見出し画像

【エッセイ】私たち在外邦人は無残にも見捨てられました: 日本到着の国際線の新規予約停止要請で、私は危うく殺されるところでした

はじめに: 政府は航空会社に日本到着の国際線の新規予約停止を要請

報道によると、国土交通省は航空会社に「日本到着の国際線の新規予約停止」を要請しました。この対象には在外邦人(外国に滞在している日本人)も含まれているものの、国土交通省は「緊急避難的な予防措置だ」としています。この要請を受けて、ANAとJALは国内線の予約受付を取りやめている対応を取っているようです。

日本国内で初めて確認された「オミクロン株」感染者はワクチンを2回とも接種済みで、さらには疫学的な情報も不十分という現実に鑑みるに、水際対策措置の強化はやむを得ないでしょう。

しかし、「日本国民の一時帰国すら阻む」のは明らかに不当だし、国民を保護する国家や政府としての責任を放棄しています。また、特に私の場合、潰瘍性大腸炎の治療のため日本国内での投薬治療を要することから、危うく「殺される」ところでした。もはや「在外邦人の棄民政策」です。

一時帰国「せざるを得ない」特有の事情

私は前もってフライトを予約していたため、いまのところ幸いにして年末年始に一時帰国できる見込みです。「こんな情勢で一時帰国なんて!」と言われるかもしれません。

しかし、どんな情勢であっても、私には一時帰国せざるを得ない事情があります。持病の「潰瘍性大腸炎」です。しかし、もし手配が遅れていたら、潰瘍性大腸炎の治療に用いる免疫抑制剤を日本国内で補給できませんでした。なお、免疫抑制剤は毎日飲むため、年末で在庫が切れる見込みです。

特に、潰瘍性大腸炎の最も一般的な第一選択薬(最初に処方される治療薬)である5‐アミノサリチル酸(5-ASA)製剤に薬剤アレルギーを起こしてしまうことから、掛かりつけ医以外での診察(特に外国での治療)には多大な不安があります。

この薬を飲まないと深刻な下痢、血便や貧血といった症状に悩まされ、長期的には大腸がんに発展する可能性を高めます。だから「飲まない」選択肢は絶対にあり得ないし、定期的に一時帰国して投薬治療するほかありません。

つまり、私は一時帰国できないと、生命や健康へのリスクを高めるのです。故に、まさに「一時帰国させない」政策で「殺される」ところでした。

「自国に帰る権利」は国内法でも国際法でも認められている

それに、出入国在留管理庁は「日本人が帰国することは国民が当然に有する権利」としており、出入国管理及び難民認定法(入管法)第61条も、日本人が入国監理官から受けるのは許可ではなく、あくまで「確認」としています。

したがって、仮に持病のような事情に基づく必要性がなくとも帰国それ自体は「当然の権利」であり、本来的に阻まれてはなりません。

また、世界人権宣言 第13条2項は「すべて人は、自国その他いずれの国をも立ち去り、及び自国に帰る権利を有する」と、さらに市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約) 第12条4項は「何人も、自国に戻る権利を恣意的に奪われない」と規定しています。

「日本国民が自国である日本に帰国する」のは国内法でも国際法でも認められた「権利」です。それを、立法措置を経るならともかく、航空会社への「要請」をベースに阻むなど「法の支配」の観点からも言語道断です。しかも、金融業界やメディカル業界のように行政機関の許認可権が強い航空業界ですから、あくまで「要請」と言えども絶対的な効力を持つことでしょう。

私たち在外邦人だって「日本国民」だ

私たち在外邦人も、当然ながら日本のパスポートを持っています。日本の戸籍に登録があり、日本の国籍を有しています。

いま住んでいる場所は外国であっても間違いなく「日本国民」であり、国家や政府によって当然に尊重され、必要に応じて行政の保護を受ける権利を有しています。それに、国民の保護は国家や政府の最も本質的な責務であり、外国で立場が弱い在外邦人なら尚更です。

しかも、日本は多重国籍を禁止している数少ない国。つまり、いざとなったら在外邦人は「日本に帰る」しか選択肢がありません。だからこそ、帰国の門戸は絶対に開かれていなければならないのです。

ここまでするなら、在外邦人への支援も必要だ

なかには12月中にビザ(査証)や在留資格が失効する在外邦人もいるでしょう。このままでは「不法滞在」を余儀なくされてしまいます。領事保護が必要な場合も考えられます。

また、留学生や駐在員で、もともと12月中の本格的な(一時的ではない)帰国を予定しており、例えば外国での自宅を退去しなければならないとか、既に生活に必要な荷物(別送品)を発送してしまったケースもあり得ます。すると、日本に帰国できるフライトが手配できるようになるまで生活するホテルの宿泊費や、既に送ってしまった生活必需品の購入費だって、追加で発生します。特に、会社が費用を負担してくれる駐在員ならまだしも、留学生は必ずしも急な出費に対応できるとは限りません。

こういった邦人への保護や支援は急務だし、政府の急な判断によって発生した費用ですから、ある程度の補償や助成だって、もはや当然です。

「もっと計画的に行動しておけば良かったのに」と言われるかもしれません。しかし、そもそもワクチンの普及で感染者数も世界的に減っており、多くの人たち(政府もメディアも)が希望を口にしていた状況で、変異株でここまで大きな混乱が生じる事態を、はたして誰が事前に予想して「計画」できたでしょうか。

私のように、もしくは先述の例にあるように「帰国しなければならない」在外邦人は決して少なくないはず。定期便を予約させないなら、厳戒態勢を敷いたチャーター機や自衛隊機を飛ばすことだって視野に入れるべきです。さもなければ私のように生命や健康を害したり、取り返しの付かない損害を被ったりする在外邦人だって、出てきかねません。

おわりに: もはや国家に貢献する意欲を失いました

私はキングス・カレッジ・ロンドン 社会科学・公共政策学部の「戦争学科」に在籍して「戦争学」を専攻しています。いままでは「将来は防衛や安全保障の分野で日本の国家や社会に貢献したい」と強く思っていました。かつては僭越ながら進路として官僚を検討したし、なんなら幼少期は政治家や幹部自衛官も考えていました。

しかし、一応は「国民」なのに、こうやって政府に見捨てられてしまうと、もはや「国家」なんて、どうでも良くなってきてしまいます。「沈もうが滅びようが勝手にしてくれ」とすら言いたくなります。

自分を見捨てた国に、もはや貢献する意欲はないし、貢献しなければならない責任はありません。

※本記事には「投げ銭」を設定しております。下記のボタンから記事を購入していただくと、私に届きます。また、その下にある「サポート」から私をご支援いただけると幸甚に存じ上げます。

ここから先は

0字

¥ 500

ご支援ありがとうございます。 サポートは学業や研究のほか、様々な活動に充てたいと思います。 今後ともご期待に添えるように精進いたします。