秋という趣に酔っぱらう自分を笑え

すっかり秋である

秋はいつもそっと私の後ろから近づいてきて、隣を通り過ぎるときに軽く肩をポンポンと叩いて、振り向いた私に微笑んで追い越していくような登場をしていく。私はその後姿を見つめて改めて気づくのが秋のような気がする。「小さい秋見つけた」というくらいなので草木が少しずつ色づき始めるように変化をしていく。「おー!夏だ!暑いぞ!海だ!ビールだ!サンシャイン!!」みたいな大きな感じで秋はやってこないと思う。

熱帯夜でタオルケットを蹴っ飛ばしたりしていた寝苦しい夜も日を追うごとにきちんと朝まで身体にかけたままになっていて、先日から掛布団を出してきて寒い寒いと言いながら寝てしまっている。寝苦しさも無くなって翌朝は心地よい肌寒さにスッキリとした寝起きを迎えられている。布団に入って5秒で寝息をたてている。

街の中でも青い色をメインにした広告から赤や黄色や茶色の暖色が増えてきて、栗や芋やカボチャの写真と共に甘いお菓子がポスターになって和洋菓子店のショーウィンドウを飾っている。コンビニのあったかおでんやほっかほか中華まんコーナーが店内で大きな顔をしはじめる。

徐々に心の中を秋色に染めていくのである。

そしてそうやってぼーっとしているうちに季節が移っていくんだよなあ。
あー秋だなあ…などと感傷に浸り始める。心の中の思い出のアルバムを開き始める。
私の一番好きな11月、いくつかあるカメラの中で一番手頃なミラーレスあたりを持って公園や街路樹をめぐりたい。星空も綺麗に見え始める。流星群や満月が見えたら望遠鏡持って山の上で星景写真を撮りたい。紅葉した銀杏並木や紅葉で燃える山肌に心を打ち震わせたい。
そういうポエティック満載な欲望があふれて生活に気力に溢れてくると仕事も楽しくなってついつい余計なことまでして忙しくなってしまう…

…ハッと気づくと12月、寒くてそれどころでなくなる。先生も走り出すし年末年始を休みたい人達が猛然と働きだして余暇を考える余裕すらなくなってしまうのである。毎年猫の手まで借りたくなるくらいだ。猫可愛いよ猫。
「ごぉぉぉ~!冬だごぉぉぉ~!冬将軍様がやってきたごぉぉぉぉ~!」という鳴り物入りで寒波と一緒に冬の登場となる。

私の思う秋は、ささやかな心の実りを赤く色づけてそっと音もなく立ち去っていくものなのだ。