦」とあります。催事出店している身からすると痛いほどよく分かります。催事企画と商品の相性が悪いと、全く売れないことって頻発します。アダチさんも売上的に「大苦戦」されていたんだろうと察します。でもこれはアダチさんのパンに問題があるわけではなく、単に企画と客層と商品の相性が悪かっただけなんですよね。

アダチさんはオープンして1年ぐらいのお店らしく、腕試しということで今回のフランス展に出店したのだと思いますが、実際にはデパート催事に出店してすぐに売れるということは現実にありません。知名度をしっかり築いて再チャレンジして欲しいものです。

そんな売上的に大苦戦している中で、お客様から「バゲットが焦げている」というクレームが入る。こうなると商品が売れずに大苦戦しているのは商品に原因があると解釈するのが今のデパートです。店側としてはいつもどおりの美味しいバゲットを焼いているのにも関わらずです。

もうこれはパン屋さんとしてのプライドはズタズタです。


今回の炎上ポイントは3つ

で、今回のバゲット焦げてるクレーム問題ですが、僕の視点から見ると3つのポイントがあります。

1.そもそもバゲットは売れない商品
2.デパートに出店すれば売れるという幻想
3.担当バイヤーが確認を怠り出店者を守らなかった

そして番外編としては

クレーマーはどこにでもいるから気をつけましょう


1.そもそもバゲットは売れない商品

そもそも論で恐縮ですが、そもそもバゲットはパン屋さんのラインナップの中でも売れない商品なんですよね。

いやいやそんなことはない、近所のパン屋さんではバゲットがものすごく売れてるよ!という向きもあろうかと思いますが、それはごくごく一部の話です。

パン屋さんの中でバゲットの売上というのは販売構成比率(額)で5%もありません。1%以下だったりすることもあります。日販10万円のお店ならバゲットの売上は5,000円以下。バゲットを焼いてないお店だって増えています。それっぽいパン屋さん(海外で修行した・有名店で修行した)なら必ず並んでいるバゲットですが、商品売上全体の中に占める割合は金額で言えば5%もないわけです。

海外で修行したシェフのお店でも、人気なのは明太フランスだったりカレーパンだったりするので、いくらバゲットが美味しく焼けても、お金を稼いでくれるのは日本のぱんだったりします。

じゃあなんでバゲット焼くのかと言うと、すごくすごく簡単に言うと美味しいパン屋さんをアピールするための「パン屋さんっぽい」看板としての意味があります。

あとは職人の腕を発揮するのにバゲットは適しています。バゲットを焼く工程の中には製パンの製法やオペレーションのすべてが詰まっていますから、バゲットが美味しく美しく焼けているお店は他のパンも美味しいというのが成り立ちますし、職人としての矜持を示すためにもバゲットは非常に重要な役割を担っているわけです。

そんな職人の思いの詰まったバゲットですが、今回は残念なことになってしまいました。フランス展に来場したお客様の10%がパンに興味があるとして、その中の1%がバゲットを買うと仮定すると、来場者の中0.1%しかバゲットの焼き具合を見定められる人はいないのではなかったか。

とすれば、パンに興味がない多数の人からすると、今回のバゲットに対して「焦げている」とクレームが入れたのは、まあしょうがいないのかなと思います。そもそも売れないバゲットで、フランス展に来場したパンに興味のない一般の消費者にバゲットの焼き具合の判断を求めるのも難しいことなのかなと思います。


2.デパートに出店すれば売れるという幻想

はっき言うと、デパートに出店してもそれだけでは売れません。

僕もデパ地下なんかで短期出店してますが、あるデパ地下なんかは正午、14時、17時、19時と一日に何度も値引きセールを行います。僕のお店は値引きしませんが、他のお惣菜売り場はもう何度も値引きして閉店数時間前には半額セールで商品を売り切ろうとします。

基本的にデパートは出店者に対して何もしてくれません。イベントならチラシに掲載するなどしますが、出店が決まって什器のリストを提出してアレルギー情報などを提出して申込書をFAXしたら、あとは現場で売るだけですし、イベント最中も担当者が売り場に来ることなんてありません。

デパートに短期出店するということは、自力で集客して、期間内の数字を自力で作り上げるということになります。これが本当に大変で、過去に何度も死屍累々を見てきました。

バイヤーが売り出したいブランド以外はお客様の目にも止まらないという現実もあります。

数年前だと、バイヤーは365日というパン屋さんを呼ぶことに必死で、イベントも365日に集客するために構成されて、サイトも365日の情報だけが掲載され、その他(僕のお店も含め)は会場の看板に店名すら記載されないという冷遇でした。そんな中でも自力で売上を作っていく必要があります。

今回のパン屋さんは横浜でオープンしてまだ2年目ということです。地元ではかなりの人気ですが、これが新宿で、しかもフランス展というアウエーの中で自慢のバゲットをキッチリと訴求していくというのは、かなり無理ゲーだというのは想像に難くありません。

もしあなたが地元で人気のパン屋さんだったとしても、デパートに出店したからと言ってすぐさまお客様が列をなしてバンバン売れるという幻想は持たないほうが良いでしょう。


3.担当バイヤーが確認を怠り出店者を守らなかった

これがまあ今回の問題の本質です。

ここまで書いてきた内容をまとめると

パン屋さんは売上で苦戦していた
バゲットはそもそも売れない商材
バゲットの焼き具合の見極められる人は少ない
フランス展でパンを売るのは完全アウエー

でですね、ここで重要になってくるのが担当バイヤーの動きです。

ここでもし担当バイヤーが

「ここのバゲットはしっかり焼き込んだ香りと食感がバツグンなんですよ、焦げているということではなく、ここまでしっかり焼き込んだバゲットの美味しさを感じて欲しくて出店していただいたんです。」

とお客様に説明していたらどうだったか、と思うと残念でなりませんね。

担当バイヤーはお客様からのクレームに乗ってパン屋さんに石を投げたわけです。

「このバゲットは焦げてて食べられない!」


いやあツライ。

焦げてるかどうかなんてちょっと確認すれば分かるし、そもそも出店を依頼してるんだから、そのお店の自慢のバゲットをお客様に分かっていただきたいという気持ちがあっても良かったのではないかと思いますね。後の祭りですけど。

横浜のお店のパンの仕込みにプラスして催事用のパンも焼くとなるとかなりの負担です。その無理を押して出店しているわけですよ。バゲットが焦げてるというまあ勘違いに近いクレームで100本以上のバゲットを廃棄させるというのも、結果として悲しいことになりましたが、最後の砦である担当バイヤーが出店者に石を投げたのがもう救われないというとこでしょうか。

しかし担当バイヤーさんも、まあしょうがないっちゃしょうがないんですよね。年間の催事スケジュールを埋めて来場者に品質を保証して、それが年間50回以上も繰り返されるわけです。もう多忙を極めています。

みんな疲弊してる。

ここまでダラダラ書いてきましたけど、総括としては…

今回のことは誰も悪くない
ただ、パンが捨てられただけ


バゲットはスクラッチで(粉から)仕込むと焼き上がりまで6時間以上かかります。非常に手間と時間がかかるパンなわけですが、お客さんからするとそんなことは知ったことではありません。

日本のパン職人さんの焼くバゲットは総じて美味しいというのが僕の印象です。日本の製パンの歴史はフランスに追いつこうとする職人たちの研鑽の歴史でもあります。それ故に求道的な製パンを守り、労働集約型の労働環境が改善されず、劣悪なまま放置されているという現実もありますが。

バゲットの本場フランスでは週35時間労働が徹底され始めていて、あるパン屋さんが働きすぎを理由に罰金3000ユーロ(約39万円)の支払いを命じられたニュースが話題になったこともあります。

フランスではもうパンに数時間もつきっきりというのは現実ありえません。日本のパン職人さんの求道的な仕事や長時間労働によって日本のパンは伝統的な製法を守り続け高品質で保たれています。美味しんぼでいうアメリカの豆腐のほうが古来製法を守っていて本来の豆腐の味がするという言及にも似ています。


このままでは日本のデパートは求心力を失ってしまう。

僕のお店でもデパート出店より自社ECサイトの売上のほうが多くなってきました。この数ヶ月で4回テレビ取材を受けていますが、デパートに足を運ぶお客さんは数年前に比べて激減しています。

デパートに出店しても集客は自力です。D2Cの一環としてデパ地下出店を積極的に行ってきましたが、割引弁当を求めるデパ地下の客層ではブランディングに何の約にも立ちません。

「自分のブランドを育てていく」
「お客さんを育てていく」

この両輪がそろって初めて幸せなお買い物ができると思ってます。しかし、不動産業者になってしまった日本のデパートでは、もう幸せな買い物は出来ないのかもしれませんね。


と、ここまで書いておきながら、僕のお店もデパートにポップアップストアや催事出店してるので、よろしくおねがいします。パンとかバター売ってます。

4月24日〜4月30日
阪急うめだ本店9階催場

5月2日〜5月15日
東武百貨店池袋店B2F4番地

5月22日〜5月27日
伊勢丹新宿店本館6階=催物場

サイトはこちら https://depa.jp
ECはこちら https://depa.stores.jp/


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

みなさまからの応援は、本を購入したり、音楽を聞いたりすることに使わせていただきます。応援していただけるとうれしいです。

8

ビデ

アイデアのスープnote

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。