見出し画像

【WBC】メキシコ代表紹介【一攫千金】

 今回はWBC企画の代表記事に立候補させていただきまして、僭越ながらメキシコ代表について紹介させていただきます。よろしくお願いいいたします。

※いきなりですが、メキシコ代表についてだけ知りたい方は次の「執筆にあたって」を飛ばしてその次から読んでいただくことをおすすめします。



執筆にあたって



本記事を執筆するに当たって私の心持ちですが、

WBCを制するチーム、それは……


ドミニカでもアメリカでも、日本でもない。
そう、

OpenClipart-VectorsによるPixabayからの画像

メキシコだッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!

ぐらいの勢いでやっていこうと思います。
改めてよろしくお願いいたします。


さて、先日ファン合同note担当者による優勝予想が公開されました。

 こちらを確認したところ、優勝予想でダントツの人気を獲得しているのがアメリカとドミニカ共和国の2強。次いで大きく離された3番人気が日本という戦前の予想でした。それ以降は4番人気のプエルトリコが2票、メキシコを含めそれ以外の国は票が入っていても1票と、かなり大きく差が開いているように思われます。

 以前から申し上げている通り私はメキシコが優勝すると信じて疑いませんし、この記事でも優勝すると考える根拠を皆さんにお示しするつもりです。

 しかし、前述の予想やその他媒体による下馬評を見た方は、「お前しか優勝予想してないじゃねえか」「また競馬カスが変なこと言ってる」「競馬やって負けてる暇があるなら真面目に野球見ろ」とおっしゃるのかもしれません。

 ただ、冷静に考えてみてください皆さん。物事は見る方向や角度を変えることで、大きくちがって見えるもの。今回の優勝予想の投票数もそうかもしれません。まず、以下は今回の優勝予想における国別投票数です。

MLBファン合同note担当者による優勝予想の国別投票数

アメリカ 20票
ドミニカ 19票
日本   7票
プエルトリコ 2票
ベネズエラ 1票
キューバ 1票
メキシコ 1票
オランダ 1票

有効投票数:52
https://note.com/mlbnote30/n/n130b9b807e3f をもとに筆者作成

これを以下の計算式に沿ってオッズに直してみると以下のようになります。

オッズ = 1/(支持率)  ※支持率 = 各国への投票数/全体の投票数

MLBファン合同note担当者による優勝予想のオッズ

アメリカ 2.6倍
ドミニカ 2.7倍
日本   7.4倍
プエルトリコ 26.0倍
ベネズエラ、オランダ、メキシコ、キューバ 52.0倍
以下、投票なし

※当然ながら控除率は0として計算しています。

 こう見るといかがでしょうか。

そう、わずか52倍です。人気でいえばせいぜい5番人気タイ。この程度であればせいぜい中穴程度。全然単勝は買えるレベルです(※個人の感想です)。

 競馬でたとえてみましょう。たとえば1997年の東京優駿(日本ダービー)で見事優勝し、「これはもうフロックでもなんでもない!二冠達成!!」の実況で知られるサニーブライアン。本馬の皐月賞における優勝単勝支持率はなんと51.8倍。ほぼ現在のメキシコ代表と同じでした。

 しかも競馬は控除率の計算が必要ですので、サニーブライアンの支持率はもっと低かったでしょう。

また、上には上がいます。2000年のスプリンターズステークス。江田照男ジョッキー騎乗のダイタクヤマトがアグネスワールド、ブラックホークなどの強豪を押さえて優勝しましたが、このときの単勝支持率は257.5倍。こう見るとメキシコの支持率の低さなんて大したことはありません。

 これらからもわかる通り、「奇跡は意外とおこるもの」なのです。その奇跡とやらが今回メキシコ代表に起こったとて、何の不思議でもありません。さあ、奇跡、起こしていきましょう。


どんなチームか?


 本大会のメキシコ代表は一言で言えば「堅実」に尽きるでしょう。投打ともに傑出した戦力を揃えているわけではありませんし、大谷翔平(日本)やフレディ・フリーマン(カナダ)、かつてのヤディアー・モリーナ(プエルトリコ)のような、国を象徴するタレントが出場するわけでもありません。ただ、かといって優勝候補と目されるドミニカ共和国やアメリカ、日本などの超強豪と比較して、大きく見劣りがするポジションはない。それがメキシコの強みです。

 このようなチーム構成が出来る要因に、国家としてのバックグラウンドがあるでしょう。アメリカ合衆国のすぐ下に位置するメキシコは、古くからアメリカとの交流が盛んな国。MLBに多くの選手を供給するだけでなく、自国にもメキシカンリーグ(2A~3A相当)があることから、一定レベル以上の選手を安定して常時動員することが可能です。この点はポジションによってRk/A級といったマイナー下層所属選手を選出せざるを得ない中堅国と一線を画する部分でしょう。

 この点を考慮すると、少なくとも同プールのコロンビア・カナダ・イギリスよりも動員できる最低レベルという面(≠純粋な戦力)では優位に立てていると言えます。一方で、MLBの国であるアメリカ代表と比べてしまうとどうしても層・質ともに多少見劣りしてしまいますが。総合するとチームのレベルは中堅以上、最上位国以下というのがメキシコの、ある程度客観的な評価だと考えます。ただ、アメリカやドミニカ共和国といった最上位国に対しても十分番狂せを起こせる程度の戦力は備えているといっていいでしょう。



どう戦うか?


 さて、上記の前提を踏まえた上であらためてメキシコの大会における戦略を考えていきましょう。今大会のメキシコはアメリカ(明白な格上)、コロンビア、カナダ、イギリス(やや格下)とと同じプールC。同じプールの上位2チームが決勝トーナメントに進出可能です。また、決勝トーナメントで対戦する相手はプールD(ドミニカ共和国、ベネズエラ、ニカラグア、プエルトリコ、イスラエル)の勝者。1位、2位どちらもメキシコと同格、あるいはそれ以上となることが濃厚です。これを考慮すると、1位通過を狙う必要性は薄いと見ていいように思います。

 よってメキシコのリーグ戦で狙いたいチーム戦略は、

アメリカ以外には確実に勝ちに行く!

に尽きます。これらを頭に入れた上でより細かい部分を考えていきましょう。

 上記の戦略に沿って戦う上で、最も考えるべきは投手の起用です。WBCにおける投手起用に関するルールをあらためて確認しておきましょう。

1試合につき1次ラウンドは65球、準々決勝は80球、準決勝以降は95球を超えて投げることは出来ない。打席中に投球制限に達した場合は、その打席完了まで投球できる。敬遠の球数は投球数に含まない。

1試合で50球以上投げた場合、中4日を空けなければならない。30球以上、または2試合連続で投げた場合は中1日を空けなければならない。

https://www.nikkansports.com/baseball/samurai/wbc2023/rule/

また、メキシコチームの投手陣は以下の通りです。

名前のカタカナ表記はWBC日本公式より引用、WARはFangraphs、その他成績はBaseball Reference/Fangraphsを参照


 上の表で赤字にした投手が主に先発を務めることがすでに報道されています。

 それ以外の投手でリリーフおよび第二先発を担当すると思われますが、個人的には第二先発の起用が大きな鍵を握ると考えています。

 というのも、メキシコ投手陣は先発がある程度質の高い投手を集めている一方、ガジェゴス以外のリリーフ陣は(チーム全体のレベルを考慮すると)やや見劣りします。MLBである程度経験があるリリーフ専任投手は、ルイス・セッサジョジョ・ロメロの2人しかいません。それ以外の投手もAA-AAAレベルの実力はありますから中堅国からすれば贅沢な悩みではありますが、僅差の接戦を任せるには少し不安が残るところです。


また、先発は最大65球しか投げられないことを考えると、どうしても先発からガジェゴスに繋ぐ間に大きな空白イニングが生まれてしまいます。この穴を埋めるのが上記の表で第二先発としたハビアー・アサドアドリアン・マルティネスウィルメル・リオスになるでしょう。

 彼らのうちアサドとマルティネス、そしてロングリリーフができるセッサのメジャーリーガー勢第二先発を「どの試合で使うか?」(あるいは使わないか)というのが、メキシコの1次ラウンド突破を狙う上での最大のポイントになるといっても過言ではないように思います。

 具体的には、勝ちが狙える状況ではアサド、マルティネス、セッサを投入して7回ぐらいまで消化→ガジェゴス、厳しい状況(おそらくアメリカ戦)ではそれ以外の投手で試合を終わらせる、というプランです。こうすれば少なくとも救援不足で終盤に追いつかれ、痛い逆転を喫するパターンは比較的少なくなるはずです。

 準決勝以降はどちらにせよ1試合1試合が勝負になりますから先発含め総動員になるでしょうが、1次ラウンドを確実に勝ち抜く上で、少しでも確率の高い戦法をとってほしい、というのがこの案の意図ではあります。

 もっともメキシコ首脳陣がどう考えているかは不明ですが。現状ナンバーワン先発と見られるサンドバルをアメリカ戦に持ってきているあたり、全試合勝ちに行く方針なのかもしれません。こればかりは開幕してからのお楽しみになるでしょう。



注目選手


 実力十分の主力野手陣を紹介しようかと思ったのですが、知名度の高い彼らはもうある程度情報が回っている気がしますので、ここでは敢えてやや知名度は劣る(けど重要な)選手を2人ピックアップしたいと思います。

 1人は第二先発として重要な場面を担うであろうアドリアン・マルティネス、もう1人は突然正捕手の役割が回ってきたオースティン・バーンズです。

 


アドリアン・マルティネス



 前項で提示した通り、メキシコ代表の勝ち上がりにおいて重要な役割を持つのが第二先発。WBCのレギュレーションを考えると50球以内の投球数で先発から終盤のリリーフにつなぐというのが基本的な動きになると思います。その役割を果たす、重要なピースになりうる存在がマルティネスです。

 ただ、マルティネスの話をする前に一つ大前提となるキーワードを確認しておきましょう。「周回効果」です。

 周回効果とは、簡単にいうと投手のスタミナや慣れなどの影響で1試合の中で同じ相手と対戦すればするほど打者の方が有利になっていくという考え方のこと。この問題を解決するために考え出されたのがいわゆる「オープナー」や「タンデム」と呼ばれる投手起用戦術でした。

 マルティネスもこの周回効果からは逃れられていないようで、イニング別の成績を見ると以下の通り。

 ちなみにあまり球速は落ちていませんので、もしかするとスタミナよりもシンカー、スライダー、チェンジアップしかない手札の少なさが響いているのかもしれません。なお、1イニング目によく打たれているように見えるのは、打順の周り的に強打者に当たることが影響していると思われます。

 ただ、裏を返せば一回り目であればMLBの一線級であってもある程度抑えられるというのは第二先発をする上で朗報です。

 また、マルティネスが短いイニングでの登板に向いていると考えられるポイントがもう一つ。それは強力なウイニングショット・チェンジアップの存在です。

 えげつない落差が特徴のマルティネスのチェンジアップはもはやフォークボールかと見間違うほどの変化量。Baseball Savantによると平均的なチェンジアップより20cm以上落ちるようで、落差の大きさはMLB1位のようです。現状空振り率やwOBAといった結果には表れていませんが、短いイニングであればかなりの威力を発揮するのかもしれません。

 また、マルティネスのWBCに対する思いの強さも注目すべき点です。

 以下の記事によると、マルティネスはテレビで子供の頃からWBCを見ており、メキシコ代表としてプレーすることが大きな夢だったとのこと。選出された時からフォームの調整に取り組み、入念な準備をしていたようで、スプリングトレーニングでは4イニングを投げて無失点。アスレチックスのスコット・エマーソン投手コーチからも高評価を得ていたようです。

 WBCはシーズン前の開催ですから、MLBやNPB、KBOなどの選手は本来のシーズンよりも早く体を作り上げなければいけません。これは当然ながら選手にとってかなり大きな負担ですし、大きな対価が得られるわけでもありません。必然的に、国を背負って戦うという名誉に価値を見出してくれるかどうかというのは重要なファクターになります。

 この点でも、WBC出場を一つの目標としてプロキャリアを歩んできたマルティネスは、メキシコ代表にとって大きな存在と言えるかもしれません。夢見た舞台で、マルティネスがどのような活躍を見せるかにも注目です。

 

オースティン・バーンズ


 WBC開幕前の2月末、メキシコ代表優勝予想界隈に激震が走りました。

 不動の正捕手候補とされていたアレハンドロ・カーク(Alejandro Kirk、ブルージェイズ)が、家庭とチームの事情を考慮して出場を取りやめることが報道されたのです。

↑カークの出場を懸念する記事

 代役としてはメキシカンリーグのキンタナロー・タイガースでプレーするアレクシス・ウィルソンが選ばれています。

 カークは現在24歳ながらMLBで昨季139試合に出場。そのずんぐりむっくりとした体格に似合わぬ繊細な選球眼と正確なコンタクト技術が最大の売りで、470打席で喫した三振58に対して選んだ四球はなんと63。三振よりも四球が多いという、単に捕手としてだけではなく打者全体で見ても非常に優秀な打撃技術を持っています。

 また以前は決して高い評価ではなかった守備面でも昨季はフレーミング・フィールディングの両面でMLB上位の得点貢献を記録。盗塁阻止については平均を下回ったものの、全体としては守備で大きな進歩を遂げました。

 これらの投打両面にわたる活躍もあって昨季カークが記録したfWARは3.8。MLBの捕手としては7位、今回WBCに出場する予定の選手の中ではJ.T.リアルミュート(fWAR6.5/アメリカ)、ウィル・スミス(fWAR3.9)に次ぐ3位の貢献を記録していました。つまり、捕手で得られるはずだった大きなアドバンテージをメキシコは失ったことになります。

 ただ、これで完全に苦しくなったかと言われるとそうではありません。なぜか?メキシコにはこの男がいるからです。

 さて、前置きが長くなりましたが、今回のもう1人のピックアッププレイヤーは名門ドジャースが誇る守備の名手、オースティン・バーンズです。

 バーンズは2011年にマーリンズから指名を受け入団後、トレードで2014年にドジャースへ移籍しました。その後2015年にMLBに初昇格を果たすと、安定した守備力と二塁も守れるユーティリティ性も買われ2番手捕手に定着。2017年には突如打撃が爆発し、fWAR3.6を叩き出す大活躍を見せましたが、それ以外の年も堅実に1前後のWARを記録する、堅実なバイプレーヤーとして活躍しています。

 特に守備面では長年にわたって平均以上の貢献を残しています。MLBに定着した2017年以降は毎年平均を上回るフレーミングを記録しているほか、先日追加されたブロッキング評価でも平均より多くのボールを止めていると評価されています。

 また、現在33歳のバーンズですが、打撃面でも良化の兆しが見えています。特にめざましいのが選球眼(アプローチ)の面です。

 上の表を見ると、バーンズのK%(三振/打席)とBB%(四球/打席)は2022年になって大幅に良化し、大ブレークした2017年に近づいていることがわかります。この良化の要因はどこにあったのでしょうか?

 一つの有力な可能性として考えられるのが、ストライク/ボールの見極めです。少し小さいですが、以下の画像をご覧ください。


https://baseballsavant.mlb.com/visuals/swing-take?playerId=605131&year=2021
https://baseballsavant.mlb.com/visuals/swing-take?playerId=605131&year=2022

 これは、投球位置を「アタックゾーン」と呼ばれる四つの区画に区切り、それぞれの区画で打者がスイングするか、見送るかによってどの程度の得点を増やしたか(あるいは減らしたか)を示すものです。そして、上の図の中で大きく変化したのは「Shadow」と呼ばれる、ストライクになるかどうかが際どい区画です。2021年は−12と大きくマイナスになっていた得点貢献が、2022年には±0とほぼイーブンになっています。

詳しい解説は↓

 バーンズは際どいコースの見極めに2021年まで苦戦していたのが、昨季は平均程度には正確に見極められるようになった結果、三振を減らし、四球を増やすことができたと見ることができそうです。

 ちなみにこの傾向は、バーンズが当たりに当たっていた2017年とほぼ同じです。少なくともボールの見極めについては、バーンズは絶好調時の能力を取り戻していると考えてもいいのかもしれません。

 もしバーンズが昨季同様見極めの面で高い能力を発揮すれば、カークの穴を完全に埋めるとは言わないまでも、ある程度カバーすることができるでしょう。メキシコ代表の試合を見るときには、バーンズの選球眼にも注目です。


まとめ

 メキシコが優勝します。以上です。ぜひ皆さんもドンタコスとアボカドを山ほど勝って祝杯の準備をしておいてください。よろしくお願いします。


データ参照


トップ画像引用元

謝辞

当記事のアドリアン・マルティネスの項においてはもー さん(@Mo10_11)から情報をいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。


この記事が参加している募集

野球が好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?