『まほステ』の音楽の効果とそのルーツについて

【はじめに】

私はミュージカルが好きで、グランドミュージカル、2.5次元などジャンルを問わずに観劇するのが趣味だ。舞台『魔法使いの約束』(以下『まほステ』)シリーズも好きで、特にこのシリーズは音楽作品としてのクオリティが高いと感じている。曲自体もバラエティ豊かで、劇中何度も同じフレーズが登場するリプライズの使い方の巧みさも面白い。
しかし、上述のリプライズなど、ミュージカルの特徴だとなんとなく把握しているものの正体とは何か、そういった特徴はどこから生まれたものなのかといった知識を私は実際のところあやふやにしか知らない。そこで、『まほステ』に含まれる特徴を分析しながら、そのルーツがどこにあるのかを調べたり考察したりしてみた自由研究が以下となる。

【1. 舞台『魔法使いの約束』に繋がる舞台芸術のルーツ】

まずは『まほステ』シリーズ全体に渡る特徴とは何か、そのルーツはどこにあるのかを概要として探っていく。

■音楽劇としての要素の強さ
ミュージカルという芸術は、元々欧米各所で生まれた多数の先行芸能から派出する形で生まれており、大きく分けると次の二つがルーツとなる。
・音楽劇:一貫したストーリーを重視し、音楽を乗せた演劇(ロンドンのバラッド・オペラ、フランスのオペレッタ)
・ショー:独立した場面の面白さを優先する(アメリカのミンストレル・ショー、バーレスク、イギリスのバラエティ、ヴォードヴィル、フランスのレヴューなど)
こういった分裂を一つに統合していき、1940年に歌・踊り・演劇を一体化した「統合ミュージカル」が生まれていくが、それ以降もどちらかの性質が強い作品は生まれている。(小山内 2016)
その点から考えると『まほステ』シリーズは音楽劇としての要素が強く、元々のルーツを上記の先行芸能に見ることができる。

■繰り返されるリプライズ
『まほステ』には、同じフレーズを作中で繰り返すことによって人物を強調したり、対比を生み出す「リプライズ」と呼ばれる手法が多用されている。
こういった特徴をなんとなく「ミュージカルに共通する特徴」だと捉えていたが、これはブロードウェイ・ミュージカルの特徴というよりも、主に1980年代のロンドン・ミュージカル(『レ・ミゼラブル』『オペラ座の怪人』『ジーザス・クライスト=スーパースター』)に特に見られる傾向だ。(小山内 2016)
しかし上記のミュージカルと少し異なるのは、本作が三部作であり、一つの公演内のみならず他の公演で過去の公演のリプライズが使用されるという点だ。これは公演がシリーズものとして展開する2.5次元舞台だからこそ使用できる方法となっており、三部作を超えて祝祭シリーズにおいてもキャラクターや所属の強調として前作までの曲のリプライズが使用されている。

■ミュージカル的要素と日本風のアニメーション的演出の統合
『まほステ』の大きな特徴となっているのが、テーマ曲<始まりの合図>の存在感だ。
この曲は冒頭の曲や最後の曲として第1~3章に渡って使用されており、連続物のアニメ作品におけるオープニングテーマ・エンディングテーマのような役割を果たしている。
特にオープニングとして使用される際、間奏で「今回起こる出来事のあらすじ」を繰り広げる場面ではオープニングテーマとしての役割を思わせる。このように固定のオープニングテーマをシリーズのテーマ曲として使用する手法はしばしば2.5次元舞台に見られる手法で、やはりアニメ文化と親和性が高く親しみがある使い方なのではないだろうか。
テーマ曲の存在以外にも、場面に応じたBGMが流れる、各キャラクターに依ったテーマのインスト曲がBGMとして使用される音響演出も映像的・アニメーション的な趣がある。
一方で、このテーマ曲の役割はオープニング・エンディングテーマの役割に留まらない。このテーマ曲のフレーズ自体が作中で何度もリプライズされ、先述のロンドン・ミュージカル的な雰囲気を同時に生み出している。
このように全くルーツの違う芸術同士の特徴を組み合わせて一つの作品としての方向ができているのが面白い。

【2. 第1章 ~『繰り返される』モチーフと広がる世界~】

本作は第1章~第3章で一つの大きなテーマを持つ三部作だが、その一つずつを切り取って見ても一つの音楽作品としのまとまり・特徴を見ることができる。ここからは1章ずつの中にある特徴を分析・考察していく。まずは舞台『魔法使いの約束』第1章の特徴を考察する。

■テーマ曲の存在感とモチーフのリプライズ
先述の通り、『まほステ』シリーズはテーマ曲<始まりの合図>の存在感が非常に強い舞台となっているが、第1章は物語の軸を表すためにこの曲のフレーズがリプライズされており、その存在感が最も発揮されている作品だろう。

第1章ではこの曲の「手にした力で何ができる」(引用1)というフレーズが、作品を通したテーマを強調するために何度も使用され、その度にこの歌詞は意味を変える。<始まりの合図>で使用されるこのフレーズはテーマの提示だが、<傷痕~悪夢>でファウストによって歌われると意味を変え、「魔法を使えたからといって何ができるというんだ」という反語のような意味合いを帯びる。そして終盤、<一筋の光>の中で賢者によって、この曲でそのアンサーの部分となる「自分を信じることは自分にしかできないから」(引用1)が使用される。そして最後に<続くための終章>ではオズによりこのフレーズが使用され、次回への繋がりを示している。エンディングテーマとして同曲のワンコーラスが再度リプライズされると、この作品を通して提示してきたテーマは更に強調される。
このように作品を通して同じフレーズを繰り返し、状況が同じ言葉に含む意味を変えながら作品を通したテーマを強調する方法は、前述のロンドン・ミュージカル内で見られるものと似ている。(例えば『レ・ミゼラブル』では”Who am I?”(引用2)というフレーズが何度も使用され、主人公ジャン・バルジャンはストーリーを通して社会の中での役割を変えながら自分の存在を問い続ける。)

この曲は物語を貫く軸としての役割を担いながら、曲単体としても面白い。この曲は変ロ短調で始まるが、黒鍵の多いこの調は本来「陰鬱、恐ろしい、退廃的」といったイメージを持っている。確かにAメロは未知の世界の恐ろしさ、得体の知れなさを感じるような雰囲気がある。しかし、その最初のフレーズ「初めまして賢者様」(引用1)の音は冒頭でムルが歌う<出会いは満月の夜>の「風が強くて猫が騒ぐ」(引用3)と類似しており、ただ近寄りがたい恐ろしいものではなく、新しい世界との出会いを感じさせる。
Bメロでは打って変わってリズムを刻む音が大きく入るようになり、転調して音程がどんどん上がっていく。どこか高揚するようなフレーズを挟んで、象徴的なサビへと突入する。転調を繰り返すBメロを経て辿り着いたサビはAメロと同じ変ロ短調に戻っているのだが、ここでもう「陰鬱」「恐ろしい」というよりも期待や高揚を感じさせるような雰囲気に変化している。賢者がこの曲に入る前のセリフにある「恐怖と高揚感」を象徴するような曲だ。

■多用されるリプライズ
テーマ曲の他にも、1章の中ではいくつかのリプライズが展開される。
その一つがヴィンセントの歌う<潜む声><潜む声rep>だ。このリプライズの効果は先述のテーマの強調とは少し異なり、ここでは対比を生み出すために使用されている。最初に歌う時とリプライズでヴィンセントが歌う内容は変わらないが、リプライズでは戦う魔法使い達が背景に映し出されることにより、国民たちの「潜む声」に応えようと歌うヴィンセントが、そしてヴィンセントは今作における「人間」の象徴であるために、この世界に住む人間たちが魔法使い達の「嘆く声」「怯える声」は聞こえないという状況が示唆される。(引用4)

もう一つ特徴的なのがアーサーの歌う<深い溝>のメロディをモチーフとしたリプライズだ。<一筋の光>で繰り返されるサビのメロディは本作品における希望の象徴としての役割を果たしており、1章内のみならず2章、3章を貫く縦軸のテーマを表すことになる。第2章,第3章での使用方法については後述する。

■繰り返す音と世界が広がる音
先述の通りアーサーの<深い溝><一筋の光>のモチーフは希望の象徴として使用されるが、第1章から第3章にかけて希望の象徴として使われるこの曲は、伸びやかに上へ上へと伸びていく音で構成されている。同じように上へ伸びる音程で印象的なものは、第2章からルチルのテーマとしての役割を果たす<祝福の言葉 祝福の花>のフレーズだ。

一方、『まほステ』には対比するように、短いスパンで高くなり低くなるのを繰り返す、巡るような音程が存在する。代表例が<傷痕~悪夢>の冒頭で使用されるフレーズだ。ここでは割愛するが、このように「巡る」音程は主に年上の魔法使い達の曲に使用されることが多く、主に過去、因縁、苦悩とったものを表すときに使用される。

この対比は現在上演されている祝祭シリーズにおいても見られる。家無し魔女が自分には幸せなんてと歌うシーンで使用されるフレーズは<傷痕~悪夢>の上記フレーズと共通しており、ラスティカとクロエに促されて歌を歌うシーンには<深い溝>を起点に使用される希望のフレーズが含まれている。

【3. 第2章 ~華やかなキャラクター紹介と秘密を打ち明けるための音楽~】

第2章で使用される音楽は、種類も役割も第1章とは異なる特徴を持つものが多い。一つの共通したテーマを繰り返して強調し物語の軸を表現する第1章とは打って変わって、第2章ではキャラクターの強調、楽曲単体の豊かさに特徴が見られる。

■秘密を教えてくれる音楽
第2章で登場する楽曲はバラエティ豊かで種類が多い。先述のルチルのテーマとして使用されるようになる<祝福の言葉 祝福の花>やフィガロが賢者を篭絡するキャッチ―なナンバー<Shall we dance?>など、それぞれのキャラクターを印象づけるものが多い。第2章より登場するキャラクターが多く人数が倍ほどになるため、それぞれの魔法使いがどんな人物なのか印象付ける必要があるためだろう。第1章が『レ・ミゼラブル』なら、魔法使い達が歌によって代わる代わる自己紹介をしていくような本作は『キャッツ』のような、ショー要素を感じる雰囲気がある。

また、第2章のオープニングテーマ<始まりの合図 -第2章Ver.>では第1章で作品のテーマを示していた箇所の歌詞が変わっており、第2章のテーマはしがらみ、因縁であることが示されている。引き続き魔法使いと人間のしがらみをストーリーに含みながら、魔法使い同士の因縁が描かれる第2章では、<絡み合う因縁>のようにそれぞれの魔法使い達が抱える事情や関係性を表す曲がある。
以前イギリスの舞台演出家ジョン・ケアード氏が『世界一受けたい授業』に出演した際、『千と千尋の神隠し』をミュージカル仕立てではなくストレートプレイにしたことについて、ミュージカルの曲は観客に向かって秘密を打ち明けるためにあるのであり、この作品には観客に打ち明ける秘密が無いからストレートプレイにしたのだと語っていた。そのセオリーのように、第2章では魔法使い達が胸の内に秘めた事情を観客にだけ打ち明ける。<絡み合う因縁>の中で歌う称号ペアの歌詞は、しばしば一緒に歌っている相手にその心情を伝えているのではなく、観客にのみ秘めた気持ちを打ち明けている。

■楽曲単体の物語性
<絡み合う因縁>のように、第2章では曲自体も長く、その中で転調を繰り返す一曲の中での物語性が強い曲がいくつか存在する。<絡み合う因縁>の他で挙げられるのが<英雄のパレード><集いし者たち>だ。

<絡み合う因縁>は先述の通り、魔法使い達が各々の事情を語っていく曲だ。これは一つのまとまった曲というよりもいくつもの曲が一つの長い楽曲として成立しているもので、メロディは称号ごとに異なったものになり、第1章で登場したキャラクターについてはそのキャラクターを強調するように第1章で使用された曲のリプライズが行われる。

<英雄のパレード>は<絡み合う因縁>のような短い曲の集合体ではなく一つの華やかなパレード曲となっているが、<絡み合う因縁>と同様にキャラクターが変わるごとに転調し、キャラクターを強調するように展開される。第2章から登場したキャラクターが多く歌うこの曲は、第2章を通して登場する豊かな楽曲のように魔法使いのキャラクターを印象付ける役割を果たしている。本当にパレードを目の前で見ているような楽しい曲だ。

<集いし者たち>は上記2つと同様に転調を繰り返す長い曲だが、キャラクターの強調という役割をもつ2曲とは役割が異なる。これは<始まりの合図>のようにここから第3章に至るまでテーマの提示の役割を果たす、もう一つのテーマソングとして使用される曲となる。イ長調のメロディで始まるこの曲は非常に明るく開放的なメロディで始まり、賢者のソロで変ト長調へ転調し、<始まりの合図>と対応するように上へ上へと昇るようなインストを挟み、変化しているようでイ長調に戻ってくる。そこで終わらず、更にロ短調に転調して雰囲気を変える。<始まりの合図>のフレーズがテーマとして強調されるように、この箇所のフレーズは第3章の中でもリプライズして使用される。そして最後にはそのまま同主調のロ長調になり曲が終わる。一つの曲の中で物語を感じさせながら、<始まりの合図>と対応するような構成・使用方法をされている。

■ところで急に墓地ミュの話をするけれど
これは第2章の特徴の話をしたいというよりは完全に私の趣味だ(素直)
通称墓地ミュこと<銀色の三日月 真夜中の墓地>には他の曲と少し違う特徴がある。他の曲の中ではセリフと歌は完全に融合せず、「ここから歌が入る」といったように芝居と歌の間に一つスイッチがあるが、この曲の中では会話のリズムが歌と融合してシームレスに展開するような箇所がある。以下同曲より抜粋。

※【】箇所が歌唱
ネロ「よく言うな 【真夜中の墓地二人だけじゃ危険 そう言いだしたのはアンタだろ】 めんどくさがり屋の割には真面目だな」
ファウスト「【同行しているお前もな】」
(引用5)

舞台『魔法使いの約束』第2章「銀色の三日月 真夜中の墓地」より 2021

ミュージカルを英語圏から日本へ輸入する際、障壁となるのは文化的な価値観の差異のみではない。一音にいくつもの文字を乗せて会話のリズムのまま音楽に移行できる英語と違い、一音に一つの文字しか乗せられない日本語では間延びしてしまい歌と芝居が分離するという点がある。そのため英米で発展した、歌と芝居がシームレスに一体化している「統合ミュージカル」を日本で実現することが難しく、日本で制作されたミュージカルでは歌と芝居は分離する傾向にある。(日々野2017 8-39頁)しかしこの箇所は会話をする際のリズムや音の高低をメロディに用い、歌と芝居を融合させたような曲になっている。

【4. 第3章 ~章を跨いだリプライズと、オズ・アーザーの「希望」による帰結~】

第3章は、本編メインストーリー1部の簡潔に向かう、転と結の章となる。第1章では一つの通った軸を展開し、第2章で人数の増加に伴い豊かに増えた楽曲は、第3章でリプライズされることで一つの結末へ収束していく。

■章を跨いだリプライズの使用
第2章においても使用されていた章を跨いでのリプライズは、第3章においてはより多く印象的に使用される。その効果は様々だが、第3章では人物の強調というより主に状況の対比や変化、何らかの概念の象徴として使用されている。

希望の象徴と苦悩の象徴は第3章でも使用される。ルチルの<心の中の道>は厳しい状況の中での小さな希望を示し、ファウストの<夢の迷宮>の中で<傷痕―悪夢>の逡巡するメロディがインストとして使用されている。アーサーのメロディも使用されるが、オズ・アーサーのリプライズについては最後に記載する。

<始まりの合図>のリプライズは特に秀逸だ。変ロ短調のどこか「陰鬱で恐ろしい」雰囲気を持つこの曲のフレーズは、呪いに憑りつかれたニコラスによって<不穏の始まり>の中で使用され、<吹き荒れる風>では初登場のノーヴァによって歌われることで、今度こそ得体の知れない恐ろしさを強調する音楽となる。第3章冒頭では賢者の魔法使いが賢者に初めましてをする必要がないためこの曲は使用されないが、満を持して「初めまして」のノーヴァによってこの曲が歌われる。三部作の終盤に起こる大きな波乱の幕開けが一番最初に使用されるメインテーマにより始まるという構成も綺麗だ。

テーマの強調という意味合いで使用されるのはフィガロの<忘れないで君の名前>だ。第2章オズの<忘れてはならぬ名前>のリプライズとして使用されるこの曲は、作品の中で重視しているテーマを強調していると共に、特別な力は持たなくても自分のことを信じ魔法使い達を信じることを決めた賢者と、強い力に憑りつかれるジュードの対比の役割も果たしている。

<共に戦う者たち>は状況の変化の象徴、テーマの強調でもありながら、どこか「最終話でオープニングテーマが流れたら勝ち確」のような、アニメ作品の文脈のようなものも感じさせる。冒頭に書いたような、欧米のミュージカルに見られる特徴と日本特有の文化の融合による効果がここにはある。

こういった豊かなリプライズ、<しらべもの><てめえは右で俺は左><僕の騎士様>のように一度聴いたら覚えてしまうような曲の中で、賢者の歌う<ほんの小さな信頼>のハ長調のメロディの素直さは却って強調される。

■オズ・アーザーのリプライズと「希望」の象徴の帰結
最後に、本文でアーサーのテーマかつ希望のテーマとして使用されてきたフレーズのリプライズと、オズ・アーサーを縦軸に据えた物語の中での役割について述べる。
<深い溝>の中で使用されたフレーズは、第1章終盤<一筋の光>で賢者、アーサーによって希望を象徴するように使用される。第1章の中ではこの章における賢者の変化を強調するために使用されたこの曲は、第2章に入ると別の意味を帯びる。
第2章において<逃れられぬ宿命>でオズによって使用されると、この曲はオズとアーサーの繋がりを示唆するものとなる。

第3章においてこのフレーズが使用される<その背中 その背丈>では状況が少し変化している。第1章<深い溝>の中でオズはアーサーと違うフレーズを歌い、第2章<逃れられぬ宿命>ではオズのみが歌うが、第3章では同じ曲のなかで同じフレーズを二人が歌う。第1章の再会から、お互いを思っていることを示唆されながら曲の使用方法としても交わらずにいた二人だが、アーサーはオズの思いの一端を知り、二人のフレーズが交わる。

そしてこのフレーズの縦軸が最後に辿り着くのが<指先から始まる絆>だ。期待や未来を感じさせる、上へ登っていくようなフレーズがインストで使用されながらこのフレーズのリプライズに辿り着き、<ほんの小さな信頼>もリプライズされる。この曲が賢者とオズが手を取り、知らない世界で初めて出会った魔法使いたちとの絆を感じさせる曲でありながら、因縁を抱え魔法使いという同種の中でもすれ違い続けている魔法使い同士の関係性においても希望を感じさせる楽曲となっているのは、ここに至るまでにオズ・アーサーが繋いだ縦軸があるからだと言えるだろう。

【さいごに】

本三部作は<始まりの合図>のリプライズとなる<始まりの終章>で幕を閉じる。元の曲に返って来ながら<集いし者たち>のリプライズを歌詞を変えて繰り返し、賢者の「これは始まりの終章」(引用6)というフレーズが挟まれるなど変化しているこの曲は、まるで長い年月を生きている魔法使い達の関係や人間たちとの確執が簡単には変わらないようで、それでもどこか少しずつ変化しているような様相を思わせる。音楽劇の要素、ショーのような要素、日本のアニメ文化に根差したような音楽の使用方法など、ルーツのことなる様々な特徴を併せ持ちながら一つのテーマを象徴する作品として同じ方向を向いている本作品は、本編内で示されているテーマのように、バラバラの要素を持っているために一つになれば広い景色を見渡せるような作品となっている。
祝祭シリーズも公演が続いており、夏にはPart2が上演される本作の更なる進化を楽しみにしている。

【参考文献・映像資料】
舞台『魔法使いの約束』第1章 (脚本・作詞:浅井さやか 作曲:坂部剛)2021年初演
舞台『魔法使いの約束』第2章 (脚本・作詞:浅井さやか 作曲:坂部剛)2021年初演
舞台『魔法使いの約束』第3章 (脚本・作詞:浅井さやか 作曲:坂部剛)2022年初演
舞台『魔法使いの約束』祝祭シリーズPart1(脚本・作詞:浅井さやか 作曲:坂部剛) 2023年初演
『レ・ミゼラブル』(脚本・作曲:クロード=ミシェル・シェーンベルク)1980年パリ初演
小山内伸『ミュージカル史』2016
日比野啓他『戦後ミュージカルの展開』2017(8-39)
日本テレビ『世界一受けたい授業 世界的演出家が教える!人生で一度は見てほしい! 日本の舞台』2022年1月放送 世界的演出家が教える!人生で一度は見てほしい! 日本の舞台|世界一受けたい授業|日本テレビ (ntv.co.jp)

【歌詞引用】
(引用1)舞台『魔法使いの約束』第1章より 「始まりの合図」(作詞:浅井さやか)2021
(引用2)『レ・ミゼラブル』より「Who am I? / The Trial」(作詞:アラン・ブーブリル)1980
(引用3)舞台『魔法使いの約束』第1章より「出会いは満月の夜」(作詞:浅井さやか)2021
(引用4)舞台『魔法使いの約束』第1章より「潜む声」(作詞:浅井さやか)2021
(引用5)舞台『魔法使いの約束』第2章より「銀色の三日月 真夜中の墓地」(作詞:浅井さやか)2021
(引用6)舞台『魔法使いの約束』第3章より「始まりの終章」(作詞:浅井さやか)2022

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