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100年続くレストランを目指して vol.12

東京・港区白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ柴田秀之が日々考えていることを綴っているnoteです。2020年10月「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」からスタートし、「クレリエールの料理」を経て、連載第3弾は「クレリエールを今から100年続くレストランにする」をテーマに食材や生産者さんとクレリエールのお話をしています。前回に引き続き、今回も番外編です。
★過去の連載は文末にリンクがございます。ご一読いただけたら嬉しいです。

Vol.12 2022年を振り返り、2023年へ!

「ミシュランの三つ星を目指す!」を言葉に出して宣言したのが2020年。以来、お料理以外の様々なことにチャレンジして、いろいろな方に会って、考えていくうちに、目指したいのは「世界最高峰のレストラン」であり、ミシュランの星はその中の一要素だと気づきました。そんな2022年を振り返ります。

レストラン ラ クレリエールの2022年

今年もいろいろ試行錯誤した中で「お店」の変化として大きかったのは、「お料理のプレゼンテーション」です。分かりやすいところで言うと、コースが始まる前にその日にお出しする主な食材を一度にお見せするようにしました。乾杯のお飲み物をお出ししたら、サービススタッフが食材を乗せたトレイをお席の近くにお持ちして3~5分かけて一つずつご紹介します。

食材をテーブルでお見せすること自体は、今までもやっていました。ただ今までは、いくつか思い入れのある食材を、それを使ったお料理をお出しする前に都度お見せするという形でした。しかし今年は、僕自身が積極的に厨房から出て「動く」ことで様々な食材や生産者さんと出会った結果、ご紹介したい食材がほぼ全皿にあるような状況に・・・。でもお料理が出るたびにいちいち食材が紹介されるなんて煩わしいですし、食事の邪魔と思うお客さまもいらっしゃるでしょう。
そこで、ご紹介をまとめることにしました。タイミングも、お食事がスタートする前なら邪魔になりません。さらに、その時点でお客さまと会話する機会を作れることで、その後のコミュニケーションがスムーズになったのも、お店にとって大きなプラスでした。
ちなみに僕からサービススタッフへは食材の特長やお客さまに届けて欲しい情報を伝えるだけで、あとは全て任せています。お客さまは千差万別ですし、食材も毎日同じとは限りません。「食材のご紹介」を通して、いかにお客様にリラックスして楽しい気持ちでお食事に入っていただけるか。サービスの力を生かす場であると同時に、学び成長する場にもして欲しいと思っています。

お料理のプレゼンテーションでは、アミューズの出し方を変えたのも大きかったです。それまで4品を一皿に盛り合わせて提供していたのを止め、一品ずつに変えました。
一度に4品出すためには、どうしても作り置きが必要になります。また温かい料理と冷たい料理を同時に仕上げるには人手もかかる上に、それぞれをベストな温度帯で出すことは困難です。どうすれば4品を限りなくベストな状態でお楽しみいただけるか?いつも頭を悩ませ、様々な工夫をしてきました。美味しいアミューズを出しているという自信はある。でも、それらは本当に“ベスト”なのか?考える中で、ふと「なぜ4品を同時に出しているんだろう?」という疑問が浮かびました。

答えは「考えていなかったから」。多くのフレンチレストランで、複数のお料理を盛り合わせたアミューズを出しています。僕も、考えなしにそれに倣っていただけでした。盛り合わせ料理は見栄えが良い。でも、クレリエールがこだわるべきなのは見た目ではなく、お料理のクオリティ。「盛り合わせ」ではなく、「今できるベストなお料理」にシフトする。気づかずに自分につけていた足枷を外すことが出来ました。

柴田秀之の2022年

僕自身の一番の収穫は「“やらなくて良いこと”が分かったこと」ですね。
以前このnoteでもお話したように、僕の2022年のテーマは「移動」でした。きっかけは、尊敬するシェフからの「これからの料理人は、移動距離が大事になる。どれだけ外に出て、経験するか。ミシュランの星を目指すなら移動距離を伸ばせ。」というアドバイス。そうして自分史上、最も多く「移動」した一年になりました!
振り返って考えてみて、動かないと見えないもの、気づかないことが本当にあることを実感しています。もともと僕は興味を持ったら「もっと知りたい!」とガンガン行動するタイプです。三つ星を目指そうと具体的に動き始めたら、初めてのものに次次と出会うようになり、知らないから興味が湧き、「知りたい!」「経験したい!」と思う。思ったら、行動したくなる。加えて、行動することが三つ星に繋がると思うからモチベーションも強まる。そんなこんなで動きまくり、経験しまくった一年でした。
“やらなくて良いこと”とは、“僕が”やらなくて良いことです。三つ星を目指す上で必要かもしれないけれど、僕ができないことや僕以上の適任者がいることは、僕はやらなくて良い。というか、やらない方が良い。だって、その時間と労力を料理に使った方が、はるかに大きな価値を生み出せますから。そして、その価値を生み出すために努力することが、柴田の役割だからです。
「やらなくて良いことは、やらなくて良い」なんて考えてみれば当たり前のことなのですが、それは“やらなくて良いこと”が何かが分かっていることが大前提。だから、様々な経験を通して“やらなくて良いこと”と“やるべきこと”を心の底から実感できたことは、2022年の大きな収穫でした。

2023年へ・・・

まず、柴田に関しては、お料理により集中します!
そして、お店に関しては、メニューをあまりコロコロ変えずに2ヶ月毎の変更に固定します。

クレリエールには、シグニチャーディッシュの「ホワイトアスパラガスの三重奏」や、「桃のガスパチョ」「鮎のヴァリエーション」のように毎年お客さまが楽しみにしてくださっているお料理があります。いわゆる定番料理ですが、実は毎年必ず何かしら変えていました。料理をつねに進化させたいと思うのと同時に、お客さまを飽きさせたくないと考えていたからです。しかし、お客さまと今まで以上にコミュニケーションを取るようになって、「去年食べたものを今年も食べたい」と思っている方が思いのほか多いことが分かりました。

厨房のスタッフについても、同じことの繰り返しだとモチベーションが下がるだろうと思っていたのですが、多くの場合、1シーズンだけでは飽きるどころか本質的な習得まで至っていないのだと知りました。同じ料理を作ることはデメリットだと考えていたのに、実は成長に必要だった。気づいた時は目からうろこが落ちる思いでしたが、そういえばレストランモナリザの河野シェフもあまりメニューをコロコロ変える方ではありませんでした。当時は内心「またこれか」と思ったりしていましたが、ちゃんと理由があったんですね。
もちろん、全く変えないということではありません!食材の状態やお客さまの状況次第で臨機応変に対応しますし、より高みを目指す姿勢は今後も貫きます。そして、そういった自分の姿や行動を見せることが、チームクレリエールのさらに進化に繋がると信じています。

2023年も、チームクレリエール全員で「去年よりさらに良い」「来年が楽しみ」と言っていただけるレストランを作ってまいりますので、楽しみにしていただけたら幸いです。
2023年も、どうぞよろしくお願いいたします!

その前に・・・
残り少ない2022年も全力投球でいきます!年末までほぼ満席ですが、まだ若干お席のある日もございます。12月のクレリエールを味わいにぜひお越しください。
★2022年12月29日(木)~2023年1月5日(木)年末年始休業となります。

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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。

★過去の連載はコチラからご覧ください。

最初の連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」はコチラからどうぞ

 → 第一章 レストランのシェフになる
 → 第二章 プロの世界へ
 → 第三章 「料理長」を見据えて
 → 第四章 レストラン ラ クレリエール
 → 第五章 オーナーシェフの「仕事」
 → 第六章 ミシュラン三つ星を目指す

2つ目の連載「料理集」はコチラからどうぞ

 → 「ラ クレリエールの料理集1(第一皿~第五皿)」
 → 「ラ クレリエールの料理集1(第六皿~第十皿)」

お店の公式Facebook、youtubeチャンネルもご覧ください。


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