2019-4-25_海__2_

水の中の僕

水の中にいると、僕は自分が人であることを忘れます。
人だということを意識しないのではなく、忘れてしまうのです。
水面から顔を出したとたん、夢から覚めた時のように、どちらが現実かわからなくなります。

水の中の僕が、あまりに幸せだから、余計そう感じるのかもしれません。
潜っているのは数秒なのに、ずっと前から水の中に住んでいたかのような錯覚にとらわれます。

音もなく言葉もない。
細胞が溶け出し、身体という概念さえなくなるのです。心だけが僕であることを実証しています。
身体というおもりが無くなったとたん、僕の心は羽が生えたように、大空へ羽ばたきます。

酸素を欲しがるのは、いつも心ではなく身体の方なのです。僕はすぐに水面から顔を出さなければいけません。

地面に足をつけると、ようやく自分が人であることを自覚します。

夢は夢、眠りの中で生きられないように、水の中で生き続けることのできない僕は、深く呼吸をしながら、自分の生活へと帰っていくのです。


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