日本のコンテンツには専門知識が足りない

誰かが言ってた。「グーグルもアマゾンも数学や統計学の専門知識をふんだんに投入しているのに、日本のIT起業はそうではない」。たしかに日本のIT起業はマッチング(お見合い)型が多く、たいてい専門知識が不要で、高卒か文系でも仕様が書ける感じがする。

コンテンツにもそれを感じる。日本のコンテンツは常識(高卒の知識)で書かれるものが多い。法廷ドラマも、法律知識のない脚本家が恋愛ストーリーの背景を法廷にもってくるだけで、弁護士ならではのストーリーがあまりない。主人公が弁護士である必然性すらない場合がある。

最近、「NUMB3RS」というアメリカドラマをずっと見ているが、とても面白く、よくできている。これは刑事事件を、数学の天才が数学の考え方で解決するという40分の連続ドラマ。数学の知識がないと書けない脚本だ。

数学の理論の部分は我々にはわからないが、専門家が見てもちゃんとできているそうだ。我々のように数学が苦手で、細部を理解できない者にとっても面白いことは重要なポイントで、「面白い」は、必ずしも「わかる」ことを前提としないのである。(ここで、日本のテレビは「わかる」ことを重視しすぎて「面白い」を削っていることに気づく)

本田圭佑をとりあげたNHKの「プロフェッショナル」は、一貫して人生論、浪花節で終わってた。もちろん本田圭佑が語るのだから、これはこれで面白い番組ではあった。いろいろ語っていたが、「辛かった、辞めようと思った、でも頑張った」に尽きる。大衆にはこれで受けると思ったかもしれないが、知識がない人でも筋書きが書ける。

同じくNHKのサッカー番組では、スペイン代表のシャビをとりあげた「ミラクルボディー」が優れていた。スペインのサッカーは細かくパスをつないでシュートに持っていくことに特徴がある。そのサッカーの中心点になるのがシャビだそうだ。

番組では、一試合の平均パス数のうちシャビがからむものがいくつあると、統計の話から始まる。シャビはプレー中、細かく首を振って状況を確認しているが、その間わずかに0.5秒。その0.5秒で、どのくらいの状況把握ができるのか、実験室で心理学のテストが始まる。他のサッカー選手と比べて、圧倒的に空間と位置関係を正確に把握していることが実証される。

つぎに、考えられるいくつものパスコースから、どのコースを選ぶか。瞬間的な判断で、脳のどの位置が反応しているかを調べる。日本のサッカー選手は脳の前の部分(論理脳)を使うが、シャビは、奥(直観脳)の部分で判断いていることがわかる。それは、将棋のプロが、手順を読まずに局面全体から次の一手を決めるときに使う脳と同じ部分だそうだ。

では、そのシャビの直観はどこで訓練されたのか。スペインのサッカー教育の話になる。スペインのサッカークラブの練習方法が紹介される。子どもたちが、パスコースを瞬時に判断する練習を繰り返ししている。シャビの天才は、こういう教育システムのたまものだとわかる。

そのシャビも、背が小さいため、運動能力に劣ると判断されて二軍扱いされていた。あるスペイン代表監督が、体格とスピード本位のサッカーではなく、小さい選手を使った細かなパス回しのサッカーに方針に切り替えたため、シャビが抜擢されることになった。

また、シャビ一人ではシャビの良さを発揮できない。シャビのパスを受ける創造性あふれる選手も必要だった。それがイニエスタだった。イニエスタの能力は他の選手と違い…。

と、徹底的に実証的、技術的で科学的な番組だった。あまりの内容の濃さに口をあんぐり開けて見ることになった。本田圭佑の「プロフェッショナル」は10年後にはあまり価値のない番組になるだろうが、「ミラクルボディー」のほうは100年残る普遍性をもった番組だった。

アメリカの法廷ドラマで忘れられない作品がある。LAローという連続ドラマ。ある回では、重度の身体障害をもつ赤ちゃんが、家庭内で不審な死を遂げる。はじめ夫婦は共に泣き、慰め合っているが、あるとき青ざめた顔をした妻が、弁護士のところに飛び込んできて「夫が怪しい、夫が殺したのでは」と言う。弁護士が調査を進めると、夫はショックを受け、「なぜ妻がそんなことを言うんだ?」そして「もし妻がそんなことを言うなら、ひょっとしたら、その理由は…」とその晩、子ども部屋で妻が怪しい行動をとっていたことを告白する。そこから、夫と妻の罪のなすりあいが始まる。

最後には大げんかになるが、どっちが犯人かわからない。閉じた家庭内での事件であり、状況から、夫か妻かどちらかが赤ちゃんを殺したことが明らかなのだが、どちらが犯人か最後までわからない。結局、裁判では「疑わしきは罰せず」の法理で二人とも無罪になる。裁判が終わったとき、弁護士は大変な瞬間を目撃する。夫婦はエレベーターの中で手をつないでいたのだった。

ここから先は

380字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?