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喪の挫折

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喪の挫折シリーズ
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2017年7月の記事一覧

れらすい

私の夫がですね。私の兄とですね。ウイマムに出かけたのですよ。 ええ。ウイマムです。熊と鹿の毛皮と、干した鮭をたくさん持って。 シサㇺのところに。私は夫といっしょに暮らしていましたよ。 兄は同じコタンに暮らしていましたよ。熊や鹿をとって。 熊は山の神さまですよ。鹿はここではたくさんいます。 夕焼が山を照らすと山肌一面を鹿が埋め尽くしていますよ。 兄と夫は何日も帰ってきません。心配しますよ。 夫と兄を待って空を見上げていると、立派な舟が飛んできますよ。 兄と夫とと

とわとわと

パセカムイがいた。コタンコㇿカムイがいた。 ヌプリコㇿカムイがいた。ヌプリパコㇿカムイがいた。 私はわたしの体の中の耳と耳の間に座っていました。 アペフチと語らいました。チセコㇿカムイと語らいました。 シュマト゚ム・チャシュチャシュ・トワトワト ニト゚ム・チャシュチャシュ・トワトワト とヌサコㇿカムイが歌っていました。 ああ、ピㇼカチカッポ。愛しいあの人へさよならの口づけ。 オノンノ! オノンノ! レプンカムイよ、イランカラㇷ゚テ。 思い出に、金の雫、降る降

たんご

クラフトワークで踊るための墓場。詩とモチーフ。 詩集を読みながら、マルとかバツとか、徴づける。 「渋谷の街」にはバツをした。とたんにその詩がゴミみたいに見える。 ゴミだから素敵だという話ではなくてつまんないし詩的な効果が 減衰しているからゴミだという話。「巨乳」に「おほちち」と ふりがながふってある俳句にはマルをした。高橋睦郎の句だ。 高橋睦郎は母子家庭で育った。ゲイだったはずだ。「父母心經」という 21句。新人作品の選者をしている詩人の詩集はバツばかりだった。

おんちょう

同姓同名の、いや、日本語に音写すると同姓同名になる、ふたりの フランス出身の女性たち。1909年に生まれたW、1927年に生まれたV。 ひとりは1940年6月13日に母親と買い物に出かけてパリを脱出した。 ひとりは1944年にアウシュヴィッツに収容された。パリを出てまず アメリカに渡って、後悔した。フランスの人々を思って。両親と 別れてロンドンに渡ってド・ゴールの自由フランス本部で働いた。 彼女は食事を拒否して1943年に死んだ。イギリスの新聞は 「異常な犠牲行

かいじょう

インティファーダに寝坊してきたような空家。旧石器時代に 出アフリカをはたした現生人類。ミトコンドリア・イブとY染色体アダム。 人称代名詞によって特徴づけられる、出アフリカ古層A型。系統的に 孤立した9の言語のうち、6言語はこの出アフリカ古層A型に属する。 西シベリアのケット語。ピレネー山脈のバスク語。サハリン先住民の ニヴフ語。朝鮮語。アイヌ語。日本語。 すべてを、理解した、僕たちは、きょう、テレビで壱岐島で50年にいちど の大雨となった、と知った。海上の交通を