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ミシュラン三つ星レストランへの挑戦 vol.20

東京・白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ、柴田が日々、何を考えているかを綴ります。

第四章 レストラン ラ クレリエール

vol.1からご覧いただく場合、あるいは章ごとにご覧いただく場合はコチラからどうぞ
 → 第一章 レストランのシェフになる
 → 第二章 プロの世界へ
 → 第三章 「料理長」を見据えて

20.神様からの贈り物(前編)

初めての店づくりだったにも関わらず、物件引渡しからたった1ヶ月半で無事にオープンできたレストラン ラ クレリエール。もちろん、実現できたのは僕だけの力ではありません。先輩や後輩、業者さんを始めその道のプロの方など、多くの方に話を聞きに行き、助言やお力添えをいただき、たくさん助けていただきましたし、家族の力も大きかったです。それに加えて、今考えても不思議なくらい「何か特別な力で応援されているんじゃないか?!」と思うことが何度もありました。

モナリザがもたらしてくれた物件

そもそも物件との出会いから不思議なご縁でした。前職のレストラン モナリザでの仕事を終えた2015年12月30日時点で、独立の準備はほぼゼロ。店の物件もネットなど出来る範囲で情報収集はしていましたが、候補はおろか心当たりすらない状態でした。ところがその2日後、とても魅力的な物件情報が思いがけないところから飛び込んできたのです。
モナリザで先輩だったレストラン モノリスの石井剛シェフが教えてくれた物件は、同じくモナリザで石井シェフの先輩だった大本章功シェフのレストラン ラシェリールでした。お店を移転するので後に入る人を探していると言うのです。

大本シェフとは、モナリザで一緒に働いた時期があり、大本シェフの料理人としての姿勢や人となりは知っていました。ラシェリールにも何度か食事に行ったことがあり、立地も店内の様子もすぐに頭に浮かびました。店の状態や条件など確認する必要はありましたが、とりあえず候補物件としては申し分ないと直感しました。何より、信頼している先輩からの情報というのが心強い!
さっそく翌日、大本シェフに電話してお店に伺いました。

幸運の最後の一押し

ひととおり見せていただいた店内は、職人気質な上にキレイ好きな大本シェフらしく、隅々まで手入れが行き届いていました。条件面でも、特に厳しいものや難しいものは無し。金額についてもモナリザの後輩ということで配慮してくださいました。おまけに「港区」「閑静な環境」「角地」「1階」といった、僕の中で優先順位が高かった条件を全てクリア。まさに、この上ない好物件です。

でも僕はその場では決断できませんでした。
物件探しすら経験していないため、判断基準が自分の中に無く「本当にこのまま進んで良いのか?」とすごく不安になってしまったのです。ネットで見聞きした物件探しの失敗談が頭を過り、最後の一歩が踏み出せません。一週間後には情報を一般公開する予定だということで、必ず一週間以内に結論を出すと約束して、その日は帰りました。

いくら考えても最後の決断が下せない。僕は、モナリザの河野シェフに相談することにしました。
「すぐにやれ」
即答でした。そして、この一言で僕のモヤモヤも吹っ切れたのです。
いま考えると、僕は決断できずに迷っていたのではなく、一歩を踏み出すためにドンと背中を押してくれる“最後の一押し”を求めていたのかもしれません。僕の師匠であると同時に、売り主の大本シェフと情報を仲介してくれた石井シェフの師匠であり、3人のことをよく知っている。そして出店について様々な経験と知識も持っている河野シェフの最後の一押しは、何よりも強力でした。
モナリザの縁が結んでくれた物件との出会いも、最後の一押しをくれた河野シェフの存在も、僕にとって大きな幸運なんだと改めて感じ、感謝しました。

建物だけじゃなかった居抜き

物件が居抜きだったことは前回お話しましたが、なんと大本シェフは、家具などのインテリアや食器、鍋なども全て置いていってくれたのです!シャンパーニュ以外のワインも残していってくれました。
もともとラシェリールはクレリエールとイメージが似ていて、僕自身「このままの雰囲気でやりたい!」と思っていたほど。そのまま使える物も多く、時間的にもコスト的にもとても助かりました。方向性の違う前店からの居抜きでコスト高になるケースが少なくないと聞く中、本当にラッキーだったと思います。
ちなみに、テーブルとイスは、オープンからしばらくはラシェリールの物をそのまま使っていました。カトラリーは今でも使っています。クリストフルのマルメゾンシリーズで1セット20万円くらいするものなので、置いていかれた時にはビックリしました。
お皿は、今でも使っているものが数種類あります。そのお皿を見ると、いろいろと忘れてはいけないことことを心に留められるので、そういう意味でも大切な品です。

さて、僕は今でこそ様々な試みや発信をしていますが、当時の僕は料理しか興味がありませんでした。店づくりも厨房以外は全く分かりません。こんなレストランにしたいというイメージはあっても、そのためにインテリアをどうするのか、どんなテーブルクロスが良いのか、見当もつかない。
思い描いたクレリエールを実現させた力の一つに、陰のディレクターの存在がありました。

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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。

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