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ボツになった話。

※※※

かくれんぼが好き。
家のまわりで近所の子と かくれんぼ した。

息を殺して、すももの木のうらに潜む。

おしっこ したいのを我慢して、
木の脇から覗く。

無防備な反対側のほっぺた を
変な虫に ちくんっ と刺されて、

「痛っ」

「あっみっけ!」

見つかった。



※※※

ボクんちの隣には、
元気な おばちゃん がいるんだ。

「4人目のおかあさん」って言ってもいいくらい。

のりちゃん。

30年くらい前、
東北から はるばる やってきた。

よそ者を嫌う田舎なこの町に、
臆することなく 元気パワー で跳ね返す。

心も体も規格外で人気者。
のりちゃん。

のりちゃんは、20代前半のころに嫁いできた。

地元にいたころよりも、
この田舎町のほうが長くいるはずだが、
ぜんぜん 訛り が抜けない。

「 抜けない 」というより、
いろんな訛りが混ざって、進化している感じ。

のりちゃんは、床屋さんで髪の毛が切るのが得意なんだ。

信号も無いようなド田舎だから、この町全員の髪を切っている。
忙しいときなんか3人も同時に切る時もある。

ひとつだけ言っておくと、
日曜日の昼間には、ぜったいに行かないほうがいい。

のりちゃんの好きな 「 のど自慢 」 の時間だからだ。
一旦踊りだすと、まぁ止まらない。

たいてい、
小学校の男の子の散髪なんて、
バリカンとハサミで 15分くらい。

しかし、のど自慢で演歌が流れると、
踊りと歌で1時間以上かかることも…。


のりちゃん は、声もデカい。

あいにく、
フィルター  を
持ち合わせていない。

壊れそうな ガラスの十代 の心を、
スパイクで ざっくざっく 踏みつけるんだ。

「好きな子いねーだか?」
「いないよ」
「わがった。 みきちゃん だっぺ?」
「ちっ ちがうよっ」
「なーに。あがくなってるっちゃ。よっしゃ!カッコよくしちゃる」
「いつもどおりでいいよー」


「 みきちゃん が好きなの?」

待合室のほうから声がした。

「せっ 先生!」

担任の先生に顔を出した。

「ちっ違いますっ ただの幼馴染ですっ」
「大丈夫。黙っておくから。」

のりちゃんは、 ニコニコ  踊っていた。

はぁぁ… 1時間コースだ…


「はい! いっちょ上がり!」

「ぱっつん!?」

鏡に映った顔はなんとも
前髪 ぱっつん で、裾が ひりひり するくらい青い。

「あとはおめー次第だ。勇気さ出して告白してこい!」
ハンデ大ありだ。
この髪型で OK もらえたら、もう流行っている。


終わりじゃないんだよ。
まだまだお会計が待っている。

お会計のときは、
2個の 「 安っいガム 」 と 「 チュー 」 をくれるんだ。

「 ちゅっ 」 なんてかわいいもんじゃないよ。

ぶっーーーーーーちゅう !! だよ。

隣に住んでいても、ご贔屓にできないよ…


床屋からの帰り道、
青くなった襟足をさすっていると、
のりちゃんが走ってきた。

肩をつかまれて、奥の小道に連れられた。

昔よく、かくれんぼで隠れたところ。

「また、チューは嫌だよ」
と言ったら、首を横に振るんだ。


耳元に顔を近づけて…

「あのさー、話があっけんども…」
「なぁに〜?」

「パパを許してけろ」

「え?」
「パパが 「 新しいかあちゃん 」 を連れてきても許してけろ。」

ぴゅーっと吹いた風が、
刈り上げたばっかりの裾をくすぐって、ぞくぞくっとした。

そしてやっぱり、

ぶっーーーーーーちゅう!! だった。

ボクの頬は両方、
おもちみたいに膨らんだ。

帰ったら、「 ムヒ 」塗って寝よ。
そして、とうぶん散髪行かんとこ。

※※※


小学生のころから、
近所で優しくしてくれた のりちゃん。

3年前に天国へ旅経ちました。

細かいことは気にせず、
誰に対しても平等に接して、
大きな愛で守っていただきました。

ちょっと暑っ苦しいくらいでしたが…
漁港の肉子ちゃんのような、あったかい人でした。


最後に髪を刈ってもらったのは、
高校1年生のサッカー部での儀式のこと。

「のりちゃん、坊主にして」
「女にモテんぞ!」
「いいの! 全国行ったら、嫌でも fan ができるから!」

けっきょく、
全国どころか山梨にも名前は轟きませんでしたが…


もうちょっと、
髪の毛が薄くなったら
あの時みたいに、坊主にしてもらいたかったな。

きっと天国で
おかあさんと仲良く
見守ってくれていると思います。

散髪したての刈り上げを
シャリシャリさわると思い出すお話です。

のりちゃん ありがとう。

今回は「家族の話」を書いたので、ボツにしました。

43年間の僕の半生を書きました。

凸凹な家族の話。
よかったら読んでください。

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